コロナショックで揺れる世界の株式市場に、原油価格初のマイナス、さらに4月21日午後には「北朝鮮の金正恩総書記が重体か」という報道と、新たな不確実要因が加わり、より不透明感を増している。
今後の株式市場はどうなるのか? マネックス証券のチーフ・ストラテジストである広木隆氏に聞いた。
この記事の画像(4枚)原油先物史上初のマイナス その影響は
――20日のNYでは、原油先物が史上初のマイナス圏に突入しました。期近物だったという理由があったにしても、この異常とも言える事態をどう捉えていらっしゃいますか?
広木隆氏:
価格がマイナスになるなんて普通は理解できないですが、あり得ない話かというとそんなことはなくて、例えば粗大ゴミや産業廃棄物を捨てる際にはお金がかかりますよね。つまり、これは原油というどうにもならないモノの「売買」取引ではなく、「処分」なんですね。
いま景気が悪く、さらにコロナで各国が移動制限をしているので、飛行機は飛ばないし、車も使わないから燃料を使わないわけです。ですから、原油の在庫でどこも貯蔵タンクがいっぱいになっているのです。
――原油を買っても貯蔵する場所がないし、かといって捨てることも出来ないから金を払ってでも引き取ってもらうしかないと。
広木隆氏:
そうです。5月物の取引は4月21日が最終日です。ですから最終売買日が迫っていた20日、「処分しなければいけない」買い手の投げ売りが嵩んで価格が下がり、さらに「お金を払ってでも引き取って」という感じになってしまいました。というわけで、マイナスという異常な価格がついてしまったのですね。
では、受け渡しまでまだ1ヶ月ある6月物はどうかというと、価格は約20ドルです。ですので、今の原油価格は20ドル程度と考えていればよく、20日の価格は明らかに異常値です。
北朝鮮の“有事”は日経平均にプラスか
――20日のNYは結局、前日比600ドル程度値を下げました。21日の東京も流れを受けて日経平均は朝方から軟調でしたね。
広木隆氏:
NYは大きく下げたとはいえ、こうした異常事態が発生しても、17日の700ドルの上げ幅分を全部帳消しにはしていません。21日の東京も過剰反応はしませんでした。
考えてみれば、日本の産業・経済にとって原油安はプラスのはずです。ただ、原油安の恩恵を受けるはずの物流業界が、実はコロナで一番打撃を受けているのですが。
午後は「北朝鮮の金正恩総書記が重体か」という報道が伝わって、先行き不透明感から一段安になりました。本来は下げる話ではなかったのですが、取引時間中に動いていたNYダウの先物が下がったので、つられたかたちです。
――今回の北朝鮮報道は下げ要因にはならないと?
広木隆氏:
CNNの報道は憶測でしかないようですが、もし万が一「有事」があれば、日経平均株価にとってはプラスに働くと思います。
北の体制崩壊は、日本にとって「地政学的リスク」が取り除かれることになりますし、新たな市場を開発するチャンスともなります。もともと株式市場は不確実性を嫌いますが、21日はコロナで手一杯な中で新たな不透明要因が加わり、「もうこれ以上考えたくない」と売りにつながったのでしょうね。
ただ、原油価格が史上初のマイナスになるとか、北朝鮮で不測の事態とか、次々とニュースが入ってきても、それほど下げないという意味では、株式市場にはかなり耐久性がついてきたと言えるでしょう。
「アフターコロナ」を見据えた日米株式市場
――これだけ悪材料が続いていても、日米とも株式市場が底堅く見えますが、今後の展開をどう見ていますか?
広木隆氏:
中国GDP初のマイナス、原油価格初のマイナスと続いても、日経平均もダウ平均も落ちません。アメリカのナスダックは、年初の水準を取り戻しました。アメリカでは「コロナ関連株」のバイオ・製薬企業の他にも、Eコマース・クラウドサービスのアマゾンは史上最高値を更新していますし、「巣ごもり消費」のネットフリックス、「アフターコロナ」でガソリンから電気自動車へのシフトを見込んだテスラの株価も好調です。株式市場では、コロナ時代を象徴するようなことが際立って見えていますね。
――株式市場は今後「アフターコロナ」を見据えながら、買い材料を探す相場となりそうですか?
広木隆氏:
アメリカの失業保険請求件数をみていると、5月の雇用統計は失業率が10%を超えると思われます。しかし市場では、こうした悪いニュースを既に織り込んでおり、「悪くならない方がおかしい、当たり前だ」とここまで上がってきました。
今後は、コロナの治療薬が出たとか、経済封鎖を段階的に解除していくとか、そういう方向に向いていくと、相場がしっかりしていくのではないでしょうか。
――ありがとうございました。