シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は感染症科の名医、飯塚病院感染症科部長の的野多加志医師が、"第7波"を引き起こしているオミクロン株「BA.5」について徹底解説。既に感染した人も再感染したり重症化したりする恐れがある「BA.5」。

ワクチン接種の現状や今年の夏注意すべきことについて解説する。

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従来の流行と「BA.5」の違い

今まで日本が経験してきた波は、今回が第7波と呼ばれています。

第1波~3波は元々の武漢由来の変異の無いウイルスが流行していました。第4波はアルファ株、第5波はデルタ株との戦いでした。第6波はオミクロン株、主にBA.1、BA.2によるものでした。

そして今回の第7波は、BA.5に置き換わりつつあります。

今世界では、BA.4とBA.5が同時に流行している国と、BA.5が中心に広がっている国に分かれています。

BA.4とBA.5は感染力が大体同じくらいじゃないかと考えられているので、どちらが先にその国に入ってきたかで流行している株が微妙に異なるようです。

日本の場合は、BA.5が先に入ってきたので、大半が今まで流行していたBA.2からBA.5に変わっていく傾向が見られるはずです。

「BA.5」の感染力と重症化率

BA.5の特徴は、まず感染力が強い

過去にBA.4やBA.5が流行っている南アフリカからデータが出ていますが、BA.1、BA.2と比較すると1.2倍くらい感染力が強いと考えられています。

デルタ株や当初の変異の無い武漢のウイルスは、肺で増えやすい特徴があるので重症化しやすい、つまり肺炎になりやすいというのがCOVID-19の特徴でした。

今回オミクロン株に変わってからは、上気道といわれる喉や鼻の近くでウイルスが増える特徴があるので、軽症になったと考えられています。

ところが今回のBA.5は動物実験の結果ですが、もしかしたら再度肺で増えやすくなっているのではないかというデータも出ていて、そこが重症化するのではないかという議論と繋がっている点です。

しかし、動物実験に使われている動物は、免疫を極端に抑えられた動物を使うので、同じ結果が人間に関しても起きるかはまだデータが出ていません。

ですので、実際に人間の肺で増えやすいのか、そして動物実験で言われているような18倍以上の感染力があるのかは、未だに分かっていません。

はっきりとしたデータはまだ分かっていませんが、今のところBA.1、BA.2とはそんなに大きな差はないだろうと考えられています。

しかし数がとても増えている国に関しては、やはり死亡率が少し上がっているデータが出ているので、今後データを注視する必要があると考えています。

「BA.5」は免疫をすり抜ける?

免疫をすり抜ける能力は、BA.1、BA.2より少し強いのではないかと言われています。

オミクロン株自体が免疫をすり抜ける力がアルファ株やベータ株より強いと言われていますが、さらにそれを上回る免疫を逃れる能力があるのが、BA.4、BA.5と言われています。

ワクチンの効果が少し落ちてしまうとか、過去にオミクロン株(BA.1、BA.2)に感染したにも関わらず、もう一度BA.5に感染する可能性があるのではないかと専門家は考えています。

ワクチン追加接種の効果

COVID-19との戦いがしばらく続いていますが、感染対策としてはマスクを着けて会話をする、すなわちマスクを外した会話を避けるというものと、ワクチンを打って重症化を防ぐという2本柱は変わっていません。

ワクチンに関しては、基礎疾患をお持ちの方、もしくは高齢の方はちょうど4回目の接種の時期になっています。(2022年7月中旬時点)

この4回目の接種は、感染の予防効果というよりも、重症化の予防効果をより高める。3回目と比較して3~4倍に重症化の予防効果が高まると言われているので、病床のひっ迫、もしくは個々人の入院するリスクを考えた場合には、4回目の接種の適応になっている方は、感染が拡大する時期に是非ともワクチンを検討していただきたいと思っています。

重症化リスクが少ない、4回目のワクチンが回ってこない世代は、実は3回目のワクチンで感染の予防効果は一時的に6~7割くらいに上がります。2回目で終わっている人は、まさしくこのタイミングで3回目を打つメリットは、自分にとっても周りにとってもあります。

特に注意点は、今まで感染した人、感染していない人に関わらず、このワクチン接種回数は勧められていることです。

つまり、「1度感染したのでもう2度とかからない」ということはない。そして「2度と重症にならない」ということはない。

ここがワクチンの接種回数が設定されている理由です。これが現状流通しているワクチンの考え方です。

日本で今最も使われている、ファイザーとモデルナの2社がオミクロン株用のワクチン開発を終えたというプレスリリースを出しています。今まで我々は、武漢からの元々の変異の無いウイルスに対してのワクチンを使っていますが、今後秋、もしくは冬頃にオミクロン用のワクチンが流通してくるだろうと推察されます。

そういった新しいワクチンの効果や副反応も含めて、今後データを集めて注視していく必要がありますが、我々にとっては吉報の1つだと考えています。

この夏 特に注意すべきこと

コロナとの戦いが約2年半続いていますが、去年(2021年)と大きく違うのが、いろいろなイベントが再開されつつある、つまり通常の生活に戻りつつある初めての夏と言えます。

そうするとマスクを外した会話、つまり感染のリスクになる行為が増えてきますし、人から人へ新しい感染の連鎖に繋がるリスクが増えてきます。

例えばワクチンの免疫が落ちていると考えられる高齢者や基礎疾患のある方に会う1~2週間前に感染リスクのある行動をたくさんやってしまうと、1~2週間後に次の人に感染させてしまう。しかも高齢者や持病のある方であれば重症化する可能性があります。

夏休みで実家に帰るとか、高齢の方、持病を持っている方に会う直前(1~2週間)の行動というのはこの夏は非常に気を付けないといけないと思います。

的野多加志
的野多加志

2007年長崎大学医学部卒業。亀田総合病院、国立国際医療研究センター、国立感染症研究所を経て、2017年から飯塚病院 総合診療科に赴任、2019年から現職。国立病院機構本部DMAT事務局/厚生労働省DMAT事務局を兼務。日本感染症学会専門医/指導医、日本内科学会総合内科専門医/指導医、米国内科学会上級会員、JICA国際緊急援助隊感染症対策チーム隊員。