18日に甲子園で開幕した春のセンバツ高校野球。注目は大会4日目第3試合で大垣日大高校(岐阜)と対戦する21世紀枠の代表校の只見高校(福島)。日本有数の豪雪地帯にある部員わずか15人のチームが夢をつかんだその取り組みとは?

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豪雪の町から21世紀枠代表校に

新潟との県境にある福島県只見町は積雪により生活に支障が出るほどの特別豪雪地帯にある。人口は4000人足らず。その約半数は65歳以上の高齢者で、県内で最も過疎化が進む地域の一つ。町にある唯一の高校が只見高校だ。

全校生徒は86人。今、その野球部が町の希望となっている。全国から3校が選ばれる21世紀枠は都道県大会ベスト16以上の高校であれば練習環境のハンデ克服や地域への貢献など野球の実力以外も選考の条件となる。只見高校は2021年、秋の県大会でベスト8に初めて進出し、21世紀枠の最終候補9校に選ばれた。

冬の厳しい環境も成長の糧に…

選手13人、マネージャーを含めてもわずか15人の野球部が目指す甲子園。

練習にも様々な工夫が見られる。冬の積雪は3mにおよび、11月下旬から4月上旬までグラウンドが使えないため、他の部活動と場所を分け合い、練習は体育館で行う。

バッティング練習は駐輪所で、硬球の代わりにバドミントンのシャトルを使用して行う。

雪かきだって彼らにとってはトレーニングの一つだ。

2年生の酒井悠来投手は「ピッチャーは下半身が重要なので、雪の上で体幹を鍛えられるので、足が一番鍛えられると思います」と冬の厳しい環境も成長の糧にする。只見高校のスローガンは『小さな学校から大きな可能性への挑戦』。野球部はその象徴的な存在だ。

小さな町に一足早く訪れた春

1月28日、出場校発表当日も大雪だった。

創部45年目の悲願へ。監督らが見守る中、校長室で吉報を待つ伊藤勝宏校長も緊張を隠せない様子だ。そして、午後3時過ぎ、校長室の電話が鳴った。

伊藤校長は右手で何度も渾身のガッツポーズを繰り返し「謹んでお受け致します。21世紀枠出場校の名に恥じぬよう、できる限りの準備をして大会に臨みたいと存じます」と応じた。

興奮を抑えきれない伊藤校長はすぐさま体育館で待機していた野球部員のもとへ。「本校野球部の甲子園出場が決まりました!本当におめでとう!」と伝えると、選手たちは感嘆の声を上げ、主将の吉津塁(2年)は感極まっていた。厳しい環境でも工夫を凝らし、過疎化が進む町の若い活力になっていることが選考で評価された。

只見高校の吉報に只見町の町民も「めっちゃうれしかったです」「頑張ればいつか夢は叶うんだということが分かりました」「町を挙げて町民全員で応援したい」と声を弾ませる。

主将「全力疾走を」

町民の期待を胸に主将の吉津塁(2年)は全力プレーを誓う。

「チームのモットーである全力疾走を甲子園でも徹底して、見ている人に元気を与えるようなプレーをしたいと思います」

小さな町に一足早く訪れた春。大きな甲子園でどんな旋風を巻き起こすのか注目だ。