いじめや不登校、戦争や病気など様々な理由で十分な義務教育を受けることができなかった人たちが学ぶことができる北海道初の「公立夜間中学校」が、2022年4月札幌市に誕生する。
学ぶことは生きること。学校は多くの人の希望になっている。
この記事の画像(16枚)勉強したい、友だちを作りたい。学び舎は心の星。その名は「星友館」だ。
「勉強したい」と願う日々
吉野 太さん(57):
店員さん、会計をお願いします。きゅうりとなすも
近所の八百屋で買い物をする札幌市の吉野太さん(57)。
生まれつき脳性小児まひで、足に障害があった。足の機能を回復するため、小学1年生から24歳までの18年間にわたる入院生活で、義務教育を受けることができなかった。
字を読むことが苦手で、看板や役場の書類など様々な場面で壁にぶつかった。
吉野 太さん(57):
文字がわからないから、えらい苦労したことがある
どうしても勉強がしたい。3年前、北見市から札幌市に引っ越し、自主夜間中学校「遠友塾」に通っている。
吉野 太さん(57):
ここに来るようになったら、ちょっとだけでも自分で(文字を)読めるようになりました。「お~読める!」って。前にちょっとだけでも進んでいる、その1個ずつ、少しの進歩がめちゃめちゃうれしい
通う人たちは様々だ。戦時下の混乱や貧困で十分に学ぶことができなかった人たち。現在はいじめや不登校で昼間の学校に通えない子どもも加わり、学ぶ場としての1つの選択肢になっている。
さらに、外国人の生徒も増えてきた。
バングラデシュ出身:
自分の国にいると母国語で全部できるんですけど、私たちは(日本の)学校に行って勉強をしていないから、わからない。使い方も難しいんです。勉強したいです
ただ、自主夜間中学校は週に1度。昼間の中学校さながらの学校生活を送ることはできない。ここに通う人たちが待ち望んできたのが、「公立の夜間中学校」だった。
待ち望んでいた「公立の夜間中学校」
吉野 太さん(57):
学校生活ってほとんど過ごしたことがないので、公立の夜間中学校に行って、人の輪をもう一回り大きくするのが目標です
悲願だった公立夜間中学校。生徒を受け入れる準備も着々と進んでいる。
星友館中学校 工藤 真嗣 校長:
こちらが教室です。机も生徒が使えるように準備を整えているところですし、テレビも電子黒板を導入して、よりわかりやすい授業になるように準備していきたい
そうした思いを受けて2022年4月に誕生するのが、北海道内初の公立夜間中学校「星友館」だ。札幌市中央区の資生館小学校に併設される。バリアフリー施設のため,吉野さんも安心して通うことができる。
8月には、公立夜間中学校についてのシンポジウムも開かれ、入学を考える幅広い年代の人が参加した。授業は週に5日、午後5時30分から9時10分まで。
授業にかかる費用は月に500円ほどで、国語や数学など5教科の授業をはじめ、音楽や体育、道徳など昼間の中学校と同様の教科を学ぶことができる。
さらに1人1人の理解度に対応できるよう、授業は学年を問わずコース別に行われる。
星友館中学校 工藤 真嗣 校長:
いろんな人が集まってくると思いますが、1人1人の生徒にあった学びを進めていくのが星友館中学校の使命。生徒の学びたい気持ちに十分応えられるように、開校までしっかり準備をしていきたい
一方で、遠友塾を設立した工藤慶一さんは、多様な人を受け入れる夜間中学校の特性から、変化に対応する柔軟性が必要だと訴える。
遠友塾を設立した 工藤 慶一さん(73):
常に夜間中学校はたくさんのいろいろな人が来て、次々と新しい時代になる。その都度、改善をしていかなければいけないんですよ。この改善がとどまっちゃダメなんです。工夫すると必ずできるから、逃げるなと。逃げるんじゃないということを必ず言っています
憧れの「学校生活」へ膨らむ期待
吉野さんは、星友館で学力をつけて高校に通いたいと考えている。
吉野 太さん(57):
来年から持って通うんだなと思いながら、夢を見ながら毎日、これを出して毎日見て喜んでいました。本当に心待ちにしています
修学旅行や運動会など、かつてできなかった行事も楽しみだ。
吉野 太さん(57):
(公立夜間中学校は)学びたい人の希望だと思います。目標がないと、人って生きていけない。わからないことがわかるようになったら、結構うれしいもんだと思います
勉強すること、友だちと過ごすこと。吉野さんが大切なものを取り戻す旅がようやく始まる。
北海道初の公立の夜間中学校「星友館」の概要だ。
・2022年4月開校予定
・平日の週5日 4時間授業(午後5時30分~午後9時10分)
・5教科および体育などの実技教科
→課程修了で中学校の卒業資格
対象:義務教育の年齢(15歳)を超えている人
札幌市の他周辺11市町村に住む人(小樽市、岩見沢市、江別市、千歳市、恵庭市、北広島市、石狩市、当別町、新篠津村、南幌町、長沼町)
「専任」の校長を配置し、単独中学校としての開校は全国で初となる。校長が常駐して専念できるため、改善点を見つけ、迅速に対応できるメリットがあるといういうことだ。
12月25日まで生徒を募集中。新たな形の学び舎に、注目と期待が高まっている。
(北海道文化放送)