54歳キングカズJFL鈴鹿へ移籍

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サッカー界のレジェンドが大きな決断を下した。16年間を過ごした横浜FCを離れ、JFLの鈴鹿ポイントゲッターズに移籍したキングカズこと三浦知良、54歳。

わずか15歳でサッカー王国ブラジルへ渡り異例のプロデビューを果たすと、帰国後もJリーグの創成期を支え、初代MVPに輝く。日本代表としても歴代2位の55ゴールを決めている。2017年には50歳でゴールを奪い、ギネスの世界最年長記録にも認定された。さらに昨季、J1の最年長出場記録を更新した。

プロ37年目を迎える今も現役としてボールを追いかけ続けるサッカー界のレジェンド。そんな彼がなぜ新天地を目指すことになったのか。レジェンドが貫いてきた美学を移籍後、初めて『S-PARK』に語ってくれた。

キングカズJFL移籍の真相

「54歳のシーズンは本当に色んな意味で悔しいシーズンでした。そこはやはり自分自身が力不足だったと思います」

2月に55歳を迎えるカズは、この一年をこう振り返った。3月の浦和レッズ戦でJ1最年長出場記録を更新するも、リーグ戦に出場したのはその1試合のみ。後半アディショナルタイムの1分間だった。

出場機会を求め移籍したのは、Jリーグクラブではなく、JFLの鈴鹿ポイントゲッターズだった。兄・泰年氏が監督を務める三重県勢初のJリーグ入りを目指すチームだ。

J1・J2・J3の3部制で構成されるJリーグ、カズが移籍するJFLは、さらにその一つ下のカテゴリーにあたる。

プロだけでなくアマチュアクラブも在籍し、アルバイトを行いながらプレーする選手も。さらにスタジアムや練習施設などがしっかりと整備されているクラブも少ないのも現状だ。日本サッカー界のスターは環境に恵まれないJFL移籍を決断した理由をこう明かす。

「もうシンプルですよ。僕としてはピッチの上にどれだけ立てるかってことが一番重要で、その中でもし自分を必要としてくれてオファーがあるならばどこへでも行きたいと。試合に出たい、それだけです。JFLですけど、全体でいったら4部リーグ。皆さんももしかしたらビックリしているかも知れませんけど、サッカーはどこへ行っても一緒だなって思ってますので、それよりも自分がどういう気持ちでどういう情熱を持ってピッチに立てるかが一番大事なのでその気持ちがあれば大丈夫かなと思っています」

移籍を決断した最大の理由として挙げたのは、出場機会。たとえ4部リーグでも、55歳を目前としても、なお衰えぬ情熱が自身を突き動かした。

「大変なことではありますけど、ブラジルで36年前にプロになって、その中で本当に厳しい環境の中でやったこともあって、それこそ24時間のバス移動があったり、水しか出てこないようなシャワールームがあったり、色んな環境の中でやってきて、そういう感覚がまだ体の中に残っていて、まだ自分があの精神で情熱でできるんじゃないかと自分では思っています。どこかで戦える環境がまだプロとしてあるので、そういうチームがある限り僕はどこへでも行くと覚悟を決めていました

今年もプロ選手として戦う覚悟の言葉。その一方で結果が求められるプロの世界だけに、現役を長く続けることに対し、時に批判的な声も浴びるカズ。しかし、それすらも自分の活力に変える。

「応援してくれる人とアンチ、いろんな意見を全てエネルギーに変えて、周りの人が何と言おうが、自分はまだうまくなると信じてやっています。一番よくないのは外野の声で自分の心を乱すことがよくないんで、自分の信じる道を情熱を持って取り組むことが、乗り越えられる秘訣というか、やっぱり自分を信じることですよね。自分のやれることを精一杯やり続けることが大事なんじゃないかな。今の社会はどうしてもいろんなところからいろんな情報が入りすぎてしまうのでね」

年齢を重ねても衰え知らぬ情熱。周りに流されず、自分の信じる道を貫く。現役最年長54歳は、来月にはまたひとつ年を重ねる。

「まあ54歳ですか。54というと4という数字が縁起悪い。四ツ谷赤坂麹町、チャラチャラ流れる御茶ノ水。粋な姉ちゃん…ということで…寅さんの台詞ですね。今はそれに絡めて54を強く言っただけなんでカットしてください(笑)」

自らの人生を大好きな映画『男はつらいよ』の主人公の寅さんにユーモアたっぷりに重ね合わせたカズは、こんな言葉を続けた。

「去年の54歳のシーズンは本当にいろんな意味で悔しいシーズンだったんですね。そこはやはり自分自身が力不足だったんだなと思います。でも悔しさはあったんですけど、エネルギーっていうものはもっとありましたんで。常に練習という舞台で自分は本当にやりきった部分はあったんでね。多分それがなければ繋がっていかないと思いますんで、その54歳のシーズンを輝かせるためにも55歳のシーズンをいいものにしたいと思いますね」

格闘デビューした次男への思い

批判すらも自らのエネルギーに変えるメンタリティーは、サッカーとは別の道を選んだ息子についての話でも垣間見えた。

「なかなか誇りを持てない局面もあると思いますけど、親の背中というのを見てるんじゃないかと思います、子どもは」

「父親としての背中」それは2021年の大晦日、次男・孝太さんが総合格闘技「RIZIN」でプロデューした時もこう言葉を送ったという。

「リングに立てるのは僕の名前があるからだって本人はすごく自覚していましたし、それでもいろんな誹謗中傷があったということなんですけど、僕の場合でも称賛もあるかもしれないですけど批判もあるじゃないですか。周りのことは気にせずに毎日のトレーニングをコツコツと謙虚に感謝の気持ちを忘れずにやることが一番大事で、『試合が決まった以上、堂々としてろ』と言いました」

自らの美学を貫いてきたからこそ、息子へと送ることができる言葉だった。そして、孝太さんはリングサイドで観戦する父親の目の前でデビュー戦を白星で飾ってみせた。

「次男は高校に行ってもサッカーをやってたんですけど、『何でお前ヘディングしないんだ?』って言ったら『怖いんだよ』って。そういう人が格闘技やるって大丈夫なのかなって心配が大きかったですね。まあでも、ああいう姿を見て誇らしく思いましたよ」

キングカズの引き際とは

体操・内村航平(33)、野球・松坂大輔(41)、競泳・萩野公介(27)、サッカー・大久保嘉人(39)…この数カ月の間にスポーツ界を彩ってきた多くの名アスリートが現役生活に幕を閉じた。引き際・現役引退をカズは意識したことはあるのだろうか。

「2021シーズンでメンバーに入れない、試合に出られない、そういう日々が続く、その中でやっぱり悔しく思って…こうやってみんな気持ちが続かなくなってやめていくのかなと感じちゃうことはありますね。でも俺はそれが嫌だから『今日走るぞ』みたいなね。『俺はやめないぞ』という感じでずっとやっていますね」

プロ37年目、誰も到達したことがない領域で自らの「引き際」と戦い続ける日々。

「2019年のグアムキャンプ、あの頃と体も確実に違いますし、やっぱり疲労という部分で抜けにくくなったし、練習の量を落としても質は絶対に上げていく、時間は短いけど強度を上げていく、いろんなことを考えながら挑戦してやっていますけど、そういう作業が自分でできなくなったら終わりかなと思いますね」

年齢的な衰えを感じながらも体調管理やトレーニングを日々徹底し、試合出場に向けて準備を怠らないカズ。サッカーが好きだからこそ、最後まで向き合い続けたいと思う。

「引き際…そうですね、実際どうなるか分かりませんけども、毎年シーズン前にこうやってキャンプやってチームがなくてもキャンプやって、本当になかったら引き際じゃないですかね(笑)。毎回キャンプだけはやろうと思って、最後は練習で終わっていくっていう、いつも通り。練習やって最後はキャンプ張って終わる感じが良いかなって、そのときは好きなサッカーが続けられるじゃないですか、プロサッカー選手としての引き際かもしれませんけど」

新天地で迎える2022年も自らの信念に従い、ピッチを走り続けるキングカズ。自主トレで30歳以上も年の離れた選手たちとみっちりと汗を流してきた。

「1番はやはりクラブがJ3に昇格するという目標を強く持ってますので、その目標を達成したいというのがありますね。甘い世界ではないので、JFLでもしっかりしたパフォーマンスができなければ試合に出られなくなると思いますし、一つでも多く試合に絡んで一つでも多くゴールを上げること、それだけではないかと思います」

まずは3月13日のJFL開幕戦(ラインメール青森戦)出場へ。
55歳を迎えるレジェンドが、新たな挑戦への準備を着々と進めている。