東京での新型コロナウイルス感染者の急増に伴い、病床の確保が喫緊の課題だ。
都によると、4月1日夜の時点で都内に入院している患者数は531人。一方、都が確保した入院患者の受け入れ病床は現在700床で、この増加ペースでは数日で満床になる。
現状では、感染症法に基づき陽性と診断されれば重軽症を問わず指定医療機関へ入院させるのが原則だ。陽性であれば無症状でも入院となるため、早々とベッドが足りなくなる。都は受け入れ先を一般病院にまで広げることで最大4000床まで増やす方針を示したものの、一般病院が感染対策を徹底するのは容易ではない。東京に限らず地方でも受け入れ病床の確保は喫緊の課題となっており、重症者に対応しきれない「医療崩壊」を招く可能性も指摘されている。
日本医師会「医療体制の維持は危機的状況だ」
4月1日、日本医師会は異例の発表に踏み切った。感染拡大を受け、医療現場の対応能力が限界を超えるとして「医療危機的状況宣言」を出したのだ。医師会の横倉会長は「一部の地域では病床が不足しつつあり、感染爆発が起こってからでは遅い」と強い危機感をあらわにした上で、医療提供体制を維持するため、国民に対して自身の健康管理や感染を広げない対策などを呼びかけた。
今後さらに感染が拡大すれば、「陽性者は全員入院」という扱いが見直され、軽症者や無症状者については自宅療養が基本になると見られる。大半が軽症で済んでいる現状を踏まえると重症者を優先的に治療するのは合理的だ。この重症者向けにベッドを空けるため、軽症者や無症状者については「病院以外の施設」で隔離する対応を取ったのが、お隣・韓国だ。
「医療崩壊」を経験した韓国 “病院以外”で隔離
この記事の画像(5枚)韓国の感染者数は9976人(4月2日時点)に上っているが、3月下旬以降の1日の感染確認数は100人前後で推移。日本よりも感染拡大のペースが落ちている。その分ピークを迎えた時期も早く、2月下旬には中国に次ぎ世界で2番目に感染者数が多い「感染大国」となった。
積極的なウイルス検査を進めてきた韓国では2月末の時点で検査数が7万件を超えている(当時日本は約1万1000件)。日本と同様に軽症者や無症状者も感染確認されれば入院が義務付けられていたため、瞬く間に受け入れ先は満床となった。その結果、大規模集団感染が発生した南部・大邱市では入院待ちの感染者が溢れかえり、高齢者や基礎疾患を持つ人が自宅で死亡するなど、一部で医療崩壊が起きたのだ。
事態を重く見た韓国政府は3月2日に“病院とは別の隔離施設”で軽症者の受け入れを開始した。それが「生活治療センター」だ。
公共施設を突貫工事 収容数はのべ1万人
最初に運用が始まった大邱市の生活治療センターは、元々は学校教諭の研修施設で政府は突貫工事でこれを改装。160人分の病床を確保した。センターには大学病院の医療スタッフが常駐し、毎日2回、体温と呼吸器の症状の有無をチェックし、必要に応じて胸部のエックス線検査で肺炎の症状も確認する。また入所者には体温計や医薬品が入った医療キットのほか、下着や洗面具、マスクなどの生活用品も支給される。そして入所者の容体が悪化すれば病院へと移送される。逆に、医療施設に入院している感染者で症状が改善した人がセンターに移るケースもあるという。
センターの整備に向け民間企業の動きも早かった。政府の呼びかけに応じる形で大手財閥のサムスンや現代自動車が大規模な社員施設を提供。さらにはソウル五輪で使われた選手村も利用されている。センターは大邱市のほかソウルにも整備され、4月2日時点で全国19カ所が運用中で約1200人の感染者が収容されている。ちなみに現在までに整備されたセンターは計123カ所、約1万2000人分に上るため、稼働しているのは10分の1だ。ベッドが不足するどころか、逆に余っているのだ。
また地域への風評被害も懸念されていたが、センターの多くは住宅街から離れた山間部などに位置しており、場所の選定を巡り韓国政府が熟慮したことが伺える。
“深刻な医療崩壊”は回避した韓国
膨大な数のウイルス検査については韓国内でも一部で懸念する声があったが、わずか1か月間で1万人分の収容施設を整えたそのスピードと規模感には肯定的な意見が多い。重症者を治療する病床の確保につながったことはもちろんそうだ。また軽症者でも短期間で急速に症状が悪化するケースが確認されている以上、医療スタッフによる継続的なケアは意味のあるものと言える。
そして約1万人の感染者を出しながらも広範囲で深刻な医療崩壊が起きていないのは、センターの整備と無関係ではないだろう。医療崩壊への危機感がピークに達している日本にとって、韓国のこうした取り組みは一つの参考になるかもしれない。
(FNNソウル支局 川崎健太)