世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin’ English」。今回は10月13日、ワシントンポストのツイート。



モーリー:

ワシントンポストは、かつてニクソン大統領の陰謀を暴いたアメリカ東海岸の有名な新聞です。今回のツイートでは、10月9日に始まったトルコ軍によるシリア攻撃を取り上げています。

Who are the Kurds, and why is Turkey attacking them?
クルド人とは何者か? なぜトルコは彼らを攻撃するのか?


投稿写真にも映っていますが、西洋の外国人記者がシリアなどへ取材に行くと、決まって撮影するのが女性兵士です。クルド民兵組織は男女平等を徹底しているため、女性も兵士に志願していて、戦闘能力は相当に高いという独特の文化があります。

トランプ大統領は6日、シリア北東部の米軍を特殊部隊から順に撤退することを発表。さらに「トルコ軍によるクルド人部隊への軍事作戦に関与しない」と表明しました。
これをきっかけに、トルコは国境を越えてシリア内部のクルド人地域を空爆し、国境近くの2つの街を制圧。民間人を含む多数の死者が出ています。

アメリカの後ろ盾によってシリア北部を実効支配していたクルド人武装組織「YPG(人民防衛隊)」は、これまでシリアに独裁体制を敷くアサド政権と戦うクルド系住民を守っていましたが、シリアの内戦から状況が一転し、国境の向こうからトルコに殺されそうになっていることを受け、敵対関係にあったシリア政府に寝返って、一時的に同盟を組もうとしています。

つまり、誰が誰の味方かだんだん分からなくなってきている。アメリカからハシゴを外され、昨日までの敵と「仲良くなってお互いを守ろう」と手打ちをしている状態なのです。

「国を持たない最大の民族」クルド人と中東諸国の複雑な関係

では、その「クルド人」とはどのような人たちなのか?そして、なぜトルコはここまでクルド人を目の敵にするのか?背景をおさらいします。

ここにクルド人を撮影した写真があります。民族衣装が独特で、シリアに住むアラブ系の人々とも少し違っています。トルコ、シリア、イラク、イランなどにまたがって暮らしている約3000万人の民族グループで、共通の言語や習慣を持っていますが、一度も自分たちの国を持ったことがなく、「国を持たない最大の民族」と呼ばれています。

多くの人々が複数の国境にまたがっていることから、クルド人はしばしば周辺国にゲームの駒として利用されてきました。

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1980年代には「クルド労働者党(PKK)」がトルコ国内で武装闘争を開始。クルド人国家の分離独立を目指しましたが果たせず、死者は4万人にも上ります。この結果を受け、トルコ政府は「クルド人はトルコを脅かすテロリスト集団」と見なしました。

そして、2011年に始まったシリア内戦ではクルド人が活躍しました。トルコ、シリア、イラク、イランなどにまたがって住んでいるため、どの国で問題が起きた場合もクルドはその影響を受けます。自らの身を守るためにシリアのアサド政権と対立し、さらにアメリカと結託して過激派組織「イスラム国」に勝利したのです。

その見返りとしてシリア北部での自治権獲得を目指していたのですが、これを見たトルコは、「このままではトルコ国内での自治要求が強まるかもしれない。トルコを割ってクルドの国を作ろうとしている」と警戒心を募らせ、クルドを叩こうとシリア北部のクルド人地域に侵攻しました。

アメリカの“不在”で中東に何が起きる?

アメリカは、これまでずっとクルドを守ってきました。クルド人が住んでいるのは、シリアの石油資源が豊富な場所です。つまり、クルドと結託していれば、アメリカはクルドを通して間接的に石油を手に入れることができ、イランやロシアの介入を防ぐことができます。

しかし、トランプ大統領はアメリカの利益だけを優先して、中東の終わらない戦争に関与しない姿勢を示しています。そして、何の前触れもなくいきなり米軍を撤退してしまいました。
この結果、次の3つのことが危惧されています。

(1)生じた隙間にロシアが介入し、このエリアは事実上、しばらくの間ロシアの影響下に入るということ。

(2)トルコがシリア側の国境沿いに「安全地帯」を作り、そこへトルコに何百万人といるシリア難民を戻すと言っています。しかし、元から住んでいるわけでもない場所にアラブ系シリア人を大勢投入することで、そこにいるクルド人を薄めようとしているのではないか、ゆっくりと民族浄化を行っているのではないかという説があります。

(3)米軍が撤退すると、シリアの軍勢がイランを後ろ盾にして、イスラエルの国境にまで進出する可能性がありますが、イスラエルにとってイランは絶対に許せない存在です。すぐ近くにイラン軍が来ているとなると我慢できずに一方的に攻撃し、次なる戦争が起きてしまうというリスクもあるのです。

つまり、アメリカが外した安全装置は、実は大きかったのではないかということですね。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 10/16 OA モーリーの『Twittin’ English』より)

2019/10/27:本文の一部を修正しました(FNN.jp編集部)
【修正前】背後から攻撃を受け、昨日までの敵と「仲良くなってお互いを守ろう」と手打ちをしている状態なのです。
【修正後】アメリカからハシゴを外され、昨日までの敵と「仲良くなってお互いを守ろう」と手打ちをしている状態なのです。
【修正前】クルドは男女平等を徹底している民族であるため、女性も兵士に志願していて
【修正後】クルド民兵組織は男女平等を徹底しているため、女性も兵士に志願していて

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。