昨シーズン、大量死の被害に見舞われた岡山県一の養殖カキの産地、瀬戸内市邑久町虫明地区で今、生産者が力を入れているのが、カキの商品価値と知名度を高める「ブランディング」です。現状を取材しました。

(邑久町漁業協同組合 松本正樹組合長)
「こちらのコーナーへお越しくださ~い!虫明のカキのアヒージョ、簡単にタコ焼きプレートで作れますからね!はい、どうぞ」

集まったお客さんにカキ料理をふるまい、PRするのは、邑久町漁業協同組合の松本正樹組合長です。

「虫明のカキですよ~」

7月の「海の日」。地元・瀬戸内市の美術館が行ったイベントに邑久町漁協として初めて参加しました。提供したのはカキの身だけではなく、捨てられる殻も。手作りキャンドルの土台にしてもらいます。

カキ漁師として20年、組合長に就任して9年。今、全力で取り組んでいるのが、ブランディング。邑久町虫明産養殖カキの価値と知名度を高めます。

(邑久町漁協 松本正樹組合長)
「「邑久」の名前を知ってもらう。いろんな取り組みをしていることを 皆さんに少しでも知ってもらって、後は口コミで広がっていけばいい」

邑久町のカキ養殖は昭和20年代に始まりました。ピーク時には約140軒が3000台のいかだで生産していましたが、現在は52軒、いかだの数も半分以下に減りました。

(邑久町漁協 松本正樹組合長)
「生産者の数があまり減ってしまうと いかだの枠があっても全部使えなくなる。(今与えられている1339台をフルに使って たくさん生産できるのが産地の魅力なので、それを維持するためには最低でも40軒の生産者は維持していきたい。今から準備しないと間に合わない、という感じで動いている」

後継者不足を解消し、産地として生き残るには商品の価値と知名度を高めていくことが必須なのです。

その戦略の1つとして2019年に取得したのが、環境に配慮し、持続可能な方法で取られた水産物にのみ与えられるMSC認証です。地元の海で卵を採取したり、カキ殻を肥料や飼料として再利用する邑久町漁協の養殖方法が評価されました。いかだにカキを吊るす養殖でのMSC認証は世界初です。

この国際的な専門機関のお墨付きをアピールし、邑久町虫明カキの知名度を上げようと漁協では2024年、古くなった事務所を資料館として改装しました。

「こちらが視察等の客を迎える場所。邑久のカキのファンになってもらう。外食関係や販売店に「邑久」の名が付いたカキをいかに売ってもらうかが産地として生き残る方法」

松本さんがPRに力を入れるのにはもう一つ理由がありました。

(邑久町漁業協同組合 松本正樹組合長)
「「邑久」の認知度が低いので 若い生産者たちは邑久の名前を知ってもらいたい。ブランド化戦略の一つとしてこういった取り組みに力を入れている」

ブランディング戦略は軌道に乗り始めていましたが、大きな壁が立ちはだかります。

2025年夏。猛暑の影響で上昇した海水の温度がなかなか下がらず、産卵期間が長引き、カキが弱ってしまいました。さらに、例年と比べ、雨の量が著しく少なかったことから海水の塩分濃度も上昇。このダブルパンチで、カキが大量死してしまったのです。

シーズン最盛期の12月。若手生産者の伊東聖二さんはカキの殻から身を取り出す作業に追われていました。しかし、よく見ると、大半の殻を捨てています。

(伊東聖二さん)
「死んでいるカキが9割。残った1割の中で半分以上、使いものにならないカキがある。なかなか厳しい状況が続いている」

視察に訪れた岡山県の伊原木知事に松本さんは、このピンチを克服していく決意を伝えました。

「2代目3代目のカキ漁師はまだ若いので、これから先、長く続けていくためには大量死を乗り切っていかないといけない」

そんな中、邑久町漁協に吉報が舞い込みました。漁協の海域が、国の「自然共生サイト」に認定されたのです。きれいな海を守るために漁協が取り組んでいるアマモやスナメリの保全活動が国に高く評価されました。MSC認証に続く2つ目の勲章です。

認定の決定と同じ日に竣工式が行われたのが、冷蔵荷捌き施設です。

「肘で押して開けます」

これまで屋外で行っていた入荷・入札・出荷を冷蔵施設の中で行えるため、しっかり衛生管理ができ、鮮度も維持できます。

「目に見えてちゃんとしているのがわかってもらえる。産地の取り組みの一つとして皆さんにそれを伝えることで、安心して食べてもらえるカキとして出荷できる」

かき資料館を訪れた人の数は600人を超えました。2026年はおいしいカキをたくさん食べられるのか?消費者の疑問に松本さんは力強く訴えます。

「高水温と高塩分が同時に発生したから大量死が発生した。どちらかだけならカキは強いから死んでいない。塩分濃度が下がればカキは生き残る。雨台風が来て塩分濃度が下がればカキは普通に生産できる」

担い手の減少と温暖化が進み、養殖カキの安定的な生産が年々難しくなる中、ブランディング戦略を成功に導くことはできるのか。かじ取り役、松本組合長の挑戦は続きます。

岡山放送
岡山放送

岡山・香川の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。