家業の酪農を盛り立てようと奮闘する長野県阿南町の35歳の女性。飼料の高騰などで厳しい経営が続く中、地元の応援も受け、実家の自慢の牛乳をアイスクリームに加工して販売している。おいしさを広め、家業を守ろうと奮闘している。

実家の牛乳でアイスクリーム
阿南町の直売所で営業する水色のキッチンカー。
販売しているのは、アイスクリーム。
店の名は「Milk Factory kumapon's」。
熊谷鮎美さん(35)が一人で切り盛りしている。

メニューはシンプルなミルク味の「和合のアイス」、そのアイスを浮かべた涼やかな「清流フロート」、地元のイチゴを使った「アイスフラッペ」など。
いずれも酪農を営む実家の牛乳で作っている。
kumapon's・熊谷鮎美さん:
アイス屋さんがうまくいくかによっては「後継ぎ」になるかもしれない。(アイス販売が)うまくいくかどうか、うまくいかせる気しかないんですけど、それによって、うちの酪農が生き残っていけて、うちもハッピーだし自治体もハッピー。そういうところまで、いけたらいいなと

酪農は祖父が2頭の牛から始める
熊谷さんの家と牛舎は、山あいの和合地区にある。
1956年に祖父が2頭の牛から始めた酪農。父・敏彦さん(62)と母・厚子さん(59)が継いで世話をしてきた。
多い時は40頭いたが、今は15頭。
毎日、およそ250キロの生乳を出荷していて、朝5時と夕方4時のエサやりと搾乳は1日も欠かすことができない。

厳しさを増す酪農の経営環境
熊谷さんが手伝うようになったのは、2年ほど前から。
熊谷鮎美さん:
牛がいるのにやったことがなかったのが、さみしかったんでもないけど、憧れみたいな、一番近くで見てた職業なので。今のところ「楽しい」でしかない
子どもの頃は、牛舎に近づかないように親に言われていた。
父・敏彦さん:
小さい頃って「何やっとるの?」「私にもやらせて」ってくるから、めんどくさくて、邪魔だった

29歳で離婚し、息子と共に実家で暮らすようになった熊谷さん。改めて家業と向き合うようになった。
厳しさを増す酪農の経営環境。折からの高齢化や後継者不足に加え、近年はウクライナ侵攻や円安で輸入飼料が3割以上も高騰。
消費も低迷し安い加工品用への出荷が増えた分、収入が減少している。
熊谷さんの家は、子牛を売った収入などでしのいできたが県内では2022年度、1割近くに上る22軒が廃業した。

「家業を守りたい」
2021年、熊谷さんは勤めていたカフェを辞め、酪農を手伝いたいと両親に申し出た。
熊谷鮎美さん:
両親が大変な思いをしてつないできているという感じが、身に染みてわかる数年。このまま終わってほしくないという、当たり前だった光景がなくなるのが寂しいし、悲しい。娘のエゴもあるんですけど

父・敏彦さんは、自分の代で酪農を終わらせるつもりだった。
父・敏彦さん(62):
こんな仕事はもう、息子(熊谷さんの弟)が就職するような頃は、むろんその前からやらせる気はなかったし、どっちにしても俺の代で終わりだなと思ったら、(鮎美さんが)おかしなこと始めて
熊谷さんは「希望」を見い出していた。
それは、実家の牛乳。
熊谷鮎美さん:
私にとっては世界で一番うまい牛乳だと思っています

“世界一の牛乳”でアイスクリームを
やがて、熊谷さんは牛乳のおいしさをアイスクリームにして広め、家業を守りたいと両親に切り出した。
父・敏彦さん(62):
やめたらいいのにと、それが最初の印象。あんまりやりてえようなんで、やればやって失敗したって、俺は知らねって。好きなようにしやがれ、だな
熊谷鮎美さん:
否定も肯定もせずにいてくれるのは、一番安心できるし、ありがたいこと
母のチャレンジを息子の渓くんも応援している。

7月13日、熊谷さんは朝早く、根羽村へ。
両親から買い取った牛乳およそ130リットルを、村の複合観光施設「ネバーランド」の工場に持ち込んだ。
5月から、ここでアイスに加工してもらっていて、熊谷さんも週3回働く従業員になった。
牛乳に加えるのは、砂糖や生クリームなど最低限の材料。
kumapon's・熊谷鮎美さん:
24時間たってないので搾り立て、材料も最小限。昔から飲んできて、この牛乳が世界一うまいと思ってた牛乳の味をアイスにして、みんなに食べてもらえたらいいな

一足先に2022年夏から小ロットに対応した新潟の工場に加工を依頼し、カップアイスを販売。
これに手応えを感じた熊谷さんは、販売量を増やそうとコストも削減できる同じ南信州の工場で加工することにした。
カップアイスは(350円)ふるさと納税の返礼品となっていて、今後はオンライン販売にも力を入れる予定だ。

キッチンカーでの販売スタート
そして、「第2弾」としてアレンジメニューを加えキッチンカーでの販売をスタート。
週末を中心に観光地やイベントに出店している。
「味は濃厚だが、さっぱりしている」と客から好評だ。
また、熊谷さんの取り組みを地元の住民も応援している。

「酪農を守りたい」魅力と手応え
酪農を守りたいと奮闘する熊谷さん。
十分な利益を出すまでには至っていないが、おいしさを直接、伝えられることに魅力と手応えを感じている。
kumapon's・熊谷鮎美さん:
いろんな所に出ていって、いろんな人に出会って、酪農家なんですって話ができるのが魅力。キッチンカーとアイスと私と、私の家とが、つながるくらい認知が広がるといいな。私自身が一番楽しみにしています

(長野放送)