福島県喜多方市で、今ではほとんど残っていない“レンガ窯の煎餅づくり”を続ける職人がいる。炭火の扱いや生地の乾燥を見極める昔ながらの製法は、機械化が進む中で姿を消しつつある。79歳の荒澤一利さんは、半世紀にわたり火と向き合い、その技を守り続けてきた。
経験に委ねられる煎餅づくり
荒澤さんが煎餅づくりの道に入ったのは、半世紀以上前。東京から地元・喜多方に戻り仕事が見つからず「何でもいいから働かなくちゃいけない」と思い、煎餅屋に入った。しかし、最初からうまく焼けたわけではない。
「煎餅焼きは難しくて、思うようにいかない日ばかりだった」と振り返る。
煎餅づくりで最も重要なのが、生地の乾燥具合だ。含まれる水分量が膨らみ方や焼き上がりを左右する。乾かしすぎても、乾かさなすぎてもだめで、最後の微調整は職人の経験に委ねられている。天気や湿度、風の流れによって焼きやすさが変わるため、毎日同じように焼いても結果が違う。
「毎日悩んで焼いてるんだけど、焼けない時があるんだ。やっぱりやってみないと分からないよね」と荒澤さんは言う。
ならではの味を生むレンガ窯
焼きの工程では、炭火の扱いが技を左右する。レンガ窯では上下から炭火が入り、熱の伝わり方が一定ではない。炭を多く入れれば香りが強くなるが、入れすぎれば煎餅の風味を損なう。
「炭の量は多すぎても少なすぎてもだめ。毎日、火と相談しながら焼いている」と荒澤さんは話す。
焼き上がった煎餅は、喜多方ならではの「たまり醤油」にくぐらせる。醤油文化が盛んな土地柄から生まれた“たまり煎餅”は、米の味と炭火の香りが引き立つ素朴な味わいが特徴だ。
火を絶やさない 職人の覚悟
時代の変化とともに、煎餅づくりは機械化が進み、手焼きの工法は姿を消しつつある。なかでもレンガ窯を使う店はほとんど残っていない。効率化が求められる中で、炭火と向き合い続ける職人は少なくなった。
それでも荒澤さんは、毎朝窯の前に立つ。「朝から上手く焼けると、きょうは良かったなと思ってよく眠れる。失敗したらだめだもんね」と笑う。半世紀続けてきた技は体が覚えている。しかし、同じように焼ける保証はどこにもない。だからこそ、火と向き合う時間が欠かせない。
受け継がれてきた火を絶やさないために、荒澤さんは今日も窯に炭を入れる。「動かなくなるまで、体の続く限りはやるよ」。その言葉に、職人としての覚悟がにじむ。
(福島テレビ)

