グラウンドに立つのは、わずか9人。野球を成立させるためのギリギリの人数だ。
大阪府立懐風館(かいふうかん)高校野球部は、ここ10年で部員数がみるみる減り、今は選手9人とマネージャー1人で活動している。
それだけではない。懐風館高校は5年連続で定員割れとなり、今年度を最後に生徒の募集を停止。
この夏が、懐風館として単独で大阪大会に出場する最後の夏となった。
■ 「経歴バラバラ」異色の9人が集まった理由
9人のメンバーは、それぞれ驚くほど個性的な経歴を持っている。
キャプテンの廣谷颯斗(ひろたに はやと)くんは、中学時代に強豪校から声がかかっていたにもかかわらず、あえて懐風館を選んだ。
廣谷颯斗くん(3年):公立高校の中で強豪私学を倒したいという気持ちがあったので、この懐風館高校を選びました。
ポジションはショートとピッチャーの二刀流。まさにチームの要だ。
エースの田中琥星くんは、他県の強豪校に特待生として進学したが、寮生活になじめず1年生の冬に転校してきた。
そして、最も異色なのがレフトの竹内斗舞くん。なんと、高校から野球を始めた選手だ。
竹内斗舞くん(2年):WBCで日本が優勝して、かっこいいなって。
WBCの感動がきっかけでバットを握った選手が、今や夏の大会の舞台に立っているのだ。

■ 「年間100試合以上」懐風館流の鍛え方
9人での練習には限りがあるため、練習試合を多く組み、「実戦形式」で経験を積むのが“懐風館流”だ。
加藤元康監督:練習試合も年間100試合以上。全員がフルイニング出場ができ、どの学校さんにも負けないぐらい試合経験を積んでいるので、そこは強みかなと思います。
その成果は数字に表れている。秋の大阪大会では、部員数がはるかに多いチームを次々と撃破し、4回戦まで勝ち進んだ。

■ 「お兄ちゃんと野球したい」弟が救世主になった
去年、3年生が引退し部員数が「8人」となったとき、夏の大会への出場そのものが危ぶまれた。
そこへ、この春に入学してきた9人目の選手。それがキャプテン颯斗くんの弟・海斗くんだ。
入学の時点で、学校の生徒募集停止はすでに決定していた。後輩は一人も入ってこない。それでも海斗くんは懐風館を選んだ。
廣谷海斗くん(1年):お兄ちゃんと野球したいなっていう気持ちが一番強くて、小学校も中学校も一緒のチームだったので、高校まで一緒のチームでプレーしたかったです。
父・高志さんは、現実的な厳しさも正直に伝えたと言う。
父・高志さん:いろいろ説明はしたんですけど、後輩入ってこないよとか。最後、兄ちゃんと一緒に野球引退するっていう、もう決めたっていうことを言ってたんで。
兄と最後の夏を戦い抜くことが海斗くんの答えだった。
夜、2人で並んで練習する姿は、小学生のころからずっと変わらない。

■ 「最後の夏」強豪・上宮太子に9人で挑む
初戦の相手は、甲子園出場経験のある強豪・上宮太子高校。9人で挑む、最後の夏が始まった。
初回、エースの田中くんが相手打線につかまる。守備の乱れやタイムリーを打たれ、この回一挙4失点。苦しい立ち上がりになった。
しかし、懐風館は諦めない。
3回表、高校から野球を始めた竹内くんがデッドボールで出塁し、相手のミスを突いて三塁へ。このチャンスにエースの田中くんがセンターへ犠牲フライを放ち、1点を返す。
4回表には、弟・海斗くんがセカンドへの内野安打を放つ活躍を見せた。
1対7でリードされた5回裏、ショートを守っていた颯斗くんがマウンドに上がる。
そこから4イニングを無失点に抑える好投。二刀流のキャプテンが、最後まで全力で腕を振り続けた。

■ 「短い期間ですけど、すごく成長した」涙の最終回
1対7で迎えた最終回、1番・3番がヒットを放ち、一塁二塁のチャンス。9回2アウト、バッターは海斗くんだった。
しかし、懐風館高校の最後の夏はここで終わりを迎える。
試合後、弟・海斗くんが涙をこらえながら話してくれた。
廣谷海斗くん(1年):お兄ちゃんともっと野球で一緒にプレーしたかったし、今日で野球が終わると思ったら寂しいです。
廣谷颯斗くん(3年):心強かったです。短い期間ですけど、すごく成長したと思います。
9人だけの野球部。1人1人が輝いた、夏だった。
(関西テレビ「newsランナー」2026年7月23日放送)


