鉄の扉に隔てられた世界で、罪を犯した若者たちが保護犬を育てている。
関西で初めて導入されたこのプログラムの目的は、受刑者の再犯防止だ。
犬の心情を理解しようとする日々の中で、受刑者と犬の双方に小さな変化が生まれている。
少年刑務所が行う関西初の取り組みを取材した。
■鉄の扉の内側で始まった、関西初の取り組み
兵庫県姫路市にある姫路少年刑務所には、26歳未満を中心に、180人ほどの受刑者が収容されている。
ある受刑者は、刑務所での生活を「毎日同じ作業。起きて作業しての繰り返しで」と語る。
点呼や号令の声が響く日常の中に、大きな変化が訪れた。
やってきたのは5頭の保護犬だ。
姫路少年刑務所では去年、受刑者による「保護犬育成プログラム」が始まった。
保護犬の育成は更生プログラムのひとつで、関西では姫路少年刑務所が初めての取り組みである。

■拘禁刑で刑務所内には変化が
このプログラムが導入された背景には、去年6月に始まった刑罰「拘禁刑」がある。
受刑者に一律の刑務作業を強制するのではなく、それぞれの特性に応じた更生プログラムを組み合わせ、再犯の防止を目指す仕組みだ。
その内容は多岐にわたる。この日は服装の「TPO」について学ぶ。
講師:なんでA(の服装)?
受刑者:襟ついてるから。
受刑者:とりあえず“カタギ”には見られたい。
本来は作業中などに勝手に発言できなかったが、講義の間は自由に会話できる。
受刑者は変化を次のように話した。
受刑者:すごく変わりましたね。刑務官の方々も、人の名前をさん付けで呼んだりとか、人として扱われてる感じがちゃんとします。

■「犬の心情を理解する」ことが再犯防止につながる
「保護犬育成プログラム」の目的について、松田祥則看守長は次のように説明する。
松田祥則看守長:基本的に自己本位的な理由で罪を犯している。言葉を話すことができない保護犬の心情を理解しようとする行為自体が、彼らの再犯防止につながるんじゃないかなと。
参加する犬の境遇もさまざまです。スイくんは飼育放棄に遭って保護され、少し落ち着かない様子を見せた。
一般の家庭への譲渡に向けて、歯磨きや散歩の特訓を重ねている。
もう1頭が、3年前に保護された元野犬のきこちゃんです。担当するのは、薬物の使用で服役するA受刑者だった。
A受刑者:基本、目は合わないですね。おやつでも釣られへんというか。自分と通じる部分があって、きこちゃんと共に成長してるみたいな感じですかね。そんな焦る必要はないんかなって思ってます。ゆっくりで大丈夫かなと。

■受刑者と過ごす中で、“保護犬”にも変化が
人が苦手なきこちゃんは、保護されたばかりのころ、手がつけられないほど人に怯えていた。
協力する保護団体ペッツ・フォー・ライフ・ジャパンの石本理佐子事務局長は当時を振り返る。
石本理佐子事務局長:ちょっとでも触ったら、脱糞とかおしっこを漏らしちゃったりっていう形で。(いま、触れ合えるのは)めちゃくちゃすごいことで、最初はそんなことも想像できなかったぐらい。
1年ほど前からプログラムに参加し、A受刑者と過ごす中で、きこちゃんには少しずつ変化が見られた。
外を走る姿を見て、刑務官が「いきいきしてるでしょ」と声をかけると、A受刑者は「はい、いきいきしてます」と応じた。

■人に怯えていた元野犬と、本音を隠してきた受刑者
人を信頼し、感情を見せるようになったきこちゃんの姿に、A受刑者は自分の過去を重ねていた。
A受刑者:何がしたいかが伝わらない中で、人間も一緒で、僕も自分から人に相談しなかったり、嫌なことがあっても笑って過ごしたり。
同じ人間で言葉が通じるのに、言わないまま人とぶつかるみたいなところを、きこちゃんと関わり始めてから思いましたね。
本音を隠してきた受刑者と、人に歩み寄ろうとする保護犬は、互いの距離を縮め始めていた。

■規律違反によるプログラムからの離脱
しかし、A受刑者は刑務所内で規律違反を犯し、プログラムからの離脱を命じられ、翌月のプログラムにその姿はなかった。
A受刑者の前向きな姿勢に期待していた刑務官も、一筋縄ではいかない更生に頭を悩ませている。
山中威一郎看守長:プログラムをやってる子たちって、すごく自然な顔に戻るんですよね。若い子たちの素直な表情が見られる。ただ、それをすべて甘受してしまうと、規律自体が甘くなってしまって、治安の維持というところまで考えていくと、そこは譲れないものにはなってきます。

■「もう少し踏み込んだ人付き合いしないと」受刑者の学び
きこちゃんの担当は、B受刑者が引き継ぐことになった。
B受刑者:きこちゃん興味ないの?
再び、そっぽを向いてしまったきこちゃん。なかなか動こうとしない。
この日新しくチャレンジするのは、リードを持たない状態で犬を呼び寄せるトレーニングだ。
目を合わせることさえ、苦手なきこちゃんだが…
B受刑者:おりこうやな。きょうは手も伸ばさへんな。いつも『いや~』ってするのにおりこう。
「(罪を犯して)やっぱり後悔はします。僕も(プログラムが)勉強になったので、もう少し踏み込んだ人付き合いしないと」とB受刑者はこのプログラムを通しての学びを話す。

■「何かの役に、1人でも1つでも立てば」協力する保護団体の理事
協力する保護団体の尾添雅文理事は、プログラムが立ち直りのきっかけになってほしいと願っている。
ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン 尾添雅文理事:今、世の中を見ていても、いろんな犯罪があって、処罰感情はすごくあります。悪いことしたやつに更生なんかしなくていいんだとか、喜ばせる必要はないんだとか。
総論としてはそうなんですけど、個別に彼らと直接触れ合っていると、彼らに幸せになってほしいなという気持ちはすごくあるんですよね。何かの役に、1人でも1つでも立てばいいなと。

■新しい家族のもとへ、そして次の担当者へ
その願いは、少しずつ形になっています。プログラムに参加していたスイくんは、新しい家族のもとに迎えられた。
スイくんを迎えた家族:そこ(刑務所)の人たちが、歯磨きのやり方とかも辛抱強く教えてくださったんだなあって。いろんな人のおかげで、こんないい子になってうちに来てくれたって思いましたね。
これまでに2頭がプログラムを卒業しました。受刑者が注いできた時間は、確かに実を結んでいる。
受刑者たちの未来がより良いものに変わるように。更生の道への模索は続く。
(関西テレビ「newsランナー」2026年10月21日放送)


