世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin’ English」。今回は7月28日、CNNのツイート。



モーリー:

Hundreds of protesters have been detained at an opposition election demonstration in Moscow, which authorities have claimed is unauthorized

モスクワで選挙に対する抗議デモが行われ、当局は無許可であることを主張。何百人もの人が拘束されている。


面白いワードが並んでいますね。「protester」は香港のデモ報道でも使われる言葉で「抗議する人」という意味。「detained」は「拘束される・逮捕される」、「opposition」は「反対勢力・野党」、そして「unauthorized」は「許諾が得られなかった」という意味です。

7月27日、プーチン大統領に抗議する一般市民たちがデモに参加したところ、気持ちが良いくらいに大勢が逮捕され、暴力を受けたという記事です。ロシアのニュースとしては“平常運転”という印象もありますね。

野党候補支持の署名は反プーチンの“踏み絵”

ますは背景を説明します。

9月に行われるモスクワ市議会選挙に、野党候補が出馬します。これ自体は当たり前のこと。日本にも、先の参院選で話題を呼んだ「N国党」などの野党が存在しているのと同じです。

ところがロシアでは、その野党候補が「登録拒否」などと言われて排除され、そもそも出馬できない自体に追い込まれてしまったというのです。ロシアはとても露骨なんですね。

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この対応に「なんということだ。きちんと選挙をやらせろ」と怒った市民が数千人規模のデモを計画し、参加者が警察に拘束されました。この記事では「数百人」となっていますが、CNNがその後アップデートした情報によると、1000人以上が拘束されたといいます。

市議選への出馬を表明していた無党派や野党の数人について、「立候補を支持する署名数が足りない」という理由で立候補を認めない決定がなされたというのですが、ロシアの場合、これも怪しく感じてしまいますね。
その場で署名をするということは、自分の名前と住所を書いて、「私は反プーチンです」と言っているようなものです。その踏み絵を踏みますか?その後を想像すると怖いでしょう?

当局は、それを見越して「署名がないと立候補を認められない」と宣言し、市民らが怯えて署名をしなかったので、結果的に署名が集まらなかった…というカラクリなのです。

このシステムに疑問を持った国民が各地で抗議デモを展開し、約2万2000人が参加しています。そして、7月27日にさらに大規模なデモが計画されましたが、「許可を得ていない違法なデモ」として多くの人が拘束されました。

実は、これに先立つ20日にも2万人以上が参加するデモが実施されていて、その後、捜査当局は立候補登録された候補者の自宅や事務所を家宅捜索しました。
選挙の立候補者をです。これはもう、暴力そのものと言えるでしょう。しかし、選挙を中止していないだけでも民主主義らしい“包み紙“はあるわけです。

デモを呼びかけた野党指導者から「毒物」反応?

そんな中、プーチン批判の急先鋒として知られ、抗議活動を呼びかけた野党指導者で弁護士のアレクセイ・ナワリヌイ氏も20日に逮捕されたことで話題になったのですが、逮捕後、彼はさらなる事態に見舞われました。

7月29日、AFP通信が速報ツイートで「ロシアの野党政治家ナワリヌイ氏は、毒物にさらされたかもしれない、と医師が明かす」と報道したのです。

ロシアで毒物といえば、ポロニウムやノビチョクなど、これまで様々な毒物が暗殺などに使用されたとされています。
真相はその都度、有耶無耶になっていますが、ポロニウムが話題になった時は、ロシアの研究所でしか作ることができないものだということをロシアが誇示しているように見えましたし、ノビチョクに至っては、ソ連時代のロシア特注の毒物とも言えるでしょう。

しかし、今回の毒物の正体はよくわかっていません。
2004年にもウクライナのユーシェンコ大統領(当時)が食事後に突然、急性ダイオキシン中毒にかかり、顔に症状が出るということがありました。
この時もロシアの仕業ではないかという憶測が飛びましたが、ロシア側は「自分で何か悪いものでも食べたのでは?」と関与を否定。化学物質が厄介なのは、証明することができないということです。

このように、毒物事件については野放し状態なのですが、ここで国連職員としてパリの本部に勤務していた経歴を持つ、ノンフィクション作家の川内有緒さんに伺います。国連はロシアをどう見ていますか?

川内有緒:
ロシアは国連の常任理事国のひとつなので、国連全体がどう見ているかというのは言いにくいですね。常任理事国間の駆け引きもありますから、国連というひとつの組織としての視点は難しいです。

モーリー:
常任理事国は、第二次世界大戦でファシズムと闘って勝利した側であるソ連やアメリカなどを含む国々です。常任理事国の国連内での発言権は、相変わらず強いのですか?

川内有緒:
強いですね。

モーリー:
国連の常任理事国であり、「ナチスドイツや日本と闘って民主主義を守った側」とされている旧共産国のロシアが、このように独裁的になってしまったということですね。

「ロシアはギャングのように見えて戦略的」

モーリー:
1980年代には、政治革命が起きた中米のニカラグアを支援するソ連と、ニカラグアの反政府組織を支援するアメリカの緊張が高まり、中米紛争は米ソの代理戦争としてエスカレートしていきました。しかしその時、アメリカは自らの正義を言い立てていました。

川内有緒:
「世界の番人」というか、民主主義の名の下にですね。

モーリー:
そのアメリカが屋台骨になって、国連があるわけです。それが今、アメリカが国連を脱退するなどという動きになっている。アメリカの意思がここまで弱くなっても、国連や国際社会の総意は形成できるのでしょうか?

川内有緒:
国連内でのアメリカの意見はやはり大きいです。分担金の額やプレゼンスにおいても、声が大きい国のひとつですから、アメリカが脱退することによって、国連はどんどん弱体化していきます。
たとえば、国連がある国に対する非難決議した時の力が相対的に弱まるように、アメリカの脱退は大きな影響があると思います。

モーリー:
アメリカが脱退すると、国連でロシアを非難するという意思も弱まるし、そもそも常任理事国であるロシアは拒否権も持っていますから、厳しいですよね。
プーチン大統領はその立場に見事にあぐらをかいて、非常に戦略的に物事を進めています。一見、粗暴で暴力的でギャングのように見えますが、その背景には計算され尽くしたものがあるのです。
ロシアは暴走中ではありますが、アメリカを含めた国際社会に、ロシアを止められる人は現在のところ誰もいないという図式になっています。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 7/31 OA モーリーの『Twittin’ English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。