11月1日に三重県・伊勢神宮の近くで、これまでにない「食べ歩き用」のプリンが発売された。
その開発に当たっては生成AIの「ChatGPT」が活用されたという。

(出典:山村乳業)
(出典:山村乳業)
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“新感覚食べ歩き用プリン”と銘打った『山村ぷりんバー(税込み420円)』を開発し、直営の2店舗で販売を開始したのは、有限会社山村乳業(三重・伊勢市)。

直方体のプリンに木の棒に差したアイスバーのような形をしていて、同社が類似の商品がないか調べてみたものの見当たらず「日本初ではないか」と考え、現在、特許出願中だという。

「山村ぷりんバー(税込み420円)」(出典:山村乳業)
「山村ぷりんバー(税込み420円)」(出典:山村乳業)

山村乳業は、1919年(大正8年)に創業した歴史を持つ乳製品メーカーだ。
2003年に発売した『山村ぷりん』をはじめ、2013年開発の『山村ぷりんソフト』、2020年に登場した『冷凍ぷりんソフト』など様々なヒットを飛ばしており、ご存じの方もいるだろう。

山村ぷりんソフト(出典:山村乳業)
山村ぷりんソフト(出典:山村乳業)

柔らかなプリンを棒に刺して持ち歩くなど素人考えでは不可能に思えるが、このぷりんバーは『山村ぷりん』のおいしさを忠実に再現しているという。

開発に取り組みはじめたのは2023年5月ごろから。
プリンらしい“なめらかな食感”を保ちつつ、食べ歩きしても棒からプリンが落ちないことを両立するは難しく、6月頃から「ChatGPT」を活用し、棒の形状・材質や、プリンの形状・硬さなどの「最適解」を探したという。

問題の最適解を「ChatGPT」で探していく

そもそもなぜ、食べ歩き用のプリンを作ろうと考えたのか?なぜChatGPTを使うことになったのか?『山村ぷりんバー』の商品開発責任者である山村卓也さんに聞いてみた。


――「山村ぷりんバー」開発のきっかけは?

不定期で試作品の試食会のようなものを開いており、ぼんやりと食べ歩きに向けた商品開発を目的にした会がきっかけになりました。
そのとき試作したたのは、バナナオムレットのバナナがプリンになったようなものです。
これを見た総務部の女性社員が「これ、そのまま何か棒を指して販売すればいいんじゃないですか?その方が食べやすいし、それだけでもおいしい」と発言し開発がスタートしました。

――なぜChatGPTを活用することになった?

『山村ぷりんバー』のあるべき姿として“なめらかな食感”を保ちつつ、“食べ歩きの際に棒からプリン本体が脱落しない”ものを目指していました。
プリンを安定させるためゲル化剤を入れ過ぎると、プリン本来のなめらかさから遠ざかってしいます。
そこで、棒の形・材質やプリンの形・硬さなどを変化させる物理学的アプローチを重ねてゲル化剤の量を減らしつつ、なめらかさを担保して安定を目指す方針を掲げ、その「最適解」をChatGPTを活用して探し始めました。

右が食べ歩き用プリン『山村ぷりんバー』(出典:山村乳業)
右が食べ歩き用プリン『山村ぷりんバー』(出典:山村乳業)

――ChatGPTを使った開発で最も苦労した点は?

「ChatGPTを活用する中で」に限った困難で言うと、プロンプト(ユーザーによる指示や質問)入力のお作法でしょうか。適切なプロンプトを入力しないと、得たい回答が得られません。
例えば、物理の何かしらの方程式をChatGPTが解く際に、気温などの条件の数字を与え忘れていると、「その答えは気温によって変化します」のような形で答えが出力されます。ですので、なるべく細かく条件を提示してあげることが大切です。
 

ChatGPTへの“指示”の一部(出典:山村乳業)
ChatGPTへの“指示”の一部(出典:山村乳業)

――ChatGPTを「ぷりんバー」開発に使った感想は?

結論としては、思ったような成果が出ました。
一筋縄にはいきませんでしたが、何が要所なのかの特定(本当に合っているかは不明ですが)に貢献していますし、 ChatGPTを使わず「本当にこれでいいのか?もっといい方法はあるのではないか?」と思い悩みながらやるよりも精神衛生的にも良かったです。

ただ、使い方次第で有効活用もできますが、ChatGPTを使える人がいないと始まりません。少なくとも現状はAIに全てが置き換わることはないような気がしますから、人間とAIのハイブリット商品開発になると思います。

ChatGPTでの履歴(出典:山村乳業)
ChatGPTでの履歴(出典:山村乳業)

――お客さんの評判どうだった?

想定以上です。おかげさまで1週間で約400食を販売し、想定の3倍を超えるご注文をいただきました。やはり「珍しい」ようで、一度どんな食感・味わいなのか試してみたいというお客様が多いように思います。

――SNSには、発売初日に「落下事故」はなかったと投稿しているが、どんな気持ちだった?

ホッとしました。なにより、「おいしい!」や「なにこれ!」のようにほめてくださるお客様の反応はうれしかったです。

(出典:山村乳業)
(出典:山村乳業)

――これからも製品開発にChatGPTを使う?

今後発売しようとしている商品もChatGPTを活用して商品開発しています(何かは言えませんがすみません)
 

開発責任者である山村さんによると、ChatGPTへのプロンプトの作成は「社内の人間に対する業務指示と似ている」という。
これからもChatGPTを使った商品開発をしていくということなので、一体どんな新商品が登場するのか楽しみだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。