2年連続の不漁から一転 ホタルイカが豊漁

ホタルイカが歴史的な豊漁。
しかし、ホタルイカ漁師は嘆いている。
新型コロナウイルの影響は、都市だけではなく海辺の暮らしにも影を落としている。

春の夜の海、穏やかな波に揺られながら、サファイアを散りばめたような青い光が無数にきらめく。富山湾の春の風物詩、ホタルイカ漁が2020年は好調だ。

水中でサファイアのように青く発光するホタルイカ
水中でサファイアのように青く発光するホタルイカ
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2年続きの不漁が一転し、富山県内の漁港の3月の水揚げ高は過去10年間の平均の2倍以上で、不漁だった2019年の7倍にも上る。この豊漁は、富山のみならず日本海全域に広がっている。全国最多のホタルイカの水揚げを誇る兵庫県但馬地方でも、2019年の1.7倍ほどの水揚げがある。

私にとってホタルイカは、初ガツオと並び、初夏を感じさせる料理のひとつだ。定番の酢味噌和えや煮物。産地の富山では、内臓を取ったホタルイカを刺身で食べさせる「竜宮そうめん」と呼ばれる郷土料理もある。甘みをもった肉質と、少し苦みを感じさせる内臓もおいしい。

生で頂く「竜宮そうめん」
生で頂く「竜宮そうめん」

ホタルイカは腐敗が早いため、低温輸送技術が発達するまでは産地でしか食用は困難だった。また、寄生虫がつくこともあるので生食は避けられていた。しかし、今では冷凍技術の発達により、多くの場所でいろいろな食べ方で味わうことができるようになっている。

コロナ禍で需要が激減…市場価格も低迷

ホタルイカの主な産卵場は、山陰沖から若狭湾、そして富山湾。この海域の水温が高いと産卵が順調に進む。産卵期、メスは日中深海で生活しているが、夕方から夜にかけて浮上し産卵する。しかし、海面表層の温度が高いと深海に潜り漁場に近づいてこないのだ。豊漁、不漁の見極めの難しい水産物である。

今年は但馬沖、富山湾ともに海中の温度が高いが、風が吹く日が多く、海面の温度が安定しているため豊漁になったと考えられる。

ホタルイカ漁船
ホタルイカ漁船

本来、漁師にとって豊漁はこの上ない喜びである。しかし、今年は重たい網を無口で引き上げる漁師が多い。折角水揚げしても、市場での取引が少ない。新型コロナウイルス騒ぎで、需要を支えている割烹、居酒屋、郷土料理店が軒並みに営業を自粛し食べてくれる人が少ないのだ。当然市場価格も低迷している。昨年の3分の1程度の値段でしか取引されていないのである。

但馬漁協の冷蔵施設では、冷凍されたホタルイカで満杯になってしまったため、ホタルイカの漁獲量を3割削減する申し合わせをしている。富山市内の食品店では、昨年の5分の1程度の価格で店頭に並んでいる。結果的に漁師は、儲けが増えないのである。

水揚げされたホタルイカ
水揚げされたホタルイカ

疲労回復の栄養素が豊富 今年のホタルイカは良質

ホタルイカは、体長(胴の長さ)が4cmから7cm程度で、オスよりもメスの方が少しだけ大きい。深海200mから500mに生息する深海生物で謎が多い。触手の先とヒレを除く皮膚に発光器がついていて、何かに触れると光を放つ。なぜ光るのかのメカニズムの全容は、未だ解明されていない。

なぜ光るのかそのメカニズムは未だ不明
なぜ光るのかそのメカニズムは未だ不明

富山湾では、朝方、浜辺にたくさんのホタルイカが打ち上げられていることがある。産卵のため岸に近い海面に上がってきたホタルイカが、満潮と風によって沖に戻れなくなったもので、地元では「ホタルイカの身投げ」と呼ばれる春特有の光景だ。富山湾では、4月の夜、青く光り輝くホタルイカ漁の様子を見せる観光船も出航する。興味をそそる生き物だ。

富山湾の春の風物詩「ホタルイカの身投げ」
富山湾の春の風物詩「ホタルイカの身投げ」

ホタルイカにはタウリンが多く含まれている。市販されている栄養ドリンクのコーマーシャルで強調される、肝機能を活発化し疲労回復のもととなる栄養素だ。

「今日も1日頑張ろー」とごはんにホタルイカの沖付けを乗せ、朝ご飯を食べる。帰宅後は、ホタルイカの酢味噌和えでも肴に晩酌。疲れを癒すとともに、アルコールの分解を助けてくれるので一石二鳥の食材だ。

今夜は、ホタルイカで一杯やりますか・・・。
今夜は、ホタルイカで一杯やりますか・・・。

今年のホタルイカは、量だけでなく丸々としたものもあり質もよい。旬の今は、スーパーマーケットの店頭にも並んでいる。ぜひ、食卓で“豊穣の味” ホタルイカを楽しんでいただきたい。

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【執筆:海洋経済学者 山田吉彦】

山田吉彦
山田吉彦

海洋に関わる様々な問題を多角的な視野に立ち分析。実証的現場主義に基づき、各地を回り、多くの事象を確認し人々の見解に耳を傾ける。過去を詳細に検証し分析することは、未来を考える基礎になる。事実はひとつとは限らない。柔軟な発想を心掛ける。常にポジティブな思考から、明るい次世代社会に向けた提案を続ける。
東海大学海洋学部教授、博士(経済学)、1962年生。専門は、海洋政策、海洋経済学、海洋安全保障など。1986年、学習院大学を卒業後、金融機関を経て、1991年、日本船舶振興会(現日本財団)に勤務。海洋船舶部長、海洋グループ長などを歴任。勤務の傍ら埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。海洋コメンテーター。2008年より現職。