梅雨の訪れとともに・・・
土に根をはり、待ち望んだ春の訪れ。
桜の花が散る頃、ゆっくりと背を伸ばし、空に向かって葉を広げる。
蕾も大きくなってきた。
雨のしずくがぽつり、“もう花を開いていいよ”と合図する。
埼玉県所沢市、狭山湖のほとりにある「ところざわのゆり園」。
広さおよそ3万平方メートルの敷地内には、梅雨の訪れとともに早咲きと遅咲きのゆり、50種類およそ45万株が白、赤、黄、オレンジ、ピンクといった色とりどりの大輪の花を咲かせる。
ところざわのゆり園は、オランダの風車などで知られたユネスコ村(閉園)の敷地の一部を利用して、2005年に開園。
毎年およそ3万人が来場し、今年で13年目を迎える。
甘い香りに導かれるように園内に足を踏み入れると、5色のゆりが訪れる人を出迎えてくれる。
ゆりの花をよく見てみると、上を向いて咲いている花と横を向いて咲いている花がある。
上を向いているのが、早咲きの「すかしゆり(透かし百合)」で花びらと花びらの間に隙間がある。芳香はない。
園内を甘い香りで包んでいるのは、横を向いて咲いている遅咲きの花「オリエンタル・ハイブリッド」。
背丈が高く、色彩豊かな大輪の花を咲かせる。
オランダから“逆輸入”の品種も
「オリエンタル・ハイブリッド」は、種から開花するまでに4~5年という長い歳月がかかる。
6種類の日本原産のゆりから作られた品種群で、園内に植えられているゆりは、70年代後半から品種改良の舞台となっているオランダで栽培され、球根が冷凍された状態で送られてきている。
日本のゆりが海外に渡り、ふたたび故郷に戻ってきた形だ。
時とともに変化する芸術作品
園内に咲くおよそ45万株のゆりを、父親のような温かいまなざしで見つめる人がいる。
「ところざわのゆり園」植栽担当の蜜岡さん。
ゆり園に来て4年たつが「ゆりのことが四六時中、頭から離れない」と話す。
訪れる人に美しいゆりを見せたい ・・・そのこだわりはとても強い。
開園前から開園後まで一日中、一人で草かり作業を黙々と行う。
園内の草かりにはおよそ8日間かかる。かってもまた生えてくる草との追いかけっこをしているようだ。
日に焼けた肌に汗が流れる。
草をかり過ぎてしまうと地面が見えてゆりの花の色が映えない。
草も、ゆりを“魅せる”大事な脇役。
全体を見た時に綺麗に見えることを意識して手入れをしている。
園を案内してもらっている最中も密岡さんの目が光る。
運営担当者に、ゆりが木の陰に隠れないように、配置について相談している。
日陰に咲くゆりは太陽を求め斜めに倒れてしまうためだ。
密岡さんが「綺麗だ」とつぶやく。
心からゆりを愛していることが、こちらにも伝わってくる。
細部までこだわる理由を尋ねると「自分が自信を持って綺麗だと思えるものを、来てくれた方にお見せしたい。」と語る。
「ところざわのゆり園」は、密岡さんがゆりと共に作り出す「時と共に変化する芸術作品」だ。
今、大切に育てられたゆりは1年に1度の開花時期を迎えている。
散策の後の“お楽しみ”
目でゆりを楽しんだ後は、舌で楽しむこともできる。
ゆりの球根は、日本でも古くから食用として栽培されている。
ゆり園ではゆり根の天ぷらを味わうことができる。ほくほくとした食感で、甘みがある。
ゆり根を食べる目的で来園する人もいるほどで、多い日には500食も売れるという。
梅雨の時期、雨の中に一歩踏み出すと、この時期にしか出会えない景色がある。
雨のゆり園をおとずれたことを、ゆりの香りと共に思い出す日がくるかもしれない。
【撮影後記】
今回、季節の移ろいを表現するために、今年の2月に小型無人機ドローンを使い撮影した映像と、6月中旬に撮影した映像を使用しました。
開花する前と後では景色が大きく変わり、生命の息吹が映像から伝わってきます。
カメラマンと編集マンのこだわりが詰まった作品をお楽しみください。
(取材撮影部・永岡清香VE)
<施設情報>
「ところざわのゆり園」は、7月8日まで営業
住所:埼玉県所沢市上山口2227
営業時間:9時~17時(最終入園は16時30分)
ゆり園は、自然散策コースとらくらく観賞コースがあり、らくらく観賞コースは車イスでも通行ができ、ゆりを楽しめる