北アルプスの雄大な自然の中で、黙々と道を切り開く男たちがいる。立山黒部アルペンルートの除雪隊だ。今年は大雪の影響で例年より4日遅れで始まった除雪作業。その現場に密着した。

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40年の経験を持つ重機オペレーター

軽快な音楽が流れるブルドーザーのコックピット。操縦するのは、この道40年のベテラン重機オペレーター、瀬戸進さんだ。標高2450メートルの室堂平で、一面の銀世界を前に作業に取り組む。

瀬戸さんが走らせるブルドーザーの真下、十数メートルの深さに及ぶ「雪の大谷」がある。立山駅と室堂を結ぶ全長31.3キロの立山高原バス道路。山肌を切り開いたこの道は、カーブが多く10メートル近い積雪があるところも珍しくない。

11人のオペレーターと最新鋭の重機

除雪作業にあたるのは11人の重機オペレーターと、国内でも最大級のブルドーザーやショベルカーだ。その除雪隊を束ねるのが瀬戸さんである。

「雪、多いことは多い。風の向きがどうなったのか、いつもと積もり方が全然違う」と瀬戸さん。例年とは様子の違う雪の状態に、手探りの作業が続く。

雪をブルドーザーで少しずつ削り、2車線分の道路が出るまで掘り下げていくのが除雪隊の仕事だ。雪の深い部分は、ブルドーザーが押した雪をショベルカーが掻き出し、掘り進んでいく。

厳しい自然環境の中での喜び

標高が上がるにつれ、自然環境も厳しさを増す。しかし、その分ここでしか味わえない楽しみもある。瀬戸さんは「自然はいいよね。ブルドーザーが動いてなかったら」と語る。

除雪隊の宿泊地、弥陀ヶ原ホテルでは、夕食後も晩酌をしながら除雪談議に花が咲く。その日の作業がうまくいったかどうかを語り合う姿からは、プロフェッショナルとしての誇りが感じられる。

雪の大谷を作り出す職人技

4月7日、いよいよ雪の大谷の作業が始まった。瀬戸さんが引いたパイロットをもとに、2台のブルドーザーが雪の大谷を掘り進める。今年担当するのは糸さんと折田さんだ。

「(雪の大谷は)商品」と語る彼ら。「拡幅しない。ブルドーザーで(雪を)あけたらそのまま。キズがついたらそのまま残る」と、その責任の重さを語る。

一度に38トンもの雪を押すことができるブルドーザーを、雪の壁を傷つけないように慎重に操作しながら、前進・後退を繰り返す。その姿からは、まさに職人技と呼ぶにふさわしい緊張感が伝わってくる。

作業開始から7日目、ついにそびえ立つ雪の壁が姿を現した。瀬戸さんは「15やね。16mあるかないか。良い出来、今年は。なかなか見応えあるんじゃない」と満足げに語る。

続く立山の守り人たち

春とはいえ、まだまだ雪が降ることのある立山。その道を守る男たちの仕事は、これからも続く。世界有数の豪雪地帯である立山で、自然の力と職人の技術が生み出す「雪の大谷」は、まさにここにしかない絶景だ。

除雪隊の仕事は、観光客の安全を確保するだけでなく、立山黒部アルペンルートという地域の重要な観光資源を守ることにもつながっている。彼らの姿は、厳しい自然と向き合いながら、地域の発展を支える縁の下の力持ちそのものだ。

富山テレビ
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