見せ場がなかった予算審議
立憲民主党に元気がない。党勢回復の兆しが見えない。大詰めを迎えた衆議院での予算審議は与党に主導権を握られて見せ場がないまま。通常国会で存在感を示すことができなければ、夏の参院選での苦戦は必至だ。1人区の「一本化調整」も足踏み状態で、党内のベテラン議員からは「参院選?ダメだと思うよ」との声が漏れる。泉健太代表のもと新しい執行部が発足してまもなく3カ月。立憲民主党は果たして立て直しを図ることができるのか。今年最大の政治決戦となる参院選に向けて早くも正念場を迎えている。
「柔軟対応」に攻め手欠く
2022年度予算案の審議は完全に与党ペースで進んだ。採決の前提となる中央公聴会も既に終了し、週明けにも衆院を通過する公算だ。最も早かった衆院通過の記録は1999年2月19日。それに次ぐスピード通過となるのは確実な情勢だ。なぜそんな展開になったのか。「一度決めた方針でも、より良い方法があるのであれば、躊躇なく改め、柔軟に対応を進化させていく」。岸田文雄首相は1月の施政方針演説でこう言い切った。予算委の審議で突き上げられると言葉通りさっさと方針を転換する。「朝令暮改」批判も意に介さない岸田首相の“柔軟姿勢”を前にして野党は攻めあぐねた。
この記事の画像(6枚)わかりやすいのが給付金の問題。18歳以下の子どもへの10万円の給付金が離婚した一人親家庭に届かない問題について、当初は「制度的な対応は難しい」と見直しに後ろ向きな見解を示していた。ところがその後の予算委で岸田首相は「不公平を是正し給付金が届くよう国としても見直しを検討したい」とあっさり方針転換。立憲民主党の主張をいつの間にか丸のみしていた。野党の追及は尻すぼみになっていった。
そして最重要課題である新型コロナウイルス対応に関しても方針転換に踏み切った。ワクチンの3回目接種について岸田首相は当初、「一律に何万人という大目標を掲げるのは、現状において適切なのか」と数値目標の設定に否定的な考えを示していた。しかし、接種の遅れを懸念する声が強まると、一転、「2月のできるだけ早期に、1日100万回までペースアップすることを目指して取り組みを強化したい」と目標を掲げた。野党の攻撃材料がまた一つ消えた瞬間だった。
「政策提案型」の質問不発
立憲民主党の泉代表は「政策立案政党」を目指すと訴える。予算委でも従来の「対決型」、「追及路線」から脱却し、「政策提案型」の質問に軸足を移そうとする姿勢が垣間見えた。
ただこれまでのところ思うような見せ場は作れていない。迫力不足との評価は否めない。審議時間の確保を優先し、「日程闘争」に持ち込まない手法にこだわったことも国会審議の与党ペースを後押しした。党内の若手議員は「国会で争点を作れていない。このままいくと参院選でも争点を作れないんじゃないか」と強い危機感を口にする。
参院選への協議進まず
今年の通常国会は参院選に直結している。会期は6月15日までで、閉幕直後には参院選が実施される。会期延長がなければ公職選挙法の規定で7月10日投開票となる見通しだ。選挙戦の勝敗を左右するのは全国に32ある改選数1の「1人区」。自民・公明両党の改選過半数阻止を目指す立憲民主党は、野党の候補者を一本化して与党側と1対1の対決構図を作りたい考えだ。
だが候補者一本化へのカギとなる立憲民主党と共産党との協議は始まってもいない。泉代表は先月、BSフジ「プライムニュース」に出演し、「これまでの関係については白紙ということを我々は宣言している」と語った。惨敗した2021年の衆院選総括を踏まえたものだ。総括の中では「限定的な閣外協力」で合意した共産党との連携について、「選挙戦に影響を与える結果となり、今後はより慎重に対応する必要がある」と明記している。
これに対し共産党は猛反発。小池晃書記局長は「政党間の協議もしないで一方的に白紙にするという議論は成り立たない」と強い不快感を示した。協議の見通しは立っていない。
「さあ、力を合わせて。」
立憲民主党のポスターには泉代表や西村幹事長ら代表選を戦った4人が勢揃いしている。キャッチコピーは「さあ、力を合わせて。」だ。
1人区での候補者一本化を本気で目指すのであれば、「力を合わせて」野党協力を推し進めるほかに選択肢はない。共産党とも協力に向けた話し合いを一刻も早く始めるべきだろう。参院選は衆院選とは違う。そもそも政権選択選挙ではない。あくまでも戦術的な選挙協力という観点で取り組むべき課題だ。
そして予算審議。衆院採決まで秒読みとはなったが、まだ岸田首相が出席する集中審議や締めくくり質疑が残されている。立憲民主党は新型コロナウイルス対策や経済安全保障準備室長が更迭された問題で徹底追及する構えだ。最後に政府・与党と切り結ぶことができるかどうか。参院での審議にも影響を与える重要な質疑となる。
野党第一党のトップには厳しい試練が次から次へと待ち構えている。衆院選敗北で引責辞任した枝野幸男前代表は「野党第一党の代表はこれほど厳しいものだということを実感した」と周辺に語ったという。泉代表のリーダーシップが問われている。
【執筆:フジテレビ 解説委員 安部俊孝】