秋田県八峰町で7月23日、走行中の車の窓ガラスが突然割れ、運転していた女性がけがをする事故がありました。当時、現場周辺では猟銃を使ったサルの追い払いが行われていたことが分かっていますが、事故との因果関係は明らかになっていません。
長年、ニホンザルによる農作物への被害に悩まされてきた町。住民の安全を守りながら被害をどう防ぐのか、現状を取材しました。
「もしかしたら死んでいたかもしれない、という恐怖感。体の力が抜けるような感覚を今でもはっきり覚えている。恐怖心はずっとこれからも残っていくのではないかなと思っている」と悲痛な思いを語るのは、青森県深浦町に住む60代の女性です。
女性は7月23日、八峰町八森の国道を軽トラックで走行中に突然窓ガラスが割れ、左耳にけがをしました。
当時女性は何が起きたのか分からず、バックミラーに映った耳から血が出ているのを見て、初めてけがに気付いたと言います。
車のフロントガラスやヘッドレストには、何かが貫通したような跡が残され、車内からは銃弾のようなものが見つかりました。
事故から1カ月。傷は目立たなくなったものの、女性は耳鳴りなどの違和感や事故への恐怖は今も消えていません。
けがをした女性:
「音が耳にスムーズに入ってこないというか、人との会話がおっくうになるというか。当時の、ガラスがいきなりガシャンと割れた音が気になって、茶碗を洗っている音もすごく耳に響く。あの道路を通るとき、気持ちも思い出すので行きたくないけれど、用事があれば通らなければいけないし…」
事故当時、現場周辺では町の猟友会が、猟銃を使ってサルを山側へ追う「サルの追い払い」を行っていました。
警察が捜査していますが、女性のけがとの因果関係は現在も分かっていません。
けがをした女性:
「怒りをどこにぶつけたらいいか本当に分からない。毎日のように同じような話を家族で話し合っている。この後ずっと、この思いがいつまで続くのかなという感じ」
こうした中、町は猟友会からの申し出を受けて、事故の4日後の7月27日に猟銃によるサルの追い払いの休止を決めました。
一方で、農作物への被害が続く町では、サルへの対策が長年の課題です。
秋田県内では、爆竹や花火などでサルを遠ざける「追い払い」のほか、箱わなや猟銃で個体を捕らえる「捕獲」が行われています。
八峰町でも、住民が町から提供された花火で追い払いを行っているほか、町も箱わなや猟銃による捕獲を続けてきました。なぜ、銃を使った対策が必要とされてきたのでしょうか。
ニホンザルは、農作物などに被害が出た場合、許可を得た上で有害鳥獣として捕獲することができます。
八峰町では1996年から箱わなによるサルの捕獲を進めてきましたが、農作物の被害額が約400万円に達したため、2008年から銃による捕獲も始めました。
その後、被害額は減少傾向でしたが、2025年度は約268万円に増加。町は、クマの大量出没への対応が優先され、サルへの対策が十分に進まなかったことも要因の1つとみています。
町は、年間100頭の捕獲を目指していますが、過去10年は目標の達成に至っていません。
町内で特に被害が深刻なのが、青森との県境に近い岩館地区です。住民たちは、町から提供された防護ネットを畑に張るなどの対策を続けていますが、被害は後を絶ちません。
岩館地区の住民:
「近所で5月の連休辺りにジャガイモを植えていたら、ある程度大きくなったところをみんなサルに取られた。いたずらされた。収穫しようと思ったら、サルが電線の上から見ていて取られたという話も聞いた」
町は8基ある箱わなのうち、半数を岩館地区に設置しています。しかし、サルが箱わなを警戒するようになり、実際に捕獲されるサルは多くが猟銃によるものです。
では、銃を使う際の安全対策はどうなっているのでしょうか。
町の計画では、散弾銃などを使う際は、弾がその先へ飛ばないように、山や土手など弾を受け止める場所の確認を徹底するとしていて、毎年猟友会に安全に配慮して活動するよう呼びかけています。
一方で町は、猟銃によるサルの追い払いの実施について、シーズンの開始時期などは町内会などを通じて住民に周知しているものの、追い払いの実施日時や場所などをその都度、事前に知らせることはしていません。
住民からは、より安全に配慮した対策を求める声も上がっています。
岩館地区の住民:
「銃による追い払いの実施情報は、知らないよりは知っていた方がいい。クマが出たときと同じで、そういう町内放送がされても差し障りないと思う」
町は、銃による追い払いの休止が長引くことで、サルが人への警戒心を失い、農作物への被害の拡大や人身被害につながることを懸念しています。
事故との因果関係の解明が待たれる中、住民の安全を守りながら必要な対策をどう続けていくのか。地域は難しい課題に向き合っています。
