シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は呼吸器専門医、日本鋼管病院 呼吸器内科の田中希宇人医長が喘息について解説。
原因や最新治療薬、最近は喘息による死亡者が減った背景などについて語る。

この記事の画像(9枚)

喘息とは

喘息とは気道、いわゆる空気の通り道の慢性的な炎症が病気の本態となります。
気道の狭窄、いわゆる空気の通り道が狭くなってしまうことによる症状、例えばヒューヒューいうような喘鳴(ぜんめい)、息苦しさ、胸苦しさ、咳などが特徴的な症状になります。

特に夜や明け方に調子が悪い、あるいは一定の季節で調子が悪いといった波がある病気です。
発症する時期によって小児喘息、あるいは成人発症喘息と呼ばれます。

小児喘息は、幼少期に喘息と診断されても、30~40%の患者は思春期から青年期には寛解すると言われています。

その反面、約半数の患者さんは大人になっても喘息を持ったままで成人喘息に移行してしまうことが言われています。

また、一度寛解を迎えても環境の変化、気管支炎や肺炎など肺の病気をきっかけに落ち着いていた喘息が再燃することもあります。

数多くの喘息患者の診察にあたっていますが、喘息という病気は決まった具体的な診断基準がありませんので、何回か外来で診察をしたり、話を聞いたり、あるいは検査結果を組み合わせて診断することが大事になります。

喘息の原因と悪化要因

喘息の原因はいくつか言われていますが、これといった原因の全てはわかっていません。
特に重要なのは、ダニほこりといった環境要因、あるいは花粉や吸入刺激になりうる粉塵刺激性のガスなどが空気の通り道に吸入されることも原因になります。

そして喘息の素因がある人が悪化する原因として、患者さんの個体要因といいますが、以前に喘息が悪化してしまうような病歴があったり、喘息のコントロールの状態、アドヒアランスといいますが薬がしっかり使えているか、そして、肥満タバコなどの併存症も患者さん側の要因として悪化の原因となります。

また環境側の要因としては、タバコを吸ったり、アレルゲン曝露寒冷刺激大気汚染、そしてウイルス細菌などの呼吸器感染症も悪化の原因となります。

喘息による死亡者が減少

喘息の最近のトピックのうちの一つとして、この10~20年で喘息による死亡がだいぶ減ってきていることが挙げられます。

以前までは喘息は命に関わる病気として扱われていましたが、治療ガイドラインがしっかりとできあがり、吸入ステロイドなどの喘息に対する治療薬が一般化しました。
喘息の通常の診療が日本全国どこでも受けられるようになったことが、喘息による死亡が減った大きな原因の1つと言えます。

そして、この10年に焦点をあてると治療薬としてバイオ製剤とか抗体薬といった喘息の原因の大元を抑えるような治療が一般的に使えるようになってきて、喘息の症状もだいぶ抑えられるようになってきました。
緊急で受診したり、入院となる大きな発作を起こす患者さんはこの10年でだいぶ減ってきた印象です。

喘息の治療薬

いつも使う薬としては喘息の気道の炎症を抑えるステロイドが1番大事になってきます。
一般的にステロイドは吸うことによって気道(空気の通り道)にステロイドを効かせる使い方をします。

その他、気管支拡張薬といって空気の通り道を広げる薬を吸入薬で使うことが一般的です。

喘息の発作が増悪な時、症状が悪化している時は、気管支拡張薬の中でもすぐに効く短時間作用型のいわゆる発作止めと言われる吸入を使います。
また、病院で治療する場合はネブライザーといってミストにしたモクモクした煙を吸うこともありますし、ステロイドを点滴、あるいは飲み薬で全身に効かせるのが増悪時の治療になります。

ただ、ステロイドを全身に長い期間使っていると、ステロイドは免疫を抑える薬なので感染胃潰瘍血糖値骨粗鬆症などのステロイドの副作用や併存症に注意が必要になります。

吸入のステロイドでしたら気管・気管支のみに効かせることができるので、副作用はゼロではありませんが安心して使って頂けます。

喘息の改善策

喘息の改善策は、空気の通り道の炎症の原因となる物質の回避や除去、喘息治療薬をしっかり活用することが大事です。
ほこりやダニ、カビ、ペットや花粉から遠ざかることも重要ですし、コロナ禍にやっている基本的な感染対策のマスク着用、手洗いを含む手指消毒をすることでコロナやインフルエンザにならない対策が重要になります。
 

田中希宇人
田中希宇人

日本鋼管病院 呼吸器内科 医長   医学博士。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本呼吸器学会専門医・指導医。臨床研修指導医。慶應義塾大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院や神奈川県のけいゆう病院で初期/後期臨床研修。慶應義塾大学医学部呼吸器内科学教室に入局し、呼吸器診療の傍ら肺がん、COPD、気管支喘息の基礎研究、臨床研究に従事。厚生労働省研究班会議『呼吸不全に関する調査研究』で『COPDと肺癌の関係』について研究/発表。2013年からは神奈川県川崎市の市立川崎病院での勤務を経て2021年6月からは日本鋼管病院に勤務。より多くの方に正しく分かりやすい医療情報を届けるために「キュート先生」の名前でブログ『肺癌勉強会』(https://lk.hatenablog.jp/)で肺がんに関する情報、Twitter(フォロワー18500人)・Instagram(フォロワー5000人)など幅広いプラットフォームで発信を続ける。医療情報サイト『Medical Tribune』で連載中。医療情報サイト『ケアネット』Expert Picker(2019年/2020年 年間ベストピッカー賞受賞)。また家では4児のパパとして『日本経済新聞』に月1回「時短家事」で連載(2020年8月で終了)。現在は地域の肺癌診療やコロナ対応に従事しつつ、新型コロナワクチンの普及活動の一環として「コロワくんサポーターズ」の一員として活動し、LINEチャットボット「コロワくんの相談室」の開発や管理、書籍『新型コロナワクチンQ&A100』『新型コロナワクチン・治療薬 最新Q&A50』を出版。