ミシガン州「ラストベルト」錆ついた町は今

気温はマイナス5度。
数日前に降った雪が、高速道路の脇に排気ガスをかぶって茶色い塊になって残っていた。

取材班は2019年12月初め、アメリカ中西部にあるミシガン州グランドラピスを訪れた。「ラストベルト」と呼ばれる地域で、市内から20分も走るとそこには工業地帯が広がっている。しかし、幹線道路沿いに「For Sale」(売り出し中)の看板をいくつか目にした。閉鎖に追い込まれた工場が売り出されているのだ。

工場が売り出されていることを示す看板(ミシガン州グランドラピス郊外)
工場が売り出されていることを示す看板(ミシガン州グランドラピス郊外)
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この地は、まさにトランプ大統領が4年前、大統領選の投票日前日に最後の演説を行った地だ。2016年11月7日、南部フロリダ、ノースカロライナなど激戦州の4か所で演説を終えミシガンに到着した頃には、日付が変わり投票日当日の未明になっていた。

トランプ大統領を泡まつ候補から有力候補に引き上げたコーリー・ルワンドウフスキ元選挙対策本部長。
トランプ大統領を泡まつ候補から有力候補に引き上げたコーリー・ルワンドウフスキ元選挙対策本部長。

この地で、2016年の大統領選でトランプ大統領の初期の選挙対策本部長を務めたコーリー・ルワンドウフスキ氏を取材することが出来た。

2020年11月に控えたトランプ大統領の再選に向けて、各地を回り支援を呼びかける活動をしている。ジーパンにトレーナー姿のルワンドウスキ氏は歯に衣着せぬ語り口で、相手を自分のペースに巻き込んでいく「出来るビジネスマン」といった印象で、明らかにワシントンにいる議員関係者とは別の人種だ。

各地を回りトランプ大統領の再選支持を呼び掛けるルワンドウフスキ氏 ミシガン州にて
各地を回りトランプ大統領の再選支持を呼び掛けるルワンドウフスキ氏 ミシガン州にて

ルワンドウフスキ氏は泡まつ候補だった当時のトランプ大統領を有力候補に押し上げたことでも知られる。トランプ大統領の規格外の発言は、当初から度々物議をかもした。キャンペーンチームの中には大統領候補らしく発言を慎むべきだといさめる人もいたが、ルワンドウスキ氏は「Let Trump be Trump(ありのままでいい)」と主張し、結局既存の政治家と一線画すトランプ大統領のスタイルが受けた。

2016年11月8日 投票日の未明にミシガン州グランドラピスで開催された集会 演説は午前1時過ぎまで続いた
2016年11月8日 投票日の未明にミシガン州グランドラピスで開催された集会 演説は午前1時過ぎまで続いた

トランプ大統領の「体内時計は犬並み」

身近にトランプ大統領を見てきたルワンドウスキ氏はトランプ大統領について「体内時計は犬並みだ」と笑いながら言った。

その真意を聞くと、
「会議でトランプは指示を出すと、その会議が終わる前に、『もう完了したか?(相手に)電話をかけたのか?』と畳みかけてくる。決まって私は『まだ会議の最中で席も立っていないですけど』と言い返すんだ」
「彼はほとんど寝ずに行動ができ、ものすごいスピード感で物事を進めていくんだ」とも評価した。

そして、2016年トランプ大統領が投票日の未明にミシガンで 行った最後の演説の、その後の顛末を話し始めた。

「ミシガンでの演説を終え、自家用ジェットでNYに到着した時には午前3時半を回っていた。仮眠を取った後、トランプはニューヨーク五番街のトランプタワーにスタッフを召集したんだ」

東部時間午後6時に開票が続々と始まり、出口調査などでヒラリー・クリントン候補が優勢とテレビは盛んに報道していた。

民主党の牙城で起きた大どんでん返し

「不機嫌にテレビを見ていたトランプはこう言ったんだ。『まだ投票は終わっていない。西海岸の投票締め切りまで3時間以上ある。何かできないのか!』」

「こうして、トランプ、娘のイバンカ、長男と次男も一緒になって、片っ端からラジオ局に電話をかけたんだ。そして、電話で生出演したトランプはこう語りかけた。『報道を信じるな。選挙はまだ終わっていない。どうかトランプに一票を』と」

このやり方が、実は当選に大きくつながったことを示す世論調査結果がある。アメリカの主要メディアで作るナショナル・エレクション・プールの出口調査によると、選挙直前の最終週になってから投票先を決めた有権者の割合は全米で13%に上った。勝利の鍵となったラストベルトの接戦州を見ても、ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンの3州で13%~15%という結果になっている。またこの3州では最終週に判断した有権者の半数以上がトランプ大統領に投票していた。

接戦州で投票ギリギリに起きたトランプ支持への流れが勝利を決定づけたと言える。中西部のミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシン。20年以上も民主党の牙城となっていた地域に起きた大どんでん返しだった。

2020年 国民はどんな審判を下すのか

ルワンドウフスキ氏は2020年の大統領選をこう見る。

「トランプが大統領になって、アメリカの経済は好景気に沸いている。投票箱を前にアメリカ国民は胸に手を当てて考えるだろう。『4年前と今、生活が豊かなのはどっち?』そうすればおのずと、トランプ大統領を再選させることを選ぶだろう」ルワンドウフスキ氏は自信をにじませた。

車の部品工場から解雇された男性(中央)将来に不安を感じていた
車の部品工場から解雇された男性(中央)将来に不安を感じていた

私は、グランドラピス郊外で取材した中年男性の言葉を思い出していた。
男性は数日前、車の部品工場の閉鎖に伴いリストラされたばかりだった。

「失業率はとても低いと言われているが、あるのは条件の悪い仕事ばかり。家族をどう養っていけばいいのか、、、不安だ」

4年前、トランプ大統領は「製造業の復活」を約束し当選した。しかし、うなぎ登りの株価や、歴史的な失業率の低さの中でも人々の生活は苦しく、支持離れにつながっている動きも見逃せない。実際に、民主党有力候補のバイデン前副大統領がラストベルトでトランプ大統領を僅差でリードしているとする世論調査の結果もある。

ミシガン州グランドラピスの郊外では閉店した商店も目に付いた
ミシガン州グランドラピスの郊外では閉店した商店も目に付いた

2月3日には、アイオワ州で民主党の党員集会が開かれ、大統領選が本格始動する。

4年前、トランプ大統領を積極的に支持した人、クリントン氏に投票することを躊躇してトランプ大統領に投票した人、最後はクリントン氏が勝つのだろうと思い投票しなかった人、元々選挙に関心がなかった人・・・

10か月後の投票日に、トランプ大統領の4年間に国民がどのような審判を下すのか。アメリカ人の本音に耳を傾けていきたい。

【執筆:FNNワシントン支局長 ダッチャー・藤田水美】

「2020アメリカ大統領選」すべての記事を読む
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ダッチャー・藤田水美
ダッチャー・藤田水美

フジテレビ報道局。現在、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院(SAIS)で客員研究員として、外交・安全保障、台湾危機などについて研究中。FNNワシントン支局前支局長。