ことしの選挙のキーワードの一つが「SNS上の切り抜き動画」。一般の人が政治家の発言を切り抜いた動画を拡散し、投票する際の情報源にもなっている。

■【動画で見る】玉木氏「数撃ちゃ当たる」“切り抜き”も歓迎

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ことしSNSで圧倒的な存在感を示した政治家といえば、国民民主党・玉木雄一郎さんがあげられる。10月の衆院選の際に、玉木さんは自身が公開した動画などを『自由に切り抜いて投稿してほしい』と呼びかけ、多くの人が玉木さんの演説の印象的な部分を切り抜いて投稿し、SNS上で露出が増えた。

国民民主党の獲得議席は、これまでの4倍の28議席になり、結果に結びついている。

■衆院選期間中 YouTube で2億7000万回以上再生

「SNS上の切り抜き動画」との向き合い方や、選挙に関するSNS規制などについて、国民民主党・玉木雄一郎議員、選挙ドットコム編集長の鈴木邦和さんに聞いた。

まず「切り抜き動画」の勢いがすごいという。

選挙ドットコム編集長 鈴木邦和さん:そうですね。我々が2024年、ことしの衆院選の時に調査した結果ですが、衆院選の期間中に大体YouTube で2億7000万回以上動画再生されている。これだけですごい影響力です。その中でも特に、政党とか候補者ではなくて、第三者の方が作った動画は6割ぐらい占めているというのがポイントだと思います。

■「たどり着いた結論は『数撃ちゃ当たる』」と玉木氏

国民民主党の玉木さんも、「切り抜き動画を拡散してください」としていて、どんどん広がっていったという。

国民民主党 玉木雄一郎議員:SNSに関しては、今回、国民民主党や私がうまく使ったというふうに言われるんですけど、背に腹は代えられなくて始めたところがある。私は与党のときの民主党政権にいて、その後野党第一党でだんだん小さくなって、政党が小さくなると地上波テレビであまり取り上げなくなるんですよね。

国民民主党 玉木雄一郎議員:なので、当時はしりだったYouTubeを始めて、認知度調査やったり、試行錯誤しながらやってですね、それで今7年目ぐらいなんです。逆にそういうことで早く始めていたので、ある種の先行者メリットがあったかなと。これしかなかった。生き残るすべでやったんだけど、ある種時代が追い付いてきたというか。

最初始める時は、得意な若いスタッフからすすめられたのですか。それともご自身で手をあげたのか?

国民民主党 玉木雄一郎議員:全部自分で試行錯誤でやりました。多分いまも大手広告代理店なんかが大きな政党にはついていますけれど、多分外れているのは分かっていないんです。

国民民主党 玉木雄一郎議員:どういうことかというと、一つたどり着いた結論は、『数撃ちゃ当たる』ってことです。何百万円かけてすごく立派な動画を作って1個あげるんじゃなくて、安く1万円ぐらいのものを10個ぐらい作ってあげる。いわゆるABテストで、視聴者数が多いものを残して、悪いものを下げていくと。有権者というか視聴者に選んでもらって、何がいいかを前面に出していくということ。実は安いコストでぐるぐる回していくっていうのが、多分ポイント。

国民民主党 玉木雄一郎議員:第三者の方が多いのも、あげたら収益性につながるというか、やっぱり自分のサイトにあげたらそれでお金が入ってくるという、ある種市場競争に残ったところが広がっていくんですよ。

■「月収100万円以上はゴロゴロ」ユーチューバーの収入事情

「newsランナー」で取材したユーチューバーの方は「年収が倍ぐらいになった」と言っていたが、どれぐらいもうかるものなのだろうか?

選挙ドットコム編集長 鈴木邦和さん:私が聞いた限りだと、月収300万円ぐらいもうかっている方も聞いています。月収100万円以上の方はゴロゴロ。

選挙ドットコム編集長 鈴木邦和さん:1個切り抜き動画を作ると、例えば玉木さんの切り抜き動画ですと今も5~10万再生される。基本的に再生数に応じて収益が入ってくるので、例えばまあ10万再生いくと1万円ぐらい収益が入ってくるんです。

選挙ドットコム編集長 鈴木邦和さん:かつ、切り抜き動画というのは元となる素材があるので、編集が非常に楽なんです。簡単に編集できて、量産できて、利益率も高いので、それだけ収益が上がるということですね。

玉木さんを支援する方の中にも、もしかしたらお金儲けが目的でやろうとしている方もいるのかもしれない。

国民民主党 玉木雄一郎議員:かなり増えました。最初はいわゆる『支援する』『政策が良いから』なんですけど、そうじゃなくて私の動画を切ってのせればもうかるからといって、広がり始めたこともあるんです。それは全然構わない。多くの人に知れ渡る機会が拡大していくことは全然構わない。それをきっかけに政治とか政策に関心を持っていただければ十分だと思います。

■情報の真偽・一度見た動画に関連する動画への偏り 専門家は課題を指摘

切り取られたことによって思わぬ理解のされ方があったり、デマや誹謗中傷などにあった経験はないのだろうか?

国民民主党 玉木雄一郎議員:強いのは、私自身のユーチューブでライブ配信もするので、仮に誤解が広がった時には自分で解説をたっぷりできる。これまでのメディアと違って何かあったら自分で発信して、修正できるすべを持っているのもまたある種の強さだと思います。

選挙ドットコムの鈴木さんは大きく2つの課題をあげた。

選挙ドットコム編集長 鈴木邦和さん:私は、大きく2つ課題があるかと思っています。一つは動画の内容が本当に事実なのか、正しいかどうか分からない。うそも含めて出しても、今のところ法律的には何も問われない。それによって選挙結果に影響を与えてしまう可能性があるということが、一つ大きな課題だと思います。

選挙ドットコム編集長 鈴木邦和さん:もう一つは、例えばある政治家の切り抜き動画を見ると、ユーチューブはそれに合わせて関連動画がたくさんおすすめされるようになっているんです。それをどんどん目にすると、ある意味一方的な情報ばかり目にしてしまう。これは有権者が意識しなきゃいけないことですね。

課題もある中で、表現の自由にも配慮しながら、規制についての議論も必要なのだろうか。

国民民主党 玉木雄一郎議員:私は基本的に規制すべきじゃないと思う。ただ一つだけ規制したらいいと思うのは、外国勢力がSNSを使って選挙に介入して、アルゴリズムなんかうまく利用して、特定の思想や投票行動に導いていく。中国がカナダに対して行ったとか、ロシアがアメリカの大統領選挙に対して行ったということも言われている。民主主義の根幹に関わるような、意図を持った介入については、一定の規制やチェックが必要ではないかなと思います。

■「民主主義の根幹から乖離する可能性」藤井教授が懸念

京都大学大学院 藤井聡教授:基本的に政治的言説というものは、1人でも多くの方に知っていただくことが大事であって、そのためにビジネスが活用されることも当然是だと僕は思います。玉木さんが言っていることは基本的に賛成です。

京都大学大学院 藤井聡教授:ただ外国勢力というものは、政治的な正義とは無関係に介入してくるという問題がある。それとビジネスの論理というものは、単なる金儲け、刺激的でデマであってもよいということで、それは民主主義の根幹から乖離する可能性があります。

京都大学大学院 藤井聡教授:それに関して、例えばですけれども、政治的な言説に関してのユーチューブの収入の価格を引き下げるような規制とか、自主規制とか。あるいは公職選挙法の期間だけはお金というものに関して切り離すとか、何がしか民主主義の正義とは違う論理とは、ある程度規制するような方法を議論すべきだと思うんです。

国民民主党 玉木雄一郎議員:1つの考えだと思います。収益性を少し下げると、急速に拡大することが少し抑えられる。あと『偏って食べないようにする』というか、肉ばっかりや野菜ばっかりではなく、肉も野菜も食べましょうと。これ多分プラットフォーマーといわれる人たちが、バランスの良い情報を出していく、法的な義務か自主規制か、何か『いろいろ食べましょう』という、そういう一定のルールを入れていくのは、一つ考えられるかなと思います。

■SNSが盛り上がった選挙は「投票率アップ」

選挙ドットコム編集長 鈴木邦和さん:私も安易な規制は反対です。まずSNSの非常にポジティブな面として、実際に東京都知事選や兵庫県知事選は非常にSNSが盛り上がった選挙なんですが、投票率が上がっているんですよね。これは間違いなくプラスの部分。なかなかこれまでできなかったポジティブな部分なんで、しっかり評価すべきだと思います。

選挙ドットコム編集長 鈴木邦和さん:その上で、私は法律の前にできることがあると思っています。例えばですけど、Xは実はかなり強力なデマ対策の仕組みを持っています。アメリカの大統領選で、ハリスさんに関するデマが広まった時に、コミュニティノートという機能を使って、『これは事実じゃないです』という形で複数の投稿者が補足情報をつけると、それがデマだと認定される。そのデマの投稿に対して、投稿を広げた人だけじゃなく、リアクション(いいねやリツイートなど)した人にも、全てのアカウントに通知を出すんです。『これは事実と異なりました』と。そうするとデマが数時間で収束していった事例がある。

選挙ドットコム編集長 鈴木邦和さん:実は法律以前に、プラットフォーム側が持っている仕組みで対応できるものもあるんです。まだまだ日本の政治家になかなか知られていないところもあるので、もっとこういったものを活用したほうがいいんじゃないかなと思います。

■SNSの利用は「政治家や政党の見識も問われる」と玉木氏

SNSとどう向き合っていくべきなのか、最後に玉木議員に改めて聞いた。

国民民主党 玉木雄一郎議員:これから拡大することはあっても、縮小することはないので、上手に付き合っていくことが必要。もちろん見る側がいろんな情報があるんだと知ると同時に、出す側も変にあおったりするのではなく、出す側の見識もすごく問われていると思う。

国民民主党 玉木雄一郎議員:今回、政策をしっかり打ち出して広がったのは強かったと思う。それに選挙後も103万の壁とか税金や基礎控除ということが、朝のニュース、夜のニュース、昼の情報番組で取り上げていただくようになったことは、実はSNSの役割が大きかったんじゃないかなと思います。健全な方向にどう発展させていけるのかというのは、政治家や政党の見識も問われるなと思います。

2025年には参院選もある。投稿する側、受け取る側、双方のリテラシーが求められることになる。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年12月27日放送)

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