新型コロナウイルスの影響はアフリカのスポーツ界にも

新型コロナウイルスの猛威はいよいよアフリカ大陸にも及び、ほぼ全域で感染者がでる事態となっている。その影響はアフリカのスポーツ界にも及んでいる。

ケニアの女子バレーボール代表チームで日本人がコーチを務めていることをご存じだろうか。JICA=国際協力機構から派遣されている片桐翔太さん(32)だ。片桐さんは「東京五輪の出場権を獲得してくれ」とのケニアバレーボール連盟会長の要請を受け、2019年5月に代表チームのコーチに就任。ケニア代表は2004年のアテネ大会以後、出場チャンスを逃していたが、2020年1月悲願の東京五輪出場権を獲得した。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で先が見通せない状況となっている。日本に一時帰国中の片桐さんにこれまでの経緯や五輪への意気込みを聞いた。

日本人コーチの戦略

ケニアで指導を始めた片桐さんはまずバレーの技術だけでなく、フィジカル面の強化を重視したという。代表チームの選手は身体能力に自信があるがゆえに筋力トレーニングを疎かにしていると感じたからだ。片桐さんは最新の筋トレメソッドを導入し、選手たちに筋力トレーニングの重要性を認識させた。また、2019年9月、日本で行われたワールドカップバレーなど主要国際大会にも帯同。ケニアは参加12か国中、11位だったがアフリカのライバル国カメルーンに勝利。片桐さんはこうして代表チームとの信頼関係を築いていった。

2019年日本で行われたワールドカップバレーでウォーミングアップの指示をする片桐さん

そして、ケニアの女子バレー代表は1月、東京五輪出場枠「1」を懸けたアフリカ予選を全勝で突破し、悲願となる16年ぶりの五輪出場権を獲得したのだ。この瞬間、片桐さんは「勝ったよ!」と駆け寄ってきた選手の姿を見て号泣。チームと共に東京で、夢の舞台に立てることに安堵したという。そんな片桐さんに監督のポール・ビトークさんが「アフリカでは男は人前では泣かない」と笑いながら話しかけてくれたことを今も思い出すという。

ケニア代表選手の練習風景、時には屋外でも

新型コロナウイルスのケニア上陸で環境は一変

それからわずか2か月、片桐さんとケニア代表を取り巻く環境は一変する。3月13日、ケニアで初めての新型コロナウイルスの感染者が確認されたのだ。これまでアジアや欧米で猛威を振るっていたウイルスがついに片桐さんが愛するケニアに上陸した。その3日後の16日には代表チームの一切の練習が禁止された。そして17日、片桐さんは派遣元JICAから、感染リスクと治安悪化の懸念を理由に帰国命令を受けた。

ビトーク監督にこの件を報告すると、残念としながらも「神様がたすけてくれる。一緒にオリンピックの切符を手に入れたのだから、一緒に行くぞ!ウイルスが収束したらすぐに呼び戻すからな」と声をかけられたという。片桐さんは「練習が出来る目途が立たないので、帰国はやむを得ない。しかし、こんな時だからこそケニアに残り、みんなと一緒に乗り越えたい、申し訳ない気持ちになった」と帰国が決定したときの心境を話す。

アフリカ選手権優勝 片桐さん左下

そして3月24日、監督や選手に会うこともできないまま日本に帰国。ちょうどこの日、安倍首相とIOCバッハ会長が東京五輪を1年程度延期することで合意した。現在は山形の実家から選手とメールなどで連絡をとっており、一人で出来るトレーニングの指示や、メンタル面についても相談にのっている。片桐さんは東京五輪の延期決定について「連日ものすごいスピードで、自分たちを取り巻く状況が変わっていった」と振り返る。

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、片桐さんは「果たしてケニア政府は選手団を派遣するのだろうか、大切な選手の健康は大丈夫かという不安があった」「延期の決定は良かったと心から思う」と話す。

「今は少しでも早く選手たちが練習できる環境に戻り、そしてそこに早く合流したい、今は自分でも驚くほど前向きな気持ちになっている」と話す。

「来年の東京オリンピックでは日本の人々に、ケニア選手の笑顔で楽しむバレーを見てもらいたい。皆さんの応援が力になるので是非応援お願いします」と抱負を語る。

公共の場ではマスク着用が義務付けられた

先が見えない不安との闘い

しかし、状況は依然厳しい。ケニア政府は全ての国際線の運航を一時停止しており、片桐さんの再渡航の目途はまだたっていない。また、スポーツチームの練習は禁止され、学校も休校中であり、夜間の外出禁止令(19時~5時)も出ている。スーパーマーケットなどは通常通り営業しており、生鮮食品などの品揃えが不足しているということはないが、公共の場に行く場合はマスクの着用が義務付けられている。

今、最も懸念されているのは医療制度の脆弱さである。人工呼吸器などは圧倒的に不足しているとみられ、重症化した感染者が多数出た場合、死者は想像を超える数になる可能性がある。また、日当払い労働で暮らしている人も多く、こうした低所得層にとって経済状況が悪化すれば大きな打撃となる。さらに、強盗の多発や暴動など治安の悪化も考えられる。

路上マーケット 昼間は通常営業(マスク着用義務前の4月5日撮影)

新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、来年の夏、東京がケニア女子バレー代表選手たちと片桐さんの夢の舞台になることを願ってやまない。

※4月12日現在 ケニアの感染者数 191人 死者7人 (米ジョンズ・ホプキンズ大の集計)

【執筆:FNNロンドン支局 小堀孝政】