11月20日、東京・品川区のマンションの一室に刃物を持って押し入ったのは、なんと私立高校に通う高校2年生の少年(17)だった。高校生は逮捕後の調べに対し「『あの店は違法だから強盗に入っても捕まらない』と指示された」と話したという。強盗に入る不安が少し取り除かれたかのような供述だ。若者がなぜ安易に凶悪犯罪に手を染めるのか。指示役から同様な語り口で言葉巧みに説得されている実態が明らかになってきた。

闇バイトの指示役から「あの店は違法だから大丈夫」

品川区・西五反田のマンションの一室に入るメンズエステ店。20日未明、偽名を使って予約した少年は、刃物を女性従業員に突きつけ現金を要求した。

現場となった品川区・西五反田のマンション
現場となった品川区・西五反田のマンション
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男性従業員に取り押さえられ、JR五反田駅前の交番に連れて行かれ、その後、強盗未遂の容疑で逮捕された。逮捕後の調べに、「2週間くらい前にXで闇バイトを探した」と供述しているほか、少年のスマホには、匿名性の高い通信アプリ「シグナル」がダウンロードされていた。2週間の間に何があったのか。

捜査関係者によると、数日前、少年が使った「偽名」と同じ名前で、この店に予約が入っていた。そこで「偽名」の客が女性従業員とトラブルになっていたことがわかっている。この「偽名の客」が逮捕された少年なのか別人なのかは、判明していないが、強盗の“下見”を行っていた可能性もある。

強盗の対象を“犯罪者”に見立て実行役を“安心”させる「口説き文句」が…(画像:イメージ)
強盗の対象を“犯罪者”に見立て実行役を“安心”させる「口説き文句」が…(画像:イメージ)

さらに、少年は逮捕後、指示役からの“指示の詳細”を語る。「『あの店は違法だから、強盗に入っても捕まらない』と言われた」というのだ。実は、「強盗の対象を“犯罪者”に見立て、実行役を“安心”させる「口説き文句」はこれだけではないという。

「あの家の住人も犯罪者だから」と説得され… 

これまでの闇バイトは、若者に「ホワイト案件」との誘い文句で近づき、実家の住所を開示させ、挙げ句「家族が危ない目にあうぞ」などの脅し文句で強盗をやらざるを得ない状況に追い込んでいると報じられてきた。しかし、脅しだけではなく、「安心させる」パターンに手口がシフトしていることが、夏以降の事件で確認されるようになった。

「あの家は犯罪者だから」と指示役から言葉巧みに説得され犯行に…(画像:イメージ)
「あの家は犯罪者だから」と指示役から言葉巧みに説得され犯行に…(画像:イメージ)

捜査関係者によると、「あの家(被害者)は罪を犯した家なので、強盗に入っても絶対に被害届を出さないから大丈夫」「あの家のお金は犯罪で得た金だから警察には言わない」などと指示役から“闇バイト強盗”を説得されるパターンがこれまでにあったという。まさに品川区のメンズエステ強盗未遂事件の少年と同じケースだと言えよう。

「子供であれば怪しまれない」中学生も“運び屋”に

関東を中心に発生している闇バイトによる強盗などの事件は19件を越えた。これまでに44人が逮捕されているが、そのほとんど(39人)が「実行役」で、いずれも年齢は若い。

指示役にとって少年は“使いやすい人材“だという(画像:イメージ)
指示役にとって少年は“使いやすい人材“だという(画像:イメージ)

別の捜査関係者によれば、夏以降、中学生が「運搬する仕事」などの闇バイトに応募し、実際に“運び屋”をしていた事実が数件確認されたという。闇バイトをしている少年に犯罪を犯しているという罪悪感は薄い可能性がある。「子供であれば怪しまれない」という点からも、指示役にとって少年は“使いやすい人材“だというのだ。

未成年であることを利用したり、これから押し入る相手を「犯罪者」だと思い込ませ罪悪感を消す手口。「闇バイト」は、指示役の狡猾さにより、若者を使い捨てにすることによって成り立っている犯罪に他ならないことが、改めて裏付けられた。
【取材・執筆:フジテレビ 社会部】

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