年末年始に増加する犯罪とは

年末年始は犯罪や交通事故が増加する傾向にある。それを受け、各都道府県警察では12月から年末年始の特別警戒が行われている。

実は、これは日本だけではなく、海外でも年末年始に犯罪が増加する傾向にあり、外務省の海外安全ホームページにおいても、年末年始の犯罪増加に警戒するよう呼びかける地域が多い。

例えば米国では、FBIが年末年始のホリデー期間に詐欺が増加する危険性があるとして警戒するよう呼び掛けている。

年末年始特別警戒の様子(警視庁杉並署・15日)
年末年始特別警戒の様子(警視庁杉並署・15日)
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一方日本では、例年年末年始に増加する犯罪として、金品を狙った空き巣や強盗、ひったくり、すりや置き引き、特殊詐欺などが挙げられる。

なぜ年末年始に犯罪が増加するのか

被害者の視点と犯罪者の視点に分けて解説する。

被害者の視点としては、まず“現金の動き”がポイントとなる。

12月はボーナスの支給があり、金融機関が年末年始休みに入る上、正月に向けた準備などで、普段より多い現金を“持つ”または“自宅保管”する機会が自然と増える。

年末年始はボーナスやお年玉などで現金を持つ機会も増える
年末年始はボーナスやお年玉などで現金を持つ機会も増える

次に“人の動き”だ。

帰省や旅行、初詣などで自宅を空ける機会も増加し、泥棒にはもってこいの環境だ。更に、人混みに入る機会も多く、スリの被害に遭う可能性も増加する。

帰省や初詣など自宅を留守にする機会も多く
帰省や初詣など自宅を留守にする機会も多く

また、忘年会などの酒席も多く、酩酊状態でスリや置き引きの被害に遭う機会も増加する。

そして、犯罪者の視点では“身勝手”がポイントだ。

そもそも犯罪者は自己の欲求を満たすために他者に被害を及ぼすような身勝手な考えを持つ。年末年始では上記のように現金が“狙える“機会が増える状況に加え、年末年始に「最後の一稼ぎ」を行い、年始の生活費を賄い、穏やかに暮らしたいという“極めて身勝手な心理”も幾分か働いているのだ。

年末年始を狙う犯罪者の心理とは
年末年始を狙う犯罪者の心理とは

更に気をつけなければいけないのは、年末年始の雰囲気に嫌気がさし、自暴自棄になる犯罪者も存在することだ。

“出頭者”の存在

実は、犯罪者の中には、年末年始はせめて暖かい場所で過ごし、3食をしっかり食べたい、風呂も入りたいという願望を叶えるために、あえて検挙されることを狙う者もいる。筆者がかつて所属した警察社会では、そういう出頭者を隠語で呼んでいたくらい知られた存在だ。厳しい寒さを伴う冬に顕著になる傾向にあり、年末年始も例外ではない。

また、上記理由で検挙されても良いと考えた上で、無謀な賭けに出て、一か八かの危険な犯罪を行う犯罪者もいる。

年末年始の防犯策とは

年末年始に向け、空き巣や強盗、特殊詐欺、ひったくり、すりを念頭に対策しなければならない。以下対策のポイントを示す。

<空き巣・強盗>

侵入しにくい家を作ることが重要である。

自宅が高い塀で囲われていたり、背の高い植木が多いような家は、空き巣犯からすれば周囲からの視線を気にすることなく犯行が行える。また、幹線道路などの近くは騒音が多く、窓ガラスを破る際の音も目立たず犯行が行いやすい。

窓からの侵入(イメージ)
窓からの侵入(イメージ)

これを理解した上で、通常空き巣犯は窓から侵入するが、侵入にかかる時間が5分以上だと諦めるとされており、その5分を稼ぐのが狙われにくい家につながる。当然、無施錠は論外とする。

その他自宅回りの防犯対策については以下例示する。

(1)防犯ステッカーの貼り付け
(2)防犯カメラ、センサーライトの設置
(3)窓ガラスに防犯フィルムの貼り付け
(4)補助錠の設置
(5)侵入する足場を無くす(室外機の上にモノを置く、はしごなどを片付ける)

これら対策が強盗対策にもつながる。

<特殊詐欺>

特殊詐欺は未だに猛威をふるっている。自分は大丈夫と思わず、改めて対策を徹底してほしい。

電話での特殊詐欺(イメージ)
電話での特殊詐欺(イメージ)

(1)電話口で“金”に関する話が出れば相手にしない(キャッシュカードの受け渡しも含む)
(2)公的機関であっても、電話は一度切り、かけ直す(その際、相手の所属部署を聞き、相手が言った番号にかけ直さず、ホームページなどで調べた番号にかけ直す)
(3)必ず本人に対面で確認をする(本当に金が必要であれば這ってでも会いに来るだろう。相手が会えないのであれば会いに行けばよい。難しいなら相手に諦めてもらえば良い。)
(4)一人で決断せずに必ず家族・警察に相談する

<ひったくり>

ひったくりでは、被害者の9割は女性だ。金融機関の帰り道に狙われることが多く、夕方から深夜にかけての犯行が多いため、それを理解した上で、以下対策を覚えてほしい。

(1)出かける地域や地元地域の防犯情報をきちんと把握する(ひったくりは、地域で連続発生することが多く、近隣で発生している場合は要注意)
(2)バッグは車道側とは反対側に持つ
(3)ひったくられそうになった場合は、自身の身の安全のために一定の段階で手を放す
(4)自転車のかごにカバーをかける
(5)スマホ操作やイヤホンで音楽を聴きながら歩かない(周囲の異変、例えば背後からのオートバイなどの音に気が付かない)
(6)防犯ブザー等大きな音を出すものを手に持ちながら歩く

<スリ>

スリは、人混みの中で、お尻のポケットに入れた財布やコートや上着の内ポケットに入れた財布を狙うほか、口の開いたカバンや後ろに背負ったリュックサックは恰好の標的となる。

背中のリュックサックを狙うスリ(イメージ)
背中のリュックサックを狙うスリ(イメージ)

よって、以下の対策を心掛けてほしい。

(1)口の開いたカバンの使用は控える(リュックサックに財布を入れている人は容易に取り出せない位置(背中との密着面にポケットがある場合)や、リュックサックを前に抱える)
(2)上着やコートに財布を入れている人は上着の前ボタンを閉める
(3)特に高齢者など不安な方は財布と衣服をロープやチェーンでつなぐといった対策も有効
(4)現金とカード類を別個にして持ち歩き、被害を最小限化する
(5)必要以上の多額の現金は持ち歩かない
(6)人前で不用意に財布を取り出さない、現金を見せない

上記の取り組みに加え、地域で行う年末パトロールなどの取り組みは非常に重要で、犯罪者に対し、防犯意識が高いことを示す最たる例だ。もし地域でそのような取り組みがあれば積極的に協力してほしい。

もし被害に遭ってしまったら

被害に遭ってしまった際は、強く抵抗しないことが重要だ。今年世間を震撼させた強盗事件を思い出してほしい。稚拙で衝動的な加害に出てくる可能性もある。

余力があれば犯人の特徴をできるだけ多く覚え、逃走方向を確認し、証拠となりそうなもの(犯人の後ろ姿や逃走の様子でもよい)をスマホで写真やビデオを撮ることも極めて重要だ。

その上で、速やかに110番通報を行ってほしい。皆さんは110番通報をそう多くはしたことがないだろう。また人によっては一度も通報したことがないかもしれない。

110番通報のデモンストレーション(警視庁通信指令本部)
110番通報のデモンストレーション(警視庁通信指令本部)

そのため、何を聞かれるか事前に把握しておくことで、今後もしものために役に立つだろう。

以下の内容は、通報の際に聞かれる内容の基本であるため是非一読いただきたい。(※事件を想定し、警視庁 、千葉県警、大阪府警HPから引用・筆者が作成)

質問1:事件ですか、事故ですか?
質問2:いつ起きましたか?(通報の何分前か)
質問3:場所はどこですか?

※場所がわからない時は、目標となる銀行やコンビニ、スーパー、公共施設の名称、電柱、信号機の管理番号や自動販売機(清涼飲料水)の住所表示など

(警視庁HPより)
(警視庁HPより)

質問5:犯人の特徴は?
※性別・人数、・身長、体格、服装・凶器の有無・車両の特徴(色、形、ナンバー)・逃走方向・けが人の有無など
質問6:今の状況は?(必要な事項を質問される)
質問7:あなたのお名前などを教えてください?

※事件との関係、住所、氏名、どこから通報しているかなど

特に質問7の通報者に関しては警察が追加で聞きたいことや目撃状況など捜査協力を仰ぐ場合もあるため、必ず連絡先などを警察に伝えてほしい。

また、現在は音声だけでは把握が難しい現場の状況を、スマートフォン又はタブレット端末により警察に通報することができる「110番映像通報システム」がある。

110番映像通報システム(警視庁HPより)
110番映像通報システム(警視庁HPより)

110番通報後、通報を受理した警察官が通報者の同意を得て、通報者のスマートフォン等にSMSを利用して、専用URLを送信。通報者は、指示に従い専用URLにアクセスし、口頭で伝えられるアクセスコードを入力することで、システムを利用することができるもので、是非覚えておいていただきたい。

これから年末年始に向け改めて防犯対策を徹底し、穏やかな年末と素晴らしい年を迎えてほしい。

【執筆:稲村悠・日本カウンターインテリジェンス協会代表理事】

稲村 悠
稲村 悠

日本カウンターインテリジェンス協会代表理事
リスク・セキュリティ研究所所長
国際政治、外交・安全保障オンラインアカデミーOASISフェロー
官民で多くの諜報事件を捜査・調査した経験を持つスパイ実務の専門家。
警視庁公安部外事課の元公安部捜査官として、カウンターインテリジェンス(スパイ対策)の最前線で諜報活動の取り締まり及び情報収集に従事、警視総監賞など多数を受賞。
退職後は大手金融機関における社内調査や、大規模会計不正、品質不正などの不正調査業界で活躍し、民間で情報漏洩事案を端緒に多くの諜報事案を調査。
その後、大手コンサルティングファーム(Big4)において経済安全保障・地政学リスク対応支援コンサルティングに従事。
現在は、リスク・セキュリティ研究所にて、国内治安・テロ情勢や防犯、産業スパイの実態や企業の技術流出対策などの各種リスクやセキュリティの研究を行いながら、スパイ対策のコンサルティング、講演や執筆活動・メディア出演などの警鐘活動を行っている。
著書に『元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』