国民のための行政を!ターゲットは日本の漁業に 

今、私たちの食卓に上る魚、そして日本の漁業に関して、政治の場で新たな動きが出ていることはあまり知られていない。
 
政府の運営改革などを議論する自民党の組織「行政改革推進本部」は、今年4月と5月に首相官邸などに緊急提言を行った。そのテーマが「漁業改革」だ。
これまでの水産行政について「日本の水産業の衰退が長年放置されてきた」「漁業者に対して行政が一方的に制度を決めるプロセスなどが漁業者の自主性を奪っている」などと厳しい言葉が並んだこの提言には、私たちの食卓に上る魚資源と漁業の未来についての危機感が込められていた。

漁業法制定後初の改正による漁業改革 

なぜいま漁業なのか。話は少し遡るが去年12月、漁業に関する約束ごとを定めた法律、漁業法が改正された。実は漁業法は、戦後間もない1949年に制定されて以来一度も改正されたことはなく、約70年を経た今回が初めての改正だった。

その改正の中身は、『漁業権の新しい在り方』に向けて、これまで地元の漁業組合などに優先的に与えられていた漁業権を、「地域水産業の発展に最も寄与する者」にも許可することが柱の1つで、要は漁業への民間企業の参入を促すということだ。
これに対して、「漁師が追い出される」「地元と共にあるべき漁場が企業本位のものになる」など数々の反対意見が出されたが、与党などの賛成多数で可決・成立した。

改正漁業法が成立(2018年12月8日 参院本会議)

日本の漁業は世界一のどんぶり勘定? 

そして漁業法改正のもう1つの大きなテーマが『水産資源管理の見直し』だった。日本の漁業と養殖業を合わせた生産量は、1984年をピークに落ち込んでいて2017年にはピーク時の約3分の1にまで減少した。かつては世界一の漁業大国を自負していた日本だが、今やその座は養殖を中心に世界の生産量の4割ほどを占める中国に奪われ、日本の陰は薄くなっている。

では、何が問題かというと、これまでの日本は『楽観的な水産資源評価』をしていたというのだ。つまり、海にいる魚などの水産資源量を“どんぶり勘定”で把握してきたことが問題だという。一方で世界では今、国際的な水産物の需要拡大を受けて、特に養殖を中心に水産物の生産量が増大していて、多くの先進国で漁業は『成長産業』と認識されているのだ。

そして『漁獲規制』という概念が大変重要視されているという。「科学的で客観的な知見に基づいた水産資源の評価と管理が産業としての漁業には必要不可欠」、これがいまの世界の共通認識なのだ。

海の生き物は無限にいるわけではない。獲り過ぎれば、それが原因で将来の不漁を招く結果となる。しかし日本は、“どんぶり勘定”と表現したように、水産資源の減少を適正に評価せず、改善してこないまま魚を獲り続けてきたのだ。だから漁獲量が減少しているといっても過言ではないという。
そのため今回、70年ぶりに漁業法を改正し、日本でも資源管理の新しいシステムを構築することで再び漁業を成長産業にするというのだ。

資源管理が進まない原因は長年のなれ合いや利害関係? 

ただ水産庁とて、これまで水産資源の管理を掲げて来なかったわけではない。近年の水産基本計画を見ると「我が国周辺の豊かな水産資源を適切に管理し、国民に安定的に水産物を供給していくことの重要性が高まっている(2012年)」「産業としての生産性の向上と所得の増大による成長産業化、その前提となる資源管理の高度化等を図る(2017年)」などと、水産資源を適切に管理する必要性を強調してきている。

それに先駆けて1997年には、水産資源を持続的に利用するための制度として「漁獲可能量(TAC)」と呼ばれる、漁獲量に上限を設定する制度も始めている。
それにも関わらず、実際に獲れた資源の量(漁獲実績)を大幅に上回る過剰な漁獲枠が設定され、いまだに漁獲量を規制することができていないのが実態だ。なぜなのか?

「漁獲枠を厳しくすると、漁業者の収入が短期的に減ってしまう。そのため漁業者にとって漁業枠はできるだけ多い方が都合がいいんです」
 
自民党の行革推進本部の関係者がこう語るように、原因の1つは国や関係組織などと漁業者のなれ合いや利害関係だという。この実情をふまえ、改正漁業法では資源管理を最新の科学的知見に基づいて行うよう定めた。

こうした中で、自民党行革推進本部の規制改革検討チームは、改正漁業法の目的を迅速に実現させるため、4月24日と5月16日に首相官邸をはじめ関係省庁に独自の緊急提言を行った。

自民党・行政改革推進本部(2018年11月)

独立性・中立性・透明性のある科学調査こそ重要

提言の中でまず掲げられているのが「行政庁から独立した科学調査・評価機関の創設」だ。しかも、「水産研究・教育機構から分離・独立させて」とわざわざ強調されている。
この「水産研究・教育機構」とは、水産庁が所管する、日本における最大の水産分野研究教育機関で、水産業が抱える課題の解決や水産業の活性化を目的とした組織だ。
提言では、この水産研究・教育機構の名前をわざわざ挙げて、これとは全く別の調査機関が必要だとしている。規制改革検討チームのメンバーは次のように語っている。
 
「(水産研究・教育機構の人も)色々と思っていても言えないんですよ」
 
水産研究・教育機構は農林水産省や水産庁など行政からの監督・関与を受け、さらには予算を握られているため、機構内の人たちが思い描くような資源評価が十分にできていないという指摘だ。人ではなく組織のあり方が問題だというのだ。

提言では、資源評価を行うための高い独立性をもった機関「海洋水産資源管理センター(仮)」の創設を求めている。さらに水産研究・教育機構に対して、理事長公募について高い専門性や管理能力を応募資格の段階から求め、水産庁等の行政省庁幹部職員らの出向を禁止することなどを掲げた。

行革本部主導の改革案に水産関係議員からは懸念も 

今回示された提言の中には「独立性」・「中立性」・「透明性」という言葉が何度となく使用されている。これは、日本の漁業を取り巻く環境がいかに上意下達の閉鎖的なものかを強調したものだ。
 
しかし自民党の水産関係議員、いわゆる水産族と呼ばれる議員や関係者からは、この行革本部主導の提言に対して、次のような懸念の声が出ている。
 
「規制改革を言う人は、要は勝ち組の論理なんだよね。急に独立した組織だとか言うが水産庁は弱い立場のことも考えなければいけないんだよ。日本の漁業は輸入額の方が生産額より多いんだ。資源管理を徹底した結果、魚が獲れないときは他所から持ってきますってんじゃ、漁師さんたちは納得しないでしょ」(自民党水産族議員)
 
「(行政改革推進本部の人たちは)いまの水産庁に納得がいかない人たちから相当アドバイスを貰っているんですよ。水産庁憎しとまでは言わないですけど」(自民党関係者)

実際、2017年の日本の水産物産出額は1兆5755億円で、前年より10%以上増え1兆7751億円となった輸入額を下回っていて、資源管理を徹底することでさらに漁獲量が減り、輸入依存が進行することや、小規模漁業者への影響を懸念する声は根強いようだ。

一方で、日本が再び世界の漁業をリードしていくためには、伝統ある漁業の中にどのように新しい風を吹き込ませるかが重要なことも間違いない。水産行政当局が、今回の提言にどのように向き合っていくのか注目される。

(フジテレビ政治部 自民党担当 福井慶仁)