数学の授業や不動産情報で有権者にアピール!?何でもアリの韓国「YouTube政治」

国会議員の70%以上が「ユーチューバー」…広告収入はどうしている?

  • チャンネル登録者数21万の議員も…韓国国会議員の70%はユーチューバー
  • 政策と何の関係が…数学授業やアイドル帽子で有権者にアピール
  • SNSを活用出来るかで候補者選び…日本の議員必見!変容する韓国ネット選挙戦

法案審議を巡って揉み合いの肉弾戦になり、セクハラ騒動まで起きた韓国国会。にわかに日本でも注目されているが、彼らの職場である国会議事堂が鎮座するソウルの汝矣島(ヨイド)では、新しいキーワードが流行している。
それは「ユーチューブ政治」だ。

政治家が数学や不動産の講義?韓国「ユーチューブ政治」の現状

 「ユーチューブ政治」とはお馴染みの動画共有サイトであるユーチューブを使った政治活動の事。
韓国の週刊誌「時事ジャーナル」(2019年1月)の調査によると、現役国会議員298名のうち209名、実に約70%の国会議員が自らのユーチューブチャンネルを持っている。議会での発言やメディアとのインタビューを編集した短い動画をアップする場合もあるが、立案した政策を自ら説明したり、専門家を呼んで討論するなど、オリジナルのコンテンツを制作する場合も多い。

2017年の大統領選挙に出馬し文在寅大統領と戦った韓国保守派の巨頭である洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏は、 自身のユーチューブチャンネルで「 テレビよりユーチューブの方が社会的波及力が大きい」と評価した。

洪準杓氏のチャンネルのタイトルは「ホンカコーラ」。「ホン議員の話を聞くとすっきりし、コーラのようだ」という支持者の声からつけられたのだそう。しかし、洪準杓氏ほどの知名度がなく、選挙に向けて有権者たちに自分の名前を広く知らせたいという政治家は、自分の名前に「TV」を付けてチャンネルタイトルを「〇〇〇TV」とする場合が多い。日本の人気ユーチューバー・HIKAKINと同じだ。  

最も人気のチャンネルは、辛らつな文在寅政権批判で有名な無所属の李彦周(イ・オンジュ)議員の「李彦周TV」だ。「文在寅は国を解体するために大統領になったのか」非難し、歯に衣着せぬ物言いが共感を呼び、チャンネル登録者数、は実に約21万に上る(5月7日現在)。日本の自民党の公式チャンネル登録者数が約4万6000で、人気の小泉進次郎議員でも約1800である事と比較すると、21万という数字がいかに多いのかが分かる。

李彦周TV提供:「文在寅政権の解体」を訴える李彦周議員

特にあまり注目されていない国会議員たちはユーチューブで有権者にアピールしようと必死だ。少数野党・正義党の沈相奵(シム・サンジョン)議員はチャンネル登録者数が約1万1000(5月7日現在)に過ぎないが、日本の厚生労働省に当たる雇用労働部を厳しく叱責する映像がSNSを通じて拡散し、250万回以上のPV(視聴)を記録する大ヒットとなった。その波及力は侮れない。

野党・自由韓国党の金炫我(キム・ヒョンア)議員は都市再生の専門家である自分の特技を生かして当局の都市計画について批評するなど、不動産に関する様々な情報を提供している。韓国では「バブル」と言われるほど不動産投資が活発なため、国会議員による不動産情報は有権者の食いつきが良いようだ。

金炫我の情茶房TV提供:国会議員が語る不動産情報は韓国では人気だ

約2ヵ月前にチャンネルを開設したばかりの与党・共に民主党の朴炅美(パク・ギョンミ)議員は、米・イリノイ大学で数学教育学博士号を取得し、弘益(ホンイク)大学数学教育科教授だった経歴を生かして、「朴炅美TV」で数学の歴史や数学の難問の解き方を分かりやすく解説している。もはや議員活動とほぼ関係ないが、「注目されたい」という必死さは伝わる。

朴炅美TV提供:「花札で学べる数学」視聴者からは“とてもおもしろい”“新鮮だ”などの反応が多かった

同じく共に民主党の琴泰燮(クム・テソプ)議員は家族との日常や議員室での仕事ぶりを赤裸々に見せる動画をアップ。日本でも人気のアイドルグループTWICEが紹介してヒットしたウサギの帽子を被っておどけるなど、おじさん議員も涙ぐましい努力をしている。

党のレベルでも、これらのツールを使いこなせるか、もはや「評価の対象」に。
今年1月3日には与党・共に民主党がユーチューブやフェイスブックなどSNSを活用した「デジタルコミュニケーション実績」を来年4月の総選挙に向けた候補者選びの評価項目に追加すると発表。ユーチューブ政治旋風がさらに加速する事になった。

琴泰燮TV提供:人気アイドルグループ「TWICE」が某テレビ番組で紹介したウサギ帽子をかぶって秘書たちと笑う琴泰燮議員

なぜ韓国の議員はユーチューバーになったのか?

韓国政府が運営する情報通信政策研究院(KISDI)は2018年11月、「ユーチューブの人気映像の中で政治・時事分野のコンテンツが36%に上る」と報告した。 これはユーチューブの人気映像の3分の1以上がニュースを扱っており、事実上ユーチューブがニュースメディアとしての役割を果たしていることを意味する。

ではユーチューブが韓国政治に大きく影響するようになったのはなぜなのか。
韓国の週刊誌「週刊京郷」は韓国特有のメディア環境にその原因があると指摘した。韓国は地上波テレビや新聞といった既成メディアの大半が明確に左派と右派に分かれている。政治的なバイアスがかかったメディアの報道に対して不満を持ち始めた人々が2011年を境にしてより客観的な情報を求めてポッドキャストなどニューメディアコンテンツへ移動したことが、 今の「ユーチューブ政治」ブームに繋がっているとの分析だ。つまり、既存メディアへの不信の裏返しと言える。

ビッグデータ分析専門家のユ・スンチャン慶煕(キョンヒ)大学特任教授は「世論形成機能がポータルサイト(Yahoo!やネイバーなど)からユーチューブへ移動し、この現状に政治家たちが素早く対応している」と分析している。韓国では日本よりも高速通信網が発達しているため、テキストではなく動画で情報収集する傾向が強い事も影響しているだろう。

ウサギの帽子をかぶっていた琴泰燮議員は「テキスト中心のコンテンツより、動画の方がメッセージを分かりやすく伝えられる。そのため幅広い年齢層にアピールすることができる」とユーチューブ政治の利点を説明した。またユーチューブはコメント欄を活用すれば有権者の意見を迅速に吸い上げ、すぐに政策立案に反映させることが出来る。元々その政党や政治家を支持する有権者がアクセスする場合が多いため、既存支持層を結集させる手段にもなる。

ユーチューブ政治の問題点

琴泰燮議員提供:動画を撮影してアップするには手間も人手もかかる

一方、懸念される問題も多々ある。琴泰燮議員は「動画は一旦アップロードをしてからコンテンツの修正が難しい。またコンテンツ制作にたくさんの人材・機材・時間が必要」と指摘し、難しさをも語った。
チャンネル登録者数を増やすために過激なコンテンツ制作に走ってしまう可能性もある。断片的な情報を縫い合わせた推測と主張の入ったフェイクニュース拡散に繋がるリスクもある。テレビではできなかった刺激的で扇動的な発言により社会が分裂と葛藤に追い込まれる可能性を指摘する専門家は多い。

関連する法律が整備されていないなど、今後の課題も残っている。ユーチューブは「パートナープログラム」という収益分配制度を運用していて、利用者の動画視聴で発生する広告収益をコンテンツ制作者と分ける構造になっている。韓国の法律は国会議員の兼職/営利活動を禁止しているが、まだユーチューブを使った政治活動からの収益に関しては明確なルールがない。このためチャンネルをもつ国会議員たちはパートナープログラムに加入しないことで収益が発生しないようにしているという。最近パワーユーチューバー政治家が増加しており、中央選挙管理委員会は「ユーチューブ運用で発生した政治家の収益をどう規定すべきか、その基準を作るために苦心している」と話す。

「左」「右」の対立が激しい韓国政治。来年4月の総選挙にむけた各政党や候補者たちのレースは既に始まっている。ユーチューブという新しい戦場の出現はこの熾烈な選挙戦にどう影響していくのか。ダイナミックに変わる韓国政治を眺める面白い観戦ポイントになるとともに、日本の政治活動との比較も興味深いだろう。

フジテレビソウル支局
ベ・ソンジュン記者

隣国は何をする人ぞの他の記事