30年幼稚園にたたずむ一本の桜をきっかけに、この春、新たな出会いが生まれました。

桜は亡き園児の思い出と震災の記憶を次世代に受け継いでいます。

■阪神淡路大震災で犠牲となった園児、加賀桜子ちゃんを追悼

神戸市東灘区の幼稚園に植えられている、一本の桜。ピンクと緑のコントラストが美しい、ヤマザクラです。

【男の子】「さくらがいっぱ~い!」

この場所で30年間、園児を見守ってきました。

【女の子】「さくら!」
【女の子】「白とピンクがかわいい」

このヤマザクラは、阪神淡路大震災で犠牲となった、ひとりの園児を追悼し、30年前に植えられました。

■30年前の震災で家族の中でただ一人亡くなった6歳の桜子ちゃん

加賀桜子ちゃん(当時6歳)。

桜子ちゃんが住んでいた東灘区森南地区は、神戸市内でも被害が大きかった地域のひとつ。およそ8割の建物が倒壊し、78人が犠牲となりました。

【桜子ちゃんの母・加賀翠さん】「ドーンっと飛び上がった感じ。そのあとグラグラして地震だなって。私も外へ出してもらって見たときに、家がつぶれていると思わなかった」

桜子ちゃんの自宅も倒壊。祖父母と1階で寝ていた桜子ちゃんは、家族でただ1人、亡くなりました。

【桜子ちゃんの母・加賀翠さん】「どこまでいっても6歳の、あの時のまま。(桜子の)友達が赤ちゃん連れてきて、大きなってるんだわと」

■桜子…名前にちなんで生きた証にヤマザクラを幼稚園に

「桜子」という名前の由来は、“秋の桜”と書くコスモスの期の10月生まれだったこと、翠さんが教えていた日本舞踊と桜の縁が深かったこと。

その名に合わせて毎年、誕生日のちょうど半年違いの4月6日には桜の木の下で成長を記録してきました。

【桜子ちゃんの母・加賀翠さん】「(桜子は)花も好きなんで、桜を見に行って落ちていた花を拾ってきて、全部押し花にしていた。(好きなのは)桜、チューリップ、ピンク色。桜子なんで、桜っていうのはあって。踊りしていて、そっちも桜があるので。(桜は)やっぱり一番大事なもの。大事な縁のあるものかなと」

そんな桜子ちゃんの生きた証…震災の年の春に、幼稚園に植えられたのがヤマザクラでした。

■「桜子ちゃんの話を聞かせて欲しい」当時を知る教職員がいなくなり、母が幼稚園に

それから30年。

今年も花を咲かせた「桜子ちゃんの桜」。

幼稚園では、毎年1月17日に祈りをささげてきた一方で、桜子ちゃんのことを知る教職員はいなくなり、翠さんが訪れることもなくなっていました。

月曜日、翠さんは久しぶりに桜子ちゃんの桜を観に幼稚園を訪れました。先生たちとは初対面です。

【桜子ちゃんの母・加賀翠さん】「大きくなっていますね。ピンクが強くなっているかな。はじめ本当に白い花だった」

先生たちが翠さんを出迎えます。

【光の園幼稚園主任・松田輝子先生】「お待ちしておりました、(桜は)大きくなっていますか?」
【桜子ちゃんの母・加賀翠さん】「大きくなっています、かなり。びっくりするぐらい」
【光の園幼稚園主任・松田輝子先生】「他の桜よりちょっと遅いんで、入園式のタイミングにすごくばっちりできれい」

いくつもの偶然が重なったこの春。桜子ちゃんのことを聞かせてほしい、と頼まれたのです。

【光の園幼稚園主任・松田輝子先生】「(東遊園地に)震災のモニュメントがある。桜の咲く時期だと思って、初めて地下に降りて桜子ちゃんの名前、探した。その1週間後に大学から実習生が来て、『お友達の幼なじみのお母さんが、桜子ちゃんの担任の先生でご存じですか』と。こんなに桜子ちゃんの話が立て続けにあるのでびっくりして」
【桜子ちゃんの母・加賀翠さん】「人を引っ張るというか、何か縁のあるような子かも」

■“桜の木”を通じて防災を子供たちにつなげたい

桜子ちゃんが幼稚園で過ごした3年間、翠さんが持ってきたアルバムには、生きた証が詰まっていました。

【光の園幼稚園主任・松田輝子先生】「天使(役)だったんですか、桜子ちゃん」

【桜子ちゃんの母・加賀翠さん】「みんながマリア様(役やりたい)と言って、誰か(譲って)と。(大天使)ガブリエルさせてもらった」

面倒見がよく、誰にでも優しかったという桜子ちゃん。

【光の園幼稚園主任・松田輝子先生】「どういう経緯で外の桜の木を植えることになったのかなと」

【桜子ちゃんの母・加賀翠さん】「(園から)何か植えていいですかっていう感じで、どうぞって言って。そうしたらやっぱり桜の木になりまして。(植えた若木が)5~6年ものとしたら、ちょうど桜子と同じ年の桜の木かな。この幼稚園大好きだったから。見守ってくれたらいいな」

【光の園幼稚園主任・松田輝子先生】「「桜の花が咲くたびに桜子ちゃんの話題になるので、桜の花が咲くと桜子ちゃんが幼稚園を卒園して訪れてくれたような感じがする。今回、加賀さんのお話を聞くことができたので、桜子ちゃんがいたんだよっていう話も、子どもたちに伝えていきたい」

「桜子ちゃんの桜」がつなげた思い-。

【桜子ちゃんの母・加賀翠さん】「桜を見て、震災のことを思い出してもらって、これからの防災のために、もう1回考えるきっかけに、花が咲いているときにでも思い出してもらえたらいいかなと」

震災を経験していない、次の世代にも受け継がれ、これからも、園児たちを見守り続けます。

(関西テレビ「newsランナー」2025年4月17日放送)

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