タイの首都バンコクは3月21日、市内のデパート(食料品店や日用品除く)や娯楽施設などの営業を3週間禁止すると発表した。それに先立ちタイ政府は入国規制の厳格化も発表した。これまで規制が比較的緩やかだったタイだが、地元当局がここにきて相次いで厳格な措置に踏み切っている。

その背景にあるのは、1週間前から始まった感染者数急増への危機感だ。そして急増の主要因の一つが、タイの格闘技「ムエタイ」競技場で発生した集団感染である。

「無観客措置」も手遅れ…格闘技で集団感染

体が衝突するたびにリング上に飛び散る汗。両手両足を使って様々な技を繰り出す選手たち。立ち技の世界最強格闘技といわれるタイ式のキックボクシング「ムエタイ」のワンシーンだ。

タイの国技である格闘技「ムエタイ」の二大殿堂の一つ、ルンピニー・スタジアムで3月6日に行われた試合で集団感染が発生していたことが分かった。

他の競技場でも感染が発覚し、現時点でムエタイ絡みの感染者数は観客やその家族など合わせて125人(3月22日現在)に上っているが、政府はさらに数百人が感染している恐れもあるとみていて事態は深刻だ。

集団感染が起きたルンピニー・スタジアム(タイ・バンコク)
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この試合会場には当時、有名な俳優やタイ軍関係者、有力政治家、そして大勢のファンが来場していた。感染発覚が遅れたこともあり、潜在的な感染者はすでにタイ全土に広がっている。タイ当局は参加者の追跡を最重要課題と位置づけていて、封じ込めに必死だ。

ルンピニー・スタジアムは集団感染が起きた4日後にも、試合を行っていた。主催者は、その日から感染者対策として試合を無観客に変更していたが、こうした措置は既に手遅れだった。

ムエタイ関連の感染は2割に

ムエタイ格闘技場での感染は、ルンピニー・スタジアムだけではない。二大殿堂のもう一つ「ラジャダムナン・スタジアム」でも、ファンの感染が発覚したほか、別の試合会場でも感染が起きていた。

ムエタイの3つの会場での感染者合計は125人(3月22日現在)に上る。タイ全土の全感染者数が599人なので、実に2割がムエタイ関連の感染者だ。ルンピニー・スタジアムでは、既に数百人が感染しているおそれもあるため、その数はさらに増える可能性が高い。

資料:ムエタイ試合の様子(過去の写真)

密室空間で応援…集団感染に

なぜムエタイ競技場で集団感染が起きたのか。

格闘技の試合会場では、大勢の観客が密閉された空間に長時間留まる。そして、隣の人と密着した状態で座り、ひしめき合いながら声援を送る。地元客の中には絶叫しながら、熱心に選手を応援する人も多い。多くの人が会場内で行われている「賭け事」に参加し、賭けた選手が勝つよう必死で応援するからだ。会場内にいた全ての人は、濃厚接触の状態に置かれていた。

タイの感染者数(出典:WHO Thailand) 2020年3月21日時点

バンコクも事実上“封鎖”

連日の感染者急増に危機感を抱くタイ当局は、ここにきて入国制限や商業施設の営業禁止など、相次いで厳しい対策に踏み切っている。

タイ政府は22日から、タイに向かう航空機に搭乗する際、日本を含む感染拡大国からは、新型コロナウイルスの感染リスクがないことを証明する健康証明書の提示を義務付けた。これは「非感染証明書」と同様であり、健常者に検査を行っていない日本で取得するのは難しく、タイ当局による事実上の入国制限となっている。

またバンコク首都圏は22日から、商業施設(食料品・日用品以外)や娯楽施設などの営業を3週間禁止すると発表した。禁止の対象は、ほかにも教育機関やジムなど幅広い項目が並ぶ。

生活に欠かせないスーパーマーケットや食料品店、コンビニエンスストアは通常営業で、飲食店に対しては、持ち帰りや宅配のみ営業を認めている。しかしタイ国内では、不安に思った人たちが、一時的にスーパーに殺到した。

現地の日本人社会にも不安が広がっている。タイには7万人以上の日本人が住んでいるが、現状では日本に一度帰国したらタイに戻ることは出来ない。学校や塾は閉鎖され、レストランやカフェでの飲食もできない。

タイは今、最も暑い季節にあり、昼間の気温は35度を超す日も多いため、外を散歩するのもままならない。それは同様に事実上の封鎖状態にあるマレーシアやフィリピン、インドネシアなどに住む日本人も同じだろう。

社会的距離を保つための試み 提供:バンコク都庁広報

社会的距離を保つのが重要

「誰が感染しているか分からない。人混みに近づかないでほしい」
タイのアサウィン都知事は21日、こうテレビで市民に対して呼びかけた。

タイでも新型コロナの感染を防ぐために、社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)を取るよう求められている。つまり人々が互いに物理的な距離を保って、濃厚接触を避けるための手法だ。すでにバンコクでは、エレベーターなどでも、距離を取るための工夫がなされている所もある。

これ以上の感染を食い止めるため、そして自分の身を守るためにも、こうした「社会的距離」を一人ひとりが意識するのが大事だ。

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【執筆:FNNバンコク支局長 佐々木亮】