危惧されていた討論会で敗者に

撤退を決めたブルームバーグ氏
撤退を決めたブルームバーグ氏
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ブルームバーグ氏がスーパーチューズデーで惨敗した最大の理由は、2月19日に初めて参加した民主党候補者TV討論会で袋だたきに遭い、誰の目から見ても“敗者”となったこと。さらに2月25日に行われた2度目の討論会でも挽回できず、評価を落としてしまったことが大きい。

ブルームバーグ氏はちょっとどもりがちなところがあり、人前で丁々発止とやり合うディベートには苦手意識をもっていたと思う。TV討論会に参加することが決まった際に、ブルームバーグ氏の側近はメディアの取材に対し「大丈夫だ。心配していない」と答えていたが、そんなやりとりが記事になるくらいに知る人ぞ知る“弱点”だったのだ。だからだろう、ブルームバーグ氏が去年11月24日に出馬表明してから3月3日のスーパーチューズデーまでの『100日キャンペーン・プラン』には、討論会への参加は想定されていなかった。巨額の個人資金でテレビCMをバンバン打てるのだから、TV討論会には出たくない!というのが本音だっただろう。

ルール変更でやむなくTV討論会に参加

ところが、民主党がルール変更をしたことで、ブルームバーグ氏はTV討論会に出ざるを得なくなってしまった。2月以前は参加条件が
①主要な世論調査で規定レベル以上の支持率を得ていること
②個人献金が規定レベル以上に集まっていること、
の2本立てだった。

献金は集めず選挙資金はすべて自己資金でまかなうブルームバーグ氏は、参加条件の②を満たさないので討論会には声がかからなかったのだが、、、民主党が②の条件を外し、①だけになったため、ブルームバーグ氏は参加条件を満たしてしまったのだ。参加を断れば『逃げた!』と言われることになるので受けざるを得ない。それによって『100日キャンペーン・プラン』の最後の20日間に狂いが生じるのを甘受しなければならないが。

党の立場からすれば、主要な候補者を全米の有権者に知ってもらうためにもTV討論会に参加してもらわねばという理屈が立つ。一人だけ一度も討論会に参加しないというのも他の候補者との関係でフェアーではないとも言える。そこには党内ポリティクスが働いたと考えるのが自然だろう。

別の言い方をすればブルームバーグは、2016年1月に共和党討論会に欠席したトランプのような胆力はなかったのだ。アイオワ党員集会の直前のTV討論会だったが、トランプの欠席理由は「討論会の女性モデレーターと仲が悪いから」だった!!

ブルームバーグ失速はバイデン復活と裏表

これとほぼ同じタイミングでバイデンの復活と中道派の一本化が進む。サウスカロライナ州予備選の前に行われた最後のTV討論会では、当時トップランナーのサンダースがへこまされ、バイデンは“勝者”として4日後の投票と圧勝へとなだれ込んだ。直後にブティジエッジ氏が選挙戦から撤退。続いてクロブシャー氏も撤退し、二人ともバイデン氏を支持すると表明した。遅かれ早かれ撤退すると見られていた二人だが、そろいもそろってスーパーチューズデー前に、さらにクロブシャー氏は地元ミネソタ州の予備選を放棄してのバイデン支持だ。ちょっと出来過ぎでしょう。

加えて筆者が注目したのは、オバマ時代に上院民主党院内総務を務め、今も民主党重鎮のハリー・リード氏が同じタイミングでバイデン支持を打ち出したこと。実は、ブルームバーグ氏は出馬表明した直後にリード氏を訪ね、挨拶と協力要請をしていたのだが。

もう一人。テキサス州で影響力があるベト・オルーク氏もバイデン支持を公にした。彼は2018年の中間選挙で共和党のテッド・クルーズ氏を崖っぷちまで追い込み、とりわけヒスパニックと若者に人気がある。共和党の牙城とされたテキサス州がもしかすると民主党が勝てる州に変わるかもという変化を象徴するような人だ。テキサス州でバイデン勝利!の一因になったに違いない。

ブルームバーグ氏は、バイデン氏は中道派をまとめる強さはないという情勢判断で出馬に踏み切った経緯がある。バイデン氏もウクライナ疑惑のキャストの一人であり、それは民主党内でも対トランプでも大きな弱点になるからだ。その他の中道派の候補者は力不足なのは明らか。であれば自分が立とうということだった。ニューハンプシャー予備選までは読み通りの弱いバイデンだったが、そこからスーパーチューズデーまでの20日間で、畳みかけるようなバイデン推しが画策され、結果的にそれはブルームバーグ堕としとなった。それは出口調査でも判明した『多くの有権者が投票前の数日の間に投票する候補者を決めた』という投票行動と相まってパワーアップした。大どんでん返しである。

予備選挙は2016年の焼き直しに

バイデン前副大統領
バイデン前副大統領

バイデン推しの議論は「極端な主張のサンダースでは幅広い支持を期待できず、トランプに勝てない」というのだが、それは4年前のヒラリーVSサンダースの対立の理屈と全く同じだ。当時は党中枢がサンダースを嫌い、ヒラリーを推す姿勢を露わにした電子メールが流出し、党全国委員長が辞任する大騒ぎになった。今回は電子メールの流出はないものの、露骨なバイデン推しを見ると、党の分断の構図と党中枢のマインドセットは全く変わっていない。

であれば、バイデンVSサンダースの一騎打ちは、4年前の焼き直しだ。どちらかが代議員の過半数を獲得するまで予備選挙は続く。スーパーチューズデーの集計が出そろったところで、2人はタイの状態だ。決着は何ヶ月か先だろう。

若者たちはどこへ消えた?

その意味で気になるのが、若者たちの動向だ。全有権者に占めるベビーブーマー数をミレニアルズとZ世代が超え、その政治的影響力は拡大しつつあるはずなのに、スーパーチューズデーの出口調査の結果を読むと、投票所に押しかけたのは中高年で、若者たちの影が薄い。18歳~29歳は8人に1人しかいない。逆に3人に2人は45歳以上だ。

バイデン氏の支持層はシニア層と黒人。サンダース氏は若者とヒスパニックということを考えれば、バイデン氏が14州のうち10州で1位という結果も頷けるのだが、ことはそれでは済まない。

若者は民主党の大切な支持層だ。若者と女性とマイノリティーがこぞって11月3日に投票所に来てくれないと、民主党の大統領候補が誰であれトランプには勝てない。4年前はサンダース支持の若者たちが、民主党大統領候補のヒラリーに投票しに来てくれなかったことがトランプ勝利を招いたという見方もある。 今回もその二の舞を演じることになってしまうのだろうか?和解と協力の道はあるのか?スーパーチューズデーを終えて、民主党の悩みは深い。

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【執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋】
【表紙デザイン+イラスト:さいとうひさし】

風間晋
風間晋

通訳をし握手の感触も覚えていたチャウシェスクが銃殺された時、東西冷戦が終焉した時、現実は『過去』を軽々と超えるものだと肝に銘じました。
「共通の価値観」が薄れ、米も中露印も「自国第一」に走る今だからこそ、情報を鵜呑みにせず、通説に迎合せず、内外の動きを読み解こうと思います。
フジテレビ報道局解説委員。現在、FNN Live news α、めざまし8にレギュラー出演中。FNNニュースJAPAN編集長、ワシントン支局長、ニューヨーク支局記者など歴任。