7都府県に緊急事態宣言が発令された7日から、「休業要請」の対象をめぐり、国と東京都の攻防が続いた。さらに、隣接県との間での溝も生まれた。それぞれの主張の裏に何があったのか。

東京都「網羅的な休業要請を」

東京都は当初、休業要請の対象として、百貨店・ホームセンター、ショッピングモール、居酒屋、理髪店・美容室、大学などの教育施設、体育館、質店、スケート場、ゴルフ練習場、バッティング練習場、ナイトクラブ、パチンコ店などを検討していた。

東京都の当初の案
東京都の当初の案
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一方、政府は、対象が広く、経済への打撃が大きいことから、これに否定的だった。

そして、西村康稔経済再生担当大臣と小池百合子都知事が協議した結果、百貨店・ホームセンター、ショッピングモールなど一部の業種は休業要請の対象から除外されることになった。小池都知事が10日午後、記者会見で発表する。

都は営業の自粛を求める一方で、協力した事業者に対して独自の協力金制度をあわせて導入することを検討している。

一見、緊急事態宣言に伴い、休業要請を行うことは妥当なようだが、なぜ政府は否定的だったのか。政府関係者は「お金の問題ではない」と語った。

「パニックを生んではいけない」政府の苦悩

「政治はパニックを生んではいけない」。こう語る政府関係者の脳裏に浮かぶのは、小池都知事が緊急事態宣言による「ロックダウン=都市封鎖」に言及した直後、都内のスーパーの棚が空になった光景だ。

『あすから閉店します』となると、みんな殺到してパニックになる。『ロックダウン』の時と同じだ」と政府関係者は語った。確かに、筆者の周辺でも、都が理髪店・美容室の休業要請を検討していると報じられたことを受け、慌てて散髪に駆け込んだ人や、翌日からの休業を発表したコーヒーチェーンに列をなした人がいた。

政府としては、休業要請は、キャバクラ、パブなどの危険度の高いとされる必要最小限の業種にとどめ、あくまで7~8割の対人接触を減らす外出自粛要請の徹底によってコロナウイルスの蔓延を封じ込めたい考えだ。すなわち、パニックを防ぎ、安心して不要不急の外出を控えられるような環境を整えることに力点が置かれている。

接触機会の8割削減が達成されれば、2週間で成果が出る。8割削減が実行されていなければ、施設の使用制限を要請するなど、より強い措置に踏み切らざるを得ない

コロナ対策を担当する西村大臣はこのように述べ、“休業要請はあくまで外出自粛の効果がみられなかった場合に踏み切るもの”との認識を示した。

「なぜ違うことをやるのか」都と隣接県の足並みは

緊急事態宣言の中においても、諸外国と違い、人々の移動の自由は保証されている。そのため、東京都だけが強力な休業要請を行っても、神奈川や埼玉などの隣接県が歩調を合わせないと、意味をなさない。むしろ、隣接県に都民が押し寄せて感染リスクを高めてしまう可能性もある。

こうした中、神奈川県の黒岩知事は、フジテレビの番組で、「なぜ小池都知事が違うことをやるのか理解できない」と漏らした。隣接県との足並みがそろっていない現状がうかがえる。神奈川県は、国の方針と同様に、あくまで最初から施設の利用制限に踏み込む考えではないという。

どの主張が正しい?白黒付けがたい議論

1都3県の知事らは9日夜にテレビ会議を行った。その後、小池都知事は、内閣府で西村大臣と会談し、都は国とようやく折り合いをつけた。

休業要請をめぐる問題について、様々な立場から色んな意見が述べられてきた。それぞれ一理あるだけに、どれが正しいとは簡単には言い切れない。

「国難」とも呼ぶべき今の状況において、白黒付けにくい政策判断が多く生じる。こういう時こそ、あらゆる方面の意見に耳を傾けつつ、バランスのとれた意見を持つことが重要であると感じる。今後の議論の展開にも注目していきたい。

(フジテレビ政治部 山田勇)

山田勇
山田勇

フジテレビ 報道局 政治部