自転車の廃材が見事なアートに生まれ変わる。本物の恐竜の化石のような「廃材アート」を手がけるのは、老舗自転車店を経営する男性。創作にかける情熱と制作技術を取材した。

2年で約20作品を制作 個展も開催

一見、本物の化石のような恐竜のアート。よく見ると、尻尾は自転車のチェーンでできているようだ。そしてスタンドも…?

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サイクランドモリ・森正彦さん:
主になんですけど、自転車の廃材を使ったやつですね。この部品でやろうとか、どこに使うか考えるのは楽しいです。それがまた、見事に狙った通りにはまった時は、お~みたいな

佐賀市長瀬町にある「サイクランドモリ」。1921年、大正10年創業の老舗自転車店だ。4代目の森正彦さん、46歳。店を切り盛りする傍らで取り組むのが、自転車の廃材を使ったアート。

サイクランドモリ・森正彦さん:
人と違ったものをしてみたいなというのはありましたね。自分のできる範囲で、できるものを使って、身近なものを使って何かできないかというのを考えました

佐賀北高校芸術コースを卒業し、九州産業大学芸術学部でプロダクトデザインを学んだ森さん。

その後は製造業や小売業などに就き、芸術の世界からは遠ざかっていたが、家業を継いだ10年ほど前、時間にも少し余裕ができたときのこと。森さんの制作意欲に再び火をつけたのは、同世代の活躍だった。

サイクランドモリ・森正彦さん:
先輩である画家の池田学さんとか後輩とか、みんなそれなりに活躍して絵を描いたりとか、続けているのを見て。人に何か、自分で作ったもので感じてもらえることができたら良いかなと思って

最初に作ったのは、息子の恐竜図鑑に載っていたティラノサウルス。制作期間は約1カ月で制作費は0円。

そして、2年ほど前から本格的に“廃材アート”を始め、これまでに作ったのは約20作品。2021年6月には個展も開いた。並べた作品のほとんどが売れたという。

サイクランドモリ・森正彦さん:
「今まで見たことない」と言われたことが、一番嬉しかった言葉ですね

作品を買った人:
一目惚れでした。もうこれしかないと思って。かっこいいと、うちのガレージにぴったりじゃないかなと思って

「松の盆栽」を再現した作品。本物のように見える幹の部分は、自転車の車輪の部材、スポークで表現した。

“無駄”も作品の味「身近なものを作っていきたい」

中溝孝紀記者:
今回、取材用に作品を1つ作っていただけるということで、どういうものを?

サイクランドモリ・森正彦さん:
この自転車のチェーンとか、あと針金、鉄の部材ですね、ギアとか。これでイチョウを作りたいなと思います

中溝孝紀記者:
これがあのイチョウの木になるんですね

サイクランドモリ・森正彦さん:
はい。一応、予定では

主に使うのは自転車のチェーン。これらがどのようにしてイチョウの木になっていくのか。作業するのは、いつも夕方の店を閉めた後。

サイクランドモリ・森正彦さん:
こういうふうに曲げることによって枝ぶりの感じを出していこうかなと

森さんのアートの中心となる技術は溶接。しかし、ただの溶接ではない。

サイクランドモリ・森正彦さん:
さびていると、くっつきにくいんですよ。何でもなんですけど、溶接するときって全部磨かないといけないんですよ。そうしたらきれいにつくんですけど、ただこの「スパッタ」があんまり発生しなくなるんですよね。スパッタを残したい自分としては、きれいには磨かずに…

「スパッタ」とは、溶接する際に飛び散って表面に残る金属のくずのこと。本来はヤスリなどで削られる“無駄なもの”だが、森さんのアートはそれをわざと多く発生させて残す、ある意味”邪道”な方法で作り出される。

サイクランドモリ・森正彦さん:
自分としてはこのデコボコ、凹凸が味になるんじゃないかなと思って

作業すること4日。

サイクランドモリ・森正彦さん:
できました。制作時間はえーっと、まあ7時間くらい。有名な遺跡とか世界遺産に登録されているようなものが作れれば、すごくきれいだとは思うんですけど、自分はそこまで精密にはできないなと。身近にあるものを作って、いろいろ考えていきたいと思っています

完成した廃材アートのイチョウ(左)と本物のイチョウの木(右)
完成した廃材アートのイチョウ(左)と本物のイチョウの木(右)

――あくまでも趣味の延長?

サイクランドモリ・森正彦さん:
そうですね

――そこまで貪欲じゃない?

サイクランドモリ・森正彦さん:
いや~うん、波がありますんで(笑)

恐竜の作品は「県展」に出品したところ見事入選。佐賀県立博物館に展示された。

(サガテレビ)

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