カフェやレストランで集う人々の姿がパリから消えて、20日以上が過ぎた。

こうした中、日本政府は4月7日、7つの都府県を対象にした緊急事態宣言の発令に踏み切った。レストランで食事をする、スポーツジムに通う、子供の世話をする…など、様々な面で日常生活が大きく変わり、これまで当たり前にできたことを自粛しなければいけなくなった。外出自粛によって、自宅での時間をどのように過ごすかが誰にとっても重要な問題となった。

日本の緊急事態宣言には法的な強制力がない一方で、ニューヨークやパリでは罰則を伴う厳しい外出禁止措置が行われている。「ロックダウン」が続く中、フランス市民はどのように過ごしているのだろうか。

フランスならではの「アペロ会」をオンライン上で開催

フランスには、「アぺロ」という習慣がある。仕事が終了したあと、本格的なディナーの前に、同僚や友人と一杯飲む会だ。世間話で盛り上がったり、うれしい出来事を打ち明けたり、フランス人にとって欠かせないコミュニケーションの場だ。

この「アペロ」は、新型コロナウイルスで外出が禁じられた今、場所を変えてインターネット上のビデオ通話で行われるようになっている。

そこでさっそく、知人とネット上で「アぺロ会」を開催した。それぞれの参加者がワイングラスを片手に、リモートワークならぬ「リモート乾杯」をすると、自然と以前のような笑顔があふれ出した。

友人の1人は、「みんなと話すことや意見交換すること、情報を共有することがこんなに重要なことなのか」と漏らした。フランス人にとって、会話を通じたコミュニケーションがいかに重要か、再認識した瞬間だった。

話題はもちろん長引く隔離生活についてだったが、久しぶりに友人と会話ができて、私も素直にうれしかった。

また、別の友人であるグザビエさんは、「テレワークで、より家族との時間が過ごせる。子供の成長も見られてうれしい。新型コロナウイルスが様々な弊害を生む中でも、プラスに捉えられる要素は多くある」といったプラスの面を話してくれた。

家族との時間が増え、親子でできることに挑戦

フランスでは、3月17日に外出禁止が始まってから、自宅で家族と一緒に料理をしたり運動をしたりする動画が多く投稿されるようになった。

子供たちはというと、休校でも学校から毎日送られてくる宿題に取り組んでいる。しかし、友達と会えず、外で遊ぶこともできないことから、多くの子供たちがストレスを溜めている。

両親も自宅勤務を強いられている上に、子供の世話も必要になったため、親子が一緒にできる遊びが必要となった。

家族全員で行えることは、料理!フランスで言えば「パン」だ。初めてパンを焼いたり、自分のおやつのマフィンを焼いたり、普段ならスーパーやパン店で買う商品が自家製に変わる楽しさを体験する子供が増えている。

フランス全国食品産業協会(ANSA)の調査によると、隔離生活が始まってから小麦粉の売り上げは2倍以上にも跳ね上がったという。

これまで、半径1km以内での軽い運動のための外出が許可されていたが、気温20℃を超えた4月上旬の週末に、市民の気が緩んだことから、パリでは規制がさらに強化された。結果的に、ジョギング程度の運動さえ、午前10時から午後7時まで禁じられるようになってしまった。

こうした中、スポーツで子供のストレスを解消する方法も注目されている。

ジムのトレーナーなどが、ビデオ通話を通じて無料で授業を始めていて、カラテのレッスンやヨガクラスなど、多くの国民が日常のストレスを発散させている。

プロのトレーナー、ルシル・ウッドワードさんは、「子供参加型」の動画を毎週配信している。

ルシルさんは、「ライブ配信には、500人から2500人の視聴者が参加してくれています。子供のみなぎるエネルギーを発散するため、特別に子供と大人のセッションを開始しました」と話す。

緊急事態宣言が出た日本の家庭に向けて、ルシルさんは次のようなアドバイスをしてくれた。

「私からのアドバイスとしては子供たちをストレスから『解放』する必要があります。勉強がはかどらなくてもいい。こんな時こそ違うものを学び、成長してもらいたいんです。肩の荷を下ろして」

しかし、天気に恵まれた日々が続く中での隔離生活は、とにかく長く辛い。ルシルさんは、「隔離が始まった頃に比べて気持ちを維持することは難しいですが、やる気を失わないようにすることが大切です」とも語ってくれた。

そろそろ動画によるトレーニングに飽きてきたころ…

一般のトレーナーだけでなく、多くのスポーツ選手が独自の訓練メニューを投稿し始め、長い隔離生活にうんざりし始めた市民を励ましている。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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この動画を配信しているのは、2016年のリオ五輪で2度目の金メダルを獲得した柔道界のレジェンド、テディ・リネール選手だ。

市民を運動不足から救うために一役買って出た選手たちだが、その多くが満足に練習ができない環境にいるのも事実だ。東京五輪の1年延期が決定された今でも、フランス代表選手らは毎日自宅で練習を続けている。

東京五輪で金メダルを目指しているリネール選手は、フランスのスポーツ紙レキップで「いいトレーニングルームを設置した。練習もできて、コンディションを維持できる。(隔離が)始まってから一度も休まず、1日2回の練習をしている。」と現状を語った。

東京五輪の延期についても、「あと1年、準備期間がある。それまでに新型コロナウイルスが終息していることを願っている」と前向きに受け止めている。

また、2月にパリで行われた大会で、リネール選手が打ち立てた10年間無敗の歴史にピリオドが打たれた。それでもリネール選手は、「ポジティブに捉えている。その大会で起きたことが五輪ではなくてよかった。目を覚ますことができた」と五輪への復活を誓った。

フランスの振付師はこんな時こそクリエイティブに!

忙しい毎日が無くなり、今自分に何が出来るのか?

そんな思いから、フランス芸術界でも、国民にやすらぎや笑顔を届ける動画が増えている。映画界やテレビ界で有名なフランス振付師のメディ・ケルクシュさんは、時間があるからこそクリエイティブに過ごそうと考えた。「外に行かずとも自分を解放できる」手段として動画を投稿したのだ。

ケルクシュさんは、著名なダンサー団体と協力してダンスの動画を撮影した。

この撮影を通じて、体全体で表現するダンサーにとって、携帯やパソコンで振り付け全体を上手に見せる難しさを知ったと言う。音楽の微妙なズレや、カメラにきちんと納まりきらないといった難しさも経験したが、楽しい制作活動だったという。

こうしてできた第1弾の動画は、今やツイッター上で140万回の再生回数となっている。第2弾は、20年ほど前に日本でも人気となったフランス映画「アメリ」の主題歌への振り付けとなった。

一方、クラシック音楽業界でも公演が中止となり、多くのオーケストラが活動停止となっている。フランス国立管弦楽団は、遠隔での演奏で、音楽を通して人々に少しでもこの非常事態での緊張を和らげようと、ラベルの「ボレロ」を国民へ届けた。パリ・オペラガルニエのバレエダンサーらも、公演を無料で配信するなど各業界で国民への配慮が伺える。

世界の人々は「家から出られない」という、これまでに経験したことのない事態に見舞われ、様々なストレス解消法を模索している。

時間だけがいたずらに過ぎていき、何をしたいのか、何をすべきか、単純な疑問への答えにたどり着くのも難しい。時間の流れる速度が異常に遅く感じる。こんな時期だからこそ、自分を見直す時間にするしかないとも思う。

しかし、最期の瞬間に家族に会うこともできず亡くなった犠牲者たちや、集中治療室で闘病を続ける人たち、そして毎日寝ずに看病を続ける医療関係者を思うと、家にいるだけでいいというのは、贅沢なことだ。「家にいられる」=「貴重な時間がある」と思い直して、自分に付加価値をつけられる努力をしたいと心から思うのである。

さて、明日から何をする?

【執筆:FNNパリ支局 小林善】

小林善
小林善

FNNパリ支局