世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin’ English」。今回は9月7日、AFP通信のツイート。



モーリー:

#BREAKING Preparations for Russia-Ukraine prisoner exchange have begun: state TV
#速報 ロシアとウクライナの捕虜交換が始まった:国営テレビ


冒頭の「#BREAKING」は「緊急」という意味。「state TV=国営テレビ」はおもしろい表現ですね。
日本のメディアではあまり大きく報じられていませんが、ロシアとウクライナは、現地時間の9月7日に両国間で35人の捕虜拘束者の交換を行いました。

まずは、ロシアとウクライナの関係についておさらいをしましょう。

2014年、ロシアは1991年以来ウクライナに属していたクリミア半島を占領、併合しました。
同時にウクライナの東側を親ロシア派勢力が実効支配したことで、両国の関係は急激に悪化。ウクライナ東部の紛争では、過去5年間で1万3000人以上が死亡しています。

ロシア・ウクライナ間の「捕虜交換」に欧米諸国の反応は

このような状況にある中で今回行われた捕虜の交換に対し、各国は次のような声明を発表しました。

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【アメリカ・トランプ大統領】平和への大きな第一歩

とても大雑把で“映える”礼賛ですね。相手がロシアとなると、トランプ大統領は「頑張れプーチン大統領」と応援してしまうようです。

【ドイツ・メルケル首相】希望の証

ロシアのウクライナへの侵攻やクリミア半島の併合に関して、ドイツは非難する立場をとっています。
しかし、ロシアに対して経済制裁まで行ってしまうと、ロシアの天然ガスに依存しているドイツは、パイプラインを止められてしまう恐れがあるのです。持ちつ持たれつの複雑な関係にあるため、このような表現に留まっています。

【オランダ政府】非常に残念

欧米諸国の首脳たちから「緊張緩和の第一歩」として概ね歓迎されている中で唯一、オランダだけは「残念」だとしました。その理由は、ウクライナからロシアへ引き渡された捕虜の中に、オランダにとって見逃せない人物がいるからです。

マレーシア機撃墜事件の重要参考人も交換リストに

その人物は、ウラジミール・ツェマク氏。彼は、ウクライナの親ロシア派武装勢力とつながる戦闘員で、マレーシア航空MH17便墜落事件の重要参考人でもあります。

ロシアとウクライナによる紛争が発生した2014年、オランダのアムステルダムからクアラルンプールに向かうマレーシア航空MH17便が、ウクライナ東部の上空を飛行中に墜落。乗客乗員298人が死亡したこの惨事は、ミサイルによって撃墜された航空事件でした。

犠牲者の3分の2ほどはオランダ人だったため、オランダ政府としては、何としても事件の真相を究明したい。それなのに、事件の重要参考人であるツェマク氏がウクライナからロシアに引き渡されてしまったため、真相究明が遠ざかるとして反対しています。

マレーシア航空MH17便は、「ブーク」という型のミサイルによって撃墜されたと見られていて、ツェマク氏は「自分はそれに関わっていた」と証言しています。
ところが、ロシア側は捕虜交換に際して「ツェマク氏を帰さないと交換に応じない」と主張。ロシアにとってツェマク氏は、それほどまでに重要なアセットなのです。

ここに、グレーゾーンがにじみ出てきます。もしくは、元々はコメディアンだったウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシアに足下を見られていたのではないか、と考えることもできます。

ロシアという大国との紛争中に大統領に就任したゼレンスキー氏は、なんとか和平を求めようと、消極的ながら対話を呼びかけていますが、ロシアがクリミア半島を手放すとは到底思えません。紛争状態にあるよりはいいとして、ウクライナはなし崩し的にロシアに従属的な立場に甘んじてしまうということもあるかもしれません。

「ロシア疑惑はでっちあげ」米大統領がウクライナに協力要請?

ウクライナはさらに、もう1つの大国であるアメリカに対しても屈服しています。トランプ大統領が、“この弱い大統領“ゼレンスキー氏に食い込んだ発言をしているのです。

強硬な姿勢を崩さないロシアに抵抗するため、アメリカは民主主義陣営として、ウクライナに軍事支援をすることになっています。その予算は日本円で270億円あまりですが、トランプ大統領は支援をブロックする可能性をにおわせています。

「外国に対して予算を割きすぎている」というのは表の理由で、裏では元ニューヨーク市長でトランプ大統領の顧問弁護士であるジュリアーニ氏が、ゼレンスキー大統領の顧問弁護士に接触し、取り引きを申し出ていたようなのです。
「アメリカとしては巨額の支援金を払うのは難しい。でも、こちらに協力してくれるのなら検討しますよ」と。

トランプ大統領は次の2点について、ゼレンスキー大統領に協力を仰いだと言われています。

(1)ロシア疑惑はでっちあげで、ヒラリー・クリントン氏の“ウクライナ疑惑”が真相だという証拠を示すこと

このどんでん返しは、さすがトランプ大統領といったところですね。
ロシア疑惑のきっかけとなったトランプ大統領の側近で選挙対策本部長だったマナフォート氏は、ウクライナで親ロシア派の政治家たちと腹黒い取り引きを行い、マネーロンダリングをしていたとして実刑判決を受け、現在服役中です。

このマナフォート氏が「親ロシア派との繋がりを持っていた」という情報のそもそもの出どころは、ウクライナの政治家がヒラリー氏の民主党陣営に「これを使えばトランプ陣営に勝てますよ」と電話でわざわざ伝えたというのです。つまり、アメリカの選挙にウクライナ政府が関与したということです。

ロシアが干渉していたことについては、CIAなどのアメリカの情報機関も認めていますが、トランプ大統領は「実はウクライナが関与していた」という物語にひっくり返したいのです。

さらに、協力を求めたもう1点の内容は…

(2)次期大統領候補と目されるバイデン氏をめぐる疑惑を肯定すること

前副大統領のバイデン氏は、2020年に行われる大統領選挙の民主党最有力候補とされています。そのバイデン氏がウクライナを訪問した後に、バイデン氏の息子がウクライナ企業のポストに就いたという疑惑が浮上。これが事実なら、先日、法相に就任した韓国のチョ・グク氏並みの不透明さです。

トランプ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領に対して、「ヒラリーゲート」と「タマネギ・バイデン」の2つを成立させるようジュリアーニ氏を通じて打診したというのです。
これを受け、アメリカ民主党から成る議会の下院は事実関係を調査。このような間違った交渉が事実であれば、トランプ大統領の弾劾に向かいたいとしています。

しかし、トランプ大統領の支持層には、「やはりロシア疑惑は嘘で、本当は“ウクライナ疑惑“と“ヒラリーゲート”だったんだ」との考えが広がり、バイデン氏についても「アメリカ版のチョ・グク氏だったのか」と批判の声が上がっています。

このように、トランプ大統領は世論やマスコミの“大好物”を掲げて、ゼレンスキー大統領に取り引きを申し出ているのです。ロシアへの対応に苦慮しているゼレンスキー大統領にとっては、まさに泣きっ面に蜂の状態だと言えます。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 9/11 OA モーリーの『Twittin’ English』より)

 

訂正(2019.09.24)

訂正前
2014年、ウクライナで親欧米派のポロシェンコ政権が発足したことに反発し、ロシアは1991年以来ウクライナに属していたクリミア半島を占領、併合しました。

訂正後
2014年、ロシアは1991年以来ウクライナに属していたクリミア半島を占領、併合しました。
(FNN.jp編集部で追記した内容により、時系列に誤りが生じました。訂正の上、読者の皆さま、出演者、関係者の皆さまにお詫び申し上げます。)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。