【潜水事業】港湾の水中工事や水産漁業の海中調査など、潜水業務全般を手掛ける函館の「大歩」が新たに水中ドローン(無人潜水機)を導入し、幅広いニーズに対応している。中村徹也社長にロボットを駆使した今後の事業展開を聞きました。

根室の水産加工場で育ち、潜水士のすばらしさを実感

――潜水士の会社ですね。潜水士はどんな仕事をされていますか?
 港は人の手で調査、設計して構造物を作り上げています。海上保安庁の海猿、消防のレスキュー隊、自衛隊も海で活動するのは潜水士です。

――ご自身も潜水士ですね。
 現役の潜水士です。資格は国家資格です。

――水中の仕事に興味を持たれた経緯を聞かせてください。
 根室市で生まれ、祖父がウニの加工場を経営していました。女工さんがウニの折り詰め作業をし、ウニを取るのが潜水士です。潜ってたくさん取って生計を立てていました。僕らは水洗いしてお駄賃をもらい、潜水士はすごいんだなって思っていました。高校は潜水技術を教える岩手県の高校の水中土木科(当時)に進み、測量とか土木施工など港湾工事の基礎を学びました。深さ10メートルのプールで潜水訓練も行いました。


どんな条件でも仕事を引き受けて努力 その積み重ねが信用に

――高校卒業後は?
 縁あって函館の潜水会社に就職しました。港湾の潜水工事だけでなく、海難救助や、レジャーのスクーバダイビングを教えるインストラクター育成の仕事、水産漁業では昆布の種を養殖施設に結びつける作業もありました。

――その後、独立されたきっかけを聞かせてください。
 社長ががんで亡くなってその会社は廃業することになりました。(急きょ事業を継承し)自分のマンションを会社事務所にして事業計画を作り、自分が受け取った退職金から給料を払うことになったのです。社員は3人でしたが、事務所に机を置くと、パンツも干せないほどの狭い状態でした。

――信用をどうやって積み上げていきましたか?
 漁師さんに「ちょっとホタテの養殖施設を見てきてください」などと頼まれると、どんな条件でも自分のアイディアで(課題の解決を)やれるように心がけました。僕は過去30数年のログブック(潜水日記、日報)に仕事に行く現場や、何時何分から何分間という作業時間、その作業に必要な(水中での呼吸用の)スクーバータンクの本数などのメモを残しています。次に同じ仕事をするときに必要な情報です。仕事を学ぶ一番の近道で、僕もそうやって先輩から教わりました。ログブックで情報を共有すれば、これまでの信用をそのまま引き継ぐことができるわけですよ。(もし)全国の仲間と情報を共有し、潜水作業のバイブルを作れれば、もっと安全に作業できると思います。

新時代には経験を生かし、ロボットで対応 効率化進める

――会社で頑張っている取り組みは何ですか?
 新社屋にプールを併設しており、潜水訓練はもちろんのこと、水中ドローンの講習会を行っています。今までダイバーが海藻のモニタリングをし、ムラサキウニの個体数を数えて統計を取っていました。ダイバーは2キロも調査すれば1日の作業は終了しますが、水中ドローンはずっと潜り続けてくれます。疲れ知らずです。ただ、水中作業で潜水士がいらなくなるわけでなく、潜水士の経験を生かしてロボットを使って効率良く進めています。

――社員数は現在、何人に増えましたか?
 正社員が22人になりました。

――ボスとして心がけていることは?
 僕らが潜水士を始めた昭和は体力が続く限り泳ぎなさいという時代でした。ところが、今はドローンを使って効率良く、空中も水中も自分自身でプログラミングして、画像をAI(人工知能)を活用して解析し判断しています。時代が大きく変わり、新しい働き方になっています。ハンディキャップのある人も、自宅から遠隔で操縦ができます。潜水や海の魅力を(次世代に)伝えるのが最後の使命だと思います。


次世代に海の魅力を伝え、ロボット活用の可能性を探る

――具体的に、どんな伝える取り組みをされていますか。
 (北海道南西沖地震の)震災前から、奥尻高校で海に潜って奥尻のきれいな海を伝える授業をしています。北海道大学水産学部(函館)ではドローン研究会の学生と一緒にドローンの実証実験を行い、活用法を話し合っています。海外に出て水中ドローンを使って活動をする学生もいます。

――海の仕事に就く教え子もいらっしゃいますか?
 うちの会社に入り、潜水士として1人はインストラクター、1人は作業ダイバーの仕事で活躍をしてます。(社員には)将来、独立できるよう、お金の使い方も教えないといけないですね。普通のサラリーマンより賃金が高いからといって、派手に遊んだとしても何も残らないですよ。親代わりになれよう、信頼関係を築くのが大切です。

――会社の未来の話を教えてください。
 大きく時代が変わって、ロボットを潜水作業で(本格的に)使う時代がすぐそこまで来ています。水中ドローンの操縦がうまい子に手伝ってもらい、孫が「おじいちゃん、海底はこんなふうになっているよ」と、網を入れるのに最適な漁場の情報を教え、(技術力で)親の役に立つ―。そんな世の中になってほしい。僕の考えに賛同して一緒についてきてくれればと思います。

北海道文化放送
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