木材から“水滴”を彫り出した作品が、Twitterに投稿され話題になっている。

板から水が流れ落ちたわけでも、板から水が染み出たわけでもない。言葉通り「木材から水滴を彫った」作品なのだ。

「木で水滴を彫りました」とのコメントと共に、木工作家の福田亨さん(@TF_crafts)が投稿した画像に映るのは、こげ茶色の平面の板が1枚。

板に上からポタリと零れ落ちた水。板が水を弾いているのか、水は染み込むことなく丸みを帯び、“水滴”となって残っているようにしか見えない。

木で彫られた水滴
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しかし実はこの“水滴”が、木の板を彫って作られた作品だというのだ。

長さ約23センチ、幅約10センチの木板を、水滴の部分を残して全体的に約1.5ミリ彫り、水の部分を浮き彫りにしている。

水滴を彫り出している途中過程

この彫刻にはTwitterでも「何を仰っているのですか?」「どうしても水滴にしか見えません」といった理解が追い付かない人が多くいるほか、制作過程を見て、「発想も技術も凄い」「凄すぎです!」と驚きと共に称賛するコメントが多く寄せられている。

リアルな水滴を生み出した作品にはそういった反響もあり、16万以上のいいねが付く人気となっている(6月1日時点)。

確かに反射する光の加減や水滴のふっくら丸みを帯びた様子といい、板に透明な樹脂を落とし固めたと言われた方が納得できる作品だ。拭いてみたくなったという人もいたのではないだろうか。

触っても木なので、水滴が消えることはない

とてもリアルな水滴の彫刻だが、そもそもなぜ木で水を彫るという発想になったのだろうか? ここまで木材で水を再現できたその方法とは何なのか。

福田さんに、いろいろ話を聞いてみた。

実は未完成「蝶の吸水シーンを作ろうと取り掛かった」

ーーなぜ水滴を彫ろうと思った?

本作は、蝶の吸水シーンを作ろうと取り掛かった作品です。水を表現することは決めていたので、どういった形で表現するか考えたのち、板に水滴を垂らした状態にすることで水の美しさを表現できるのではないかと思ったからです。


ーー1.5ミリ彫り下げた後は、どのような作業をしているの?

水滴は彫刻刀やのみを使ったのち、紙やすりで研磨して、布で磨きます。ロウ引き仕上げという伝統的な仕上げで艶を上げています。平面を均一に仕上げる事と、水滴と地面との境目を綺麗に仕上げる事が大変でした。

別の角度から見ても、本物の水滴のような出来栄え

ーー完成までにかかった時間は?

かかった時間につきましては伏せたいと思います。平面の部分を均一に仕上げることにかなり多くの時間を要しました。


ーー投稿には多くの反響があるけれども、どう感じている?

想像以上の反響に驚いてます。とても励みになります。
 

自然と人との距離感などをテーマにした完成品

木から水滴を生み出し話題になったこの作品だが、実はまだ完成ではなく工程には先があった。
その完成品がこちらだ。

完成作品「吸水」

「吸水」と名付けられた作品。ヤマキマダラヒカゲというチョウが一休みし、水滴を飲む様子が表現されている。

薄いチョウのはねの緻密な模様から1本ずつ細いながらもしっかりとした脚まで、実はこちらも木で全て作られているとのことだ。

脚や触角の細いものから、薄く模様のあるはねも全て木

ーーチョウはどうやって作っているの?

ヤマキマダラヒカゲは、模様は木象嵌という技法で、数種類の木を使い分けて模様を作っています。脚などは関節で組み、彫刻刀で細く仕上げます。触角も、幅のある木から曲線になるように彫刻刀で彫って細くします。


ーーチョウの制作の際のこだわりや苦労した部分は?

本物をよく観察して、特徴を掴むところに力を注いでいます。大きさや模様の正確性を掴むのが難しいです。

本当にチョウが水を飲んでいるかのよう

ーー作品「吸水」に込めたテーマを教えて。

吸水は、蝶が水を吸っているシーンですが、板の上に滴った水滴は自然に落ちたものなのか人為的に落とされたものなのか、蝶はどこからきたのかなど、自然と人との距離感などをテーマしてみました。

上から見るとはねの薄さがよく分かる

脚や触角、はねの模様まで1つ1つが繊細な技術で作られているからこそ、説明がなければ木で作られたとは思えない精巧さと美しさのある、リアルな作品に出来上がるのだろう。

福田さんは他にも、これまでさまざまな昆虫を題材に木工作品を生み出してきたという。気になる他の作品に関しても話を聞いてみた。

リアルに見えるコツは「僕も知りたい」

ーーいつから、木工作品を作っているの?

20歳のときからです。学生の頃から好きでやっていた木象嵌という技法で作品を作りたいと考え、木の色味や木目を活かせるモチーフであり、昔から好きだった蝶を作ろうと思い立ちました。

はね部分の作業の様子

ーーどういった際にアイデアを思いつくの?

日頃からどういう作品を作ろうかばかり考えています。テーマを決めてモチーフを決めて味わってほしいポイントを決めて…と一つ一つ決めていきながらアイデアを出していきます。


ーー今までの作品でのお気に入りを教えて。

キアゲハをモチーフにした「飛昇」という作品です。初個展でメインビジュアルとして制作した思い入れのある作品です。

蛹から羽化してこれから新たな世界へ飛び立つ瞬間をテーマに、成長を意味する麻の葉模様の組子で飾りました。

「飛昇」

ーー1番大変だった作品は?

「ni-wa 月夜」というオオミズアオをモチーフにした作品です。今までで一番大きなサイズの作品でしたが、工芸の指物技法で作る舞台の制作が難航したり、黒檀の仕上げがかなり苦労しました。

「ni-wa 月夜」は月明かりの元、桜の枝に佇むオオミズアオを作りました。モノトーン調に構成したので、月夜の薄明るい雰囲気を作っています。枝の支えにあしらった満月を模したシルエットや格子の舞台で、日本人の庭への心を味わっていただけると嬉しいです。

「ni-wa 月夜」

ーーリアルに見えるコツなどはある?

全て木彫刻で、着色もしていません。リアルに見えるコツは…僕も知りたいです…。本物をよくよく観察して、丁寧に作る事かなと思います。


ーー今後どういった作品を作っていきたい?

現状としても、まだ満足のいく作品がなかなかできないので、クオリティや表現力の質を上げていきたいです。モチーフとしては、いつになるかはわからないですが海外のモチーフにも着目していきたいです。

「飛昇」

本物と見間違えそうな出来栄えのこれまでの作品も、福田さん曰く「満足のいく作品ではない」という。新たに生まれてくる福田さんの木工作品は、どんな一瞬を切り取ったものとなるのだろうか?これからも楽しみだ。

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