2019年の秋、SNSで公開されたあるカレーのレシピが話題となった。
情報の発信の元は、国防の最前線に立つ自衛隊。多くの情報が機密事項として管理される中、公開に至ったその背景を取材した。
「海上自衛隊にカレーはなくてはならないもの」
『レシピ』とは、料理の材料や調理法のこと。
カレー1つとっても、それぞれの環境や文化の中で発展し、受け継がれているものがある。
広島・呉市。瀬戸内海に面し、かつて軍港都市として栄えた街には、海上自衛隊の潜水艦基地が置かれている。
ひとたび港を出ると、1カ月は家に帰れないこともあるという過酷な環境で、乗組員を支えているものの1つが『カレー』。
潜水艦「しょうりゅう」 中野巨嗣三曹:
隊員のほとんどが好きなメニューで、毎週出るということもあって、海上自衛隊にカレーはなくてはならないもの。レシピは先輩から受け継いだものをアレンジして、いいなと思うものを出している。でも、基本は一緒
海上自衛隊でカレーが提供されるのは、決まって金曜のお昼。一度に大量に作ることができるほか、『長期間の航海の中、曜日感覚を取り戻すため』とも言われていて、その起源は今から約130年前にさかのぼる。
乗組員A:
いつもながらおいしい。部隊によって味が違うというのも1つの楽しみ
乗組員B:
カレーが有名というのは聞いていたので、1つの楽しみにして海上自衛隊に入った
乗組員C:
昔から潜水艦のカレーを食べている。家のものとは違うが、家庭の味という感覚をもって食べている
“機密情報”が漏えい!? レシピ公開の背景は
防衛の観点から、自衛隊では職務に関する情報が厳しく管理されている。
ところが、2019年9月 ある話題がSNS上を騒がせた。
自衛隊伝統のカレーのレシピが、ツイッターに公開された。
その情報の出どころは、なんと富山だった。
早速、自衛隊の富山地方協力本部へ行くと、パソコン画面を見つめながら満足そうに笑みを浮かべる男性の姿が。
長野修司さんは、ツイッターにレシピを公開した本人。
自衛隊富山地方協力本部 長野修司二等海佐:
反響は非常に大きく、ツイッター上では1万いいねを超えている。実際に作ったというレポートコメントも多く、楽しんでもらえたのかなと
長野さんいわく、カレーレシピの公開は機密情報の漏えいには当たらないという。
しかし、なぜ富山からレシピが公開されたのか。
自衛隊富山地方協力本部 長野修司二等海佐:
富山県では、自衛隊の存在が薄い感じがする。どのようにして自衛隊の存在をアピールしようかというところで、カレーレシピを思いついて公開した
現在、自衛隊員の募集に携わっている長野さん。県民に自衛隊に興味を持ってもらいたいと、2019年7月まで艦長を務めていた潜水艦「せとしお」のカレーレシピを公開することにした。
研究を重ねたどり着いた味…調理員による特色も
料理が趣味だという長野さんに、自宅でその作り方を教わった。
自衛隊富山地方協力本部 長野修司二等海佐:
「せとしお」のカレーでは、まずショウガ。この風味をきかせるのがポイント。
海上自衛隊のカレーでは必ず隠し味が話題になるが、今回使ったのはインスタントコーヒーとはちみつとトマトジュース。
メインとなるのはホタテの貝柱。ホタテの貝柱をすりつぶしたものを入れて、うまみを引き出すのがポイント
せとしおカレー ポイント①ショウガで風味をきかせる
せとしおカレー ポイント②隠し味はインスタントコーヒー、はちみつ、トマトジュース、ホタテ貝柱
~作り方~
①鶏肉をショウガ、ニンニクとあえる
②ジャガイモを素揚げする
③鍋に油を入れ、タマネギ、鶏肉の順に炒める
④ニンジン、残りのタマネギを炒め、水、チキンコンソメ、トマトジュース、ホタテを入れる
⑤カレー粉、ガラムマサラを乾煎りし、鍋へ
⑥火が通ったら加熱をやめ、デミグラスソース、カレールーを入れ、ジャガイモを入れる
⑦はちみつ、インスタントコーヒー、バター、黒こしょう、中濃ソースを加え、塩で味を調える
実はこのレシピ、もともと大所帯の120人分だったものを長野さんが4人分にアレンジしたもの。
自衛隊富山地方協力本部 長野修司二等海佐:
料理って、単純に120人分の材料を30で割っても4人分にならない。今回は3回試作をして、失敗まではいかないが、「せとしお」っぽくないということで、妻につき合ってもらった
夏に富山に着任してから2カ月間、研究を重ね、ようやくたどり着いた味。
妻・真由美さん:
うんおいしい。子どものころに母親が作ってくれたカレーとは明らかに違います。コクがあるというか
自衛隊富山地方協力本部 長野修司二等海佐:
今回、3回付き合ってもらったよね。レシピ開発にはね
近年では民間志向の高まりなどから、2013年度をピークに採用の応募人数が減少傾向にあるという自衛隊。
2018年度から一部の採用対象を27歳未満から33歳未満に引き上げるなど、人材の確保に取り組んでいるという。
自衛隊富山地方協力本部 長野修司二等海佐:
県内には、陸上自衛隊の小さな駐屯地が1つあるだけ。海・空に至っては基地もない。カレーレシピの公開をきっかけに自衛隊の活動の一端を知ってもらって、今まで自衛隊を知らなかった人の中に、自衛隊について考えてくれる人が増えればと思う
海上自衛隊の潜水艦、護衛艦で出るカレーは、調理員によってそれぞれ特色があるという。
長野さんの奥さんは、実はカレーライスが苦手。しかし、レシピの研究のためということで、毎週旦那さんの料理に付き合ったそうだ。
苦労して完成した味、チャレンジしてみてはいかがだろうか。
(富山テレビ)