10年で農林水産物・食品の輸出を5倍に!

政府は6日、日本の農林水産物・食品の輸出額を、2030年に今の5倍にあたる5兆円にするとの目標を打ち出した。この大胆な目標は、輸出拡大を目指す菅官房長官肝いりのものだ。

農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議・6日
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「安倍政権として、成長戦略、競争戦略の重要な指標として農林水産品の輸出を促進してきた。本日新たに輸出額の目標として、2025年に2兆円、2030年に5兆円を示した。新たな目標に向かってこれまで以上に各省が力を合わせて取り組んでいただきたい」

首相官邸で開かれた「農林水産物・食品の輸出拡大に向けた関係閣僚会議」で、菅長官はこのように発破をかけ、政府一丸となって輸出促進に取り組むよう訴えた。

農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議・6日

この会議の中で、江藤農水大臣は、農林水産物・食品の輸出拡大の意義について次のように語った。

「国内の市場は人口減少、高齢化が進んでいるということで縮小していく。その中で、我が国の農林水産業の出口戦略として、今後拡大が見込まれる世界の市場に目を向けていくのが当然だ。(中略)輸出の拡大を通じて、生産者の方々に利益が還元され、やる気が出る。それによって次の担い手が出てくるという状況を我々として作り出していかないといけない」

江藤農水大臣

去年は輸出目標未達成

菅長官が挨拶の中で引き合いに出したのは、オランダだった。

「我が国で言えば九州と同じ程度の面積であるオランダは約10兆円を輸出している。日本の野菜や果物はアジアでは大変人気があり、我が国の農林水産品の輸出はまだまだ大きく伸びると考えている」
オランダの約10兆円に対し、日本の去年の輸出額は9121億円に留まる。実は、政府は2019年の農林水産物・食品の輸出額目標として1兆円を掲げていたが、この目標にはわずかに届かなかった

(農林水産省資料より)

目標未達成の理由としては、菅長官が「水産物の不漁」(2月7日記者会見)をあげたほか、政府の担当者は、関係国の政治・経済情勢の影響に加え、「輸出先のニーズにかなう国内の体制整備が至らなかった」と分析する。

輸出を目指した産地の生産体制が出来ていなかったため、例えば海外から日本産品への関心があっても十分な量が供給できない、求められる品質を提供できないというようなミスマッチがあったという見方だ。輸出額は7年連続で過去最高を更新しているが、世界に伍する輸出額を達成するためには、思い切った施策が求められる。

菅長官渾身の「農林水産物・食品輸出の司令塔」

(農林水産省資料より)

そこで輸出力強化の秘策として打ち出されたのが、4月に新設される「農林水産物・食品輸出本部」だ。本部長(農水大臣)の元、これまで各省に分かれていた輸出先国との国際交渉や加工施設の認定などを、農水省を中心とする本部で統括することになる。省庁の縦割りを排し、政府一体となって、農産品の輸出を拡大していく体制を構築する狙いだ。本部の元、実行計画(工程表)を輸出国・対象品目ごとに策定したうえで、輸出相手国の規制に適合するよう必要な国内対応や、相手国との協議を行うことにしている。

(GFPのホームページ)

さらに、「GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)」と呼ばれる仕組みで、輸出に意欲を持つ農林水産業者の生産者や食品加工業者を商社や輸出業者とマッチングする制度が設けられ、輸出に意欲持つ人が2700人以上登録をしている(3月9日現在)。

加えて、HACCPなど世界水準の食品安全基準に合致した輸出向け施設の整備支援事業(2020年度にかけて約80施設を支援見込み)などの施策が整備され、これらを通じて、輸出に向けた取り組みを強化する予定だ。

なお、これまでの農林水産物・食品輸出の統計においては、例えば丸太から作られた机など、農林水産物由来の加工品は「工業品」として分類されてきたため、カウントされていなかった。しかし今年からは、こうした農林水産物由来の「加工品」が「農林水産物輸出」の統計に加えられるようになる。一見、是が非でも農林水産物輸出の額を増やすための手段にも映るが、付加価値を付けて輸出する農林水産業を推進するためには、こうした加工品も菅長官肝いりメニューに加えることで、政官財をあげた輸出促進の推進力とする狙いもありそうだ。

新型コロナウイルスの脅威も…今後の課題は

政府はこうして5兆円の輸出目標を掲げたわけだが、足下では世界的な新型コロナウイルスの流行に直面しており、経済やサプライチェーンへの影響が懸念されている。政府関係者は、こうした状況下でも「中長期的な目標を考えないといけない」と強調するが、5兆円の目標に向けたスタートは早速困難に直面していると言えよう。

また、現在の1兆円弱の輸出のうち、アジア向け輸出が多数を占めている。サプライチェーンや人口、経済成長から考えると当然だろうが、輸出が特定の地域に集中すると、リスクもあるだろう。日欧EPA=経済連携協定なども活用し、地域的分散を図りながら輸出拡大を図っていくことが課題として挙げられるだろう。

輸出面における日本の農林水産業の命綱は、儲けを生み出せる高付加価値の産品づくりだが、その高付加価値の産品をどうやって効率的に生産し、同時に海外への販路をいかに広げていけるか。また、食品安全基準や消費動向といった海外のニーズに見合うものを作れるか。掲げた大きな目標に見合うだけの、政府一体となっての実行力が問われていくことになる。

(フジテレビ政治部 首相官邸担当 山田勇)