横浜市の自宅アパートで、3歳の長女に熱湯をかけて大ヤケドをさせたとされる25歳の母親。逮捕からおよそ2週間が経ったが、依然、否認を続けているという。その後の取材で、4年前に起きた事件の解決に向けた、”執念”の捜査が明らかになった。

「妹、皮がむけちゃってるの」

傷害の疑いで逮捕されたのは、飲食店従業員の橋本佳歩(かほ)容疑者(25)。

鶴見署に連行される橋本佳歩容疑者(25)(11日午前)
鶴見署に連行される橋本佳歩容疑者(25)(11日午前)
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神奈川県警捜査一課の発表によると、橋本容疑者は、2019年2月28日ごろ、当時住んでいた横浜市鶴見区のアパートで、3歳の長女(当時)に、熱湯を浴びさせ、背中などにヤケドをさせた疑いが持たれている。

現在は埼玉県・川口市に居住する橋本容疑者は、今月11日朝、東京・新宿区内の知人宅で、傷害の疑いで通常逮捕された。調べに対して「やっていません」と否認している。

事件現場となったアパート(2019年3月 横浜市・鶴見区)
事件現場となったアパート(2019年3月 横浜市・鶴見区)
兄が近所の人に助けを求めた際、長女は、ラップを巻かれて、布団の上で寝ていたという(イメージ)
兄が近所の人に助けを求めた際、長女は、ラップを巻かれて、布団の上で寝ていたという(イメージ)

事件当時、橋本容疑者は、長女のヤケドをした患部にラップを巻いて、病院には連れて行かず、自らは、同居していた男とともにパチンコに出かけるなど、3日間も長女を放置したままだった。

取材によると、長女の兄(当時5歳)が、近所の人に、「妹、皮がむけちゃってるの」などと助けを求めたことで事件が発覚。橋本容疑者は、保護責任者遺棄の疑いで逮捕、起訴され、2019年9月、懲役2年・執行猶予4年の有罪判決を受けた。

「誤って熱湯をかけた」

法廷では、橋本容疑者が、ヤケドをした患部にラップを巻いた理由について、「インターネットで調べて、ワセリンを塗り、脱脂綿を張り、その上からラップでくるんだ」などと話していたことが明らかにされた。

長女のヤケドについて、当時、橋本容疑者は「シャワーを浴びた際、誤って熱湯をかけてしまった」と説明していた。
長女のヤケドについて、当時、橋本容疑者は「シャワーを浴びた際、誤って熱湯をかけてしまった」と説明していた。

また、ヤケドをした長女を放置してパチンコに興じていたことについて、被告人質問では、「自分のことを優先で考え、パチスロに依存してしまっていた」と述べていた。

県警は、当時、長女のヤケドについても、橋本容疑者の犯行とみて追及したが、立件は見送られた。橋本容疑者は、調べに対して「シャワーを浴びた際に誤って熱湯をかけてしまった」と関与を否定していた。

起訴できるだけの証拠が足りずに、再逮捕に踏み切ることがきなかったという。そうこうするうちに、橋本容疑者の裁判が始まり、結局、”時間切れ”の形となった。

医師の”見解”が決め手

しかし、その後も、県警捜査一課などは捜査を継続。複数の医師に見解を求めるなどした結果、長女のヤケドの症状は、故意に熱湯をかけられるなどしてできたものと判断した。調べによると、長女は、ヤケドを負った皮膚が回復するのに3カ月も要したそうだ。

神奈川県警は、医師などの見解をもとに、「故意に熱湯をかけられた」と判断し逮捕に至った。
神奈川県警は、医師などの見解をもとに、「故意に熱湯をかけられた」と判断し逮捕に至った。

さらに、家族間における密室の犯行だが、長女がヤケドを負ったとされる時間帯に、現場のアパートに、橋本容疑者以外の第三者がいなかったことも裏付けられたという。

県警捜査一課などは、橋本容疑者の「誤って熱湯をかけた」との弁解は”不自然”と断定し、”4年越し”の逮捕に踏み切ったのだった。なお、今回の母親逮捕に当たり、改めて、長女からは事情を聴いていないそうだ。

”4年越し”逮捕の意味

ある司法関係者は、このタイミングでの逮捕について、「執行猶予期間中の立件にこだわったのではないか」との見方を示した。橋本容疑者の執行猶予が満了となるのは今年9月。

ある司法関係者は、今回逮捕について「執行猶予期間中の立件にこだわったのでは」との見方を示した。
ある司法関係者は、今回逮捕について「執行猶予期間中の立件にこだわったのでは」との見方を示した。

仮に、それまでに、今回の傷害事件で起訴されて、有罪となり、刑が確定すれば、その執行猶予は取り消されるという。

しかし、否認を続ける現状では、裁判でも起訴内容を争うことが予想される。9月までに裁判が全て終わる可能性は極めて低い。ただ、”逃げ得”を許さない執念の捜査は、評価に値する。

(フジテレビ報道局・解説委員 平松秀敏)

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社会部
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今、起きている事件、事故から社会問題まで、幅広い分野に渡って、正確かつ分かりやすく、時に深く掘り下げ、読者に伝えることをモットーとしております。
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平松秀敏
平松秀敏

『拙速は巧遅に勝る』。テレビ報道は、こう在るべき。
『聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥』。これが記者としての信条。
1970年熊本県出身。県立済々黌高校、明治大学卒。
95年フジテレビ入社。報道カメラマン、司法・警視庁キャップ、社会部デスクを経て、現在、解説委員。
サザンオールスターズと福岡ソフトバンクホークスをこよなく愛する。娘2人の父