3月19日(木)、春のセンバツ高校野球が開幕した。高知からは21世紀枠として、高知農業高校が初めて春のセンバツ高校野球に出場を果たす。初戦の相手は新潟の日本文理。甲子園の常連校に立ち向かうため、地道に「種まき」を続けてきたチームの姿を取材した。
秋季大会での手応えと練習の日々
高知農業高校の野球部員は18人。農業実習などもあり、放課後に全員がそろって練習できる時間は決して多くない。
しかし、限られた環境のなかで着実に力をつけてきた。2025年秋の高知大会準々決勝では、その後に優勝する明徳義塾から先制点を奪い、延長10回タイブレークにもつれる大熱戦を繰り広げた。
センバツ出場決定から約1カ月。卒業式を控えた3年生の小松拓海さんは、「うらやましい気持ちもあって、本当なら僕たちも出たかったですけど、今の世代の子らに甲子園で一生懸命頑張ってきてほしい」と後輩に夢を託す。
現役部員たちも、大舞台に向けて士気を高めている。澤田慎葉投手は「甲子園のワクワクが勝ってしまって勉強に集中できなかったりいろいろありましたけど、この冬越して自分の力がどれだけ上がったのかが、全国レベルにどれくらい通用するのかが楽しみ」と語る。
対外試合ができない冬の期間、チームは課題である得点力不足を解消するため、ウエートトレーニングなどで体づくりに励んできた。さらにグラウンドでは甲子園での本番を想定し、雰囲気に飲まれないようアナウンスやブラスバンドの音楽が流れる中で練習をしてきた。
エース・山下蒼生を中心にまとまるチーム
高知農業の強みは、選手同士の強い結びつきにある。杉本仁キャプテンが「エースの山下が農業高校に入るというのもあった」と語り、4番の山本滉壬朗選手も「少年野球の時に一緒だった山下さんがいたから高知農業を選んだ」と振り返るように、山下蒼生投手と一緒に野球をしたいと集まった選手が多い。
その山下投手のストレートは最速130キロ台前半だが、伸びのある直球を武器に秋の明徳戦では10個の三振を奪った。「自分が頼られているチームなので、責任感は強くもってやっている」と、エースとしての自覚を口にする。
父から託された夢。親子二代の甲子園
エースを後押しするのは、かつて高知商業の2番・センターとして甲子園に出場した父・真二さんだ。1983年夏には、清原和博・桑田真澄を擁するPL学園との対戦も経験している。当時のPL学園を「本物の化け物を見た」と振り返る。
山下家は野球一家で、長男は高知商業、次男は高知中央へと進学した。真二さんは「兄2人に期待していたが、まさかのお前かって感じ」と話しつつも、「小さい時、甲子園に連れて行った時に『ここは見る所じゃない。この中入って野球やるんだよ』と言ったことがある。あの甲子園に立たせてやりたいという気持ちはずっとあったからうれしい」と語る。
息子へは「情けないピッチングをしてたらしばくぞ」と厳しく発破をかけつつ、「ホームランは打たれるなよ」と送り出した。「甲子園は力のない子が力を発揮する所。今後の野球人生のためにも何かをつかんできてほしい」と期待を寄せる。
学校一丸で作る高知ならではの応援
スタンドからの応援も、学校一丸となって準備が進められている。応援団とチアリーダーは、甲子園のために集まった約40人の希望者で結成。吹奏楽部は部員が5人しかいないため、校内の楽器経験者を募り27人の編成となった。当日は室戸高校の吹奏楽部も加わり、「よさこい」や「アンパンマン」など高知ならではの曲を演奏する。
吹奏楽部顧問の久保麻希先生は「(甲子園に)出られると思ってませんでしたので、変に気負わずに甲子園でみんなが楽しくなれるような、高知農業ってこんなところだな楽しいところなんだなって思ってもらえるような演奏を届けたい」と意気込む。
いざ初陣へ。挑戦者として全国の舞台に立つ
3月8日に行われた壮行式で、杉本キャプテンは「挑戦者として胸を借りる気持ちで全力で挑む」と決意を語った。「一つの打球に泥臭くやっている野球姿や野球に対する熱さを見てもらいたい。出るからには一勝でも多く勝ちたいというのもありますし、何回も出られるわけでもないので全国優勝したい」と目標は高い。
春のセンバツは3月19日(木)に開幕し、開会式では農業ナインも堂々と行進を行う。高知農業の初戦は3月21日(土)の第2試合。新潟の日本文理を相手に、これまで蒔いてきた努力の種を甲子園という舞台で披露する。