プロじゃなくても魚を買いたい!移転1年で見えてきた豊洲市場の課題と未来

カテゴリ:国内

  • 豊洲市場の仲卸の売り場で初の親子見学会を開催
  • 一般客は“邪魔” でも利益率は高い
  • オーストラリアでは一般客が楽しみながら“経験できる市場”を建設へ

「水族館よりおもしろい!」

色鮮やかで新鮮な魚が並ぶ豊洲市場の仲卸の売り場に生きたタコをさわり歓声をあげる子供たちの姿が。
本来は飲食店や鮮魚店などの関係者、つまり「プロ」以外立ち入り禁止の仲卸の売り場。
しかし、8月31日、親子の豊洲市場見学が行われ、豊洲市場の仲卸の売り場に初めて“正式に”一般人が入った。
「また来たい!」
多くの子供たちがそう話していた。

タコやカニをおそるおそる触って笑顔をみせた(8月 親子見学ツアー)

豊洲で魚が買えない?“プロ向け”ゆえのジレンマも

この一年の間に 取材をしていて 観光客からよく聞かれるのが「豊洲で魚が買えないの?」と言う 驚きを含んだ不満の声だった。

そもそも豊洲市場は「プロ向け」で、飲食店や鮮魚店などの関係者のための市場だ。
築地市場も本来そうだったのだが関係者によると「10年前くらいから観光客や一般客への販売を行っていた」と言う。
豊洲市場に移転してからは「プロ向け」であることが改めて強調され、警備員はプロ以外の観光客などの一般客をいれないようにガードしている。

ところが、このプロ以外の人達への売り上げが「ばかにならない」という。
関係者からは 「業者よりも高い値段で買ってくれるので利益率がいい」「年末の売り上げの2割が一般人 」などの声が聞こえてくる。

実際、築地最後の12月の売り上げは518億円。それに比べ、豊洲最初の12月は497億円。
訪れる人も、築地時代は1日3万人から3万5000人いたのが豊洲では半分以下。
また、豊洲市場で初の倒産となったのは、1977年に設立された かまぼこなどの水産練り物を主体に干物などを扱っていた業者で 関係者からは「年末に一般の人にかまぼこを売ることができなかったから潰れた」との見方まで出ていた。

「誰でも買える時間設定を」VS「観光客は邪魔」

豊洲市場の開設者である東京都も、一般客のために様々なイベントを開いている。
シーフードバーベキュー、豊洲鍋、利き酒ブースなどとともに一部、魚を買うことができるブースなども出店されたが「もっと魚買えないの?」 という声が聞かれた。

このような声を受け、実は東京都は「豊洲市場の仲卸の売場を時間を区切って開放できないか」を検討している。
例えば プロへの対応で忙しい9時半から10時ぐらいまではプロのみ、 その時間以降に一般客が入れるようにするというものだ。

しかし、築地市場の頃から 一般人が仲卸の売り場に入ることについては「見ていくだけで買わない」「邪魔だ」と嫌がる仲卸の声も多く、観光客を怒鳴りつけている仲卸の姿もよく見受けられた。

一般開放へ・・・仲卸にも新たな動き

このような中、一般客に豊洲で買い物をしてもらおう、という動きも出ている。豊洲市場内で 仲卸として干物などの販売を行う伊藤淳一さんは「プロだろうと一般客だろうと買い物をする人はお客さん」と話す。

「プロだろうと一般客だろうと買い物をする人はお客さん」と話す仲卸の伊藤淳一さん

伊藤さんは、仲卸売り場 の一般開放を見据え、今年に入り豊洲市場内の16の仲卸業者でつくった「豊洲市場商店会」の会長でもある。
豊洲市場の魚の良さを一般の人に分かってもらうため、伊藤さんは商店会のメンバーと共に市場近隣で行われるお祭りに出店し、豊洲の魚を焼いたものなど販売をしている。
実際に魚を食べた人からは「とても良かった」「豊洲市場は品質、クオリティーが高い」と喜ばれ、実際に豊洲市場に足を運ぶ人が増えてきたという。

小売店やクッキングスクールも!豪では「経験できる市場」登場へ

一方で、一般客を強く意識して 新たな市場を作り上げようとしているのが オーストラリアの シドニーフィッシュマーケットだ。チーフ・エグゼクティブ・オフィサーら幹部に直接話を聞いた。

シドニーフィッシュマーケットの現在の様子(HPより)

シドニーフィッシュマーケットは2006年に民営化され 2024年に 新たな施設が完成し移転予定(移転、といっても遠く離れるのではなく、すぐ隣)で、現在年間300万人が訪れているが、2倍の600万人に増やしたい、と言う。

2024年に移転予定のシドニーフィッシュマーケットの完成予定図(HPより)
オープンな雰囲気を保ちつつ、競りのエリアにはガラス仕切りが(完成予定図 HPより)

卸の競り見学はもちろん、一般の人が入れない場所の見学ツアーや、衛生管理を学べたり、プロのシェフに新鮮な魚を使って教えてもらうクッキングスクールなど「経験できる市場」にしていく方針だ。
さらに小売店舗の数も多く充実させて、競り落とされたものをすぐに一般の人が買えるようにしていくと言う。

幹部らは「市場は、より自由により安全になる」と笑顔で話すが、その安全を守るためなどの理由で「卸や仲卸のエリアで一般人に買い物をさせることはない」とも言う。

“日本の生食文化で仲卸の役割は大きい” 小松正之氏

水産庁幹部として長く水産行政にかかわり、現在は東京財団政策研究所上席研究員の小松正之氏は日本の魚が“美味しいワケ”をこう見る。

東京財団政策研究所上席研究員 小松正之氏:
きめ細やかな水産物流通・マーケティング日本の特徴。
獲ってから卸売市場に来るまでの鮮度保持にきめ細かく気を使っている。
それは日本人が、生で寿司や刺身で食べているから消費者が店舗や料理、魚の鮮度と品質に対するチェックが無意識に厳しいからそうなる。
外国で魚がおいしくないのは、それができていないから。今はスーパーマーケットでは機械的にしか、魚をさばかず豊洲市場などの仲卸業者がきめ細かく鮮度良く、おいしく食べられるようなところまで処理をしている。その意味で仲卸の存在は大きい。

その上で、こう指摘する。

東京財団政策研究所上席研究員 小松正之氏:
きめ細やかなマーケティングをしている一方で、彼らはそれを当然と思っているので、消費者に分かりやすく説明してそれを「売る言葉」を持たず、自分たちの職人芸をアピールできていないのが問題であり、克服すべき過程である。

美味しい魚を美味しく食べ続けるための市場と消費者の距離は、まだまだ模索が続きそうだ。