新型コロナによるマスク不足でも“カスハラ ”が登場

「お前がつけるマスクがあって、なんで私たちに売るマスクがないんだ!」

新型コロナウイルスによる感染拡大の影響で、全国のドラッグストアから一時マスクが消えた。多くの国民が予防のために、一斉に買い求めた結果だろう。

そのような中で起こったのが、店員などに理不尽な悪質クレームや迷惑行為をするカスタマーハラスメント(カスハラ)だ。近年はセクハラやパワハラなどと並び、ハラスメントの一つとして認知されている。

そして今、このカスハラが増えているというのだ。

多くの店舗ではマスクが品不足となっている

実際、編集部で「キレられたエピソード」を募集したところ、お客さんにいきなり激怒されたという経験談が複数寄せられたのだ。

「私は数年前までとある駅の売店で働いていました。夏のある日、40代くらいの女性が飲料水1本を買いに来て、私はいつものように袋に入れるか尋ねましたが、女性は無言。もう一度私は同じように『お入れしますか?』と尋ねると、『あのさぁ!袋入れないと特急乗る時持ってけねぇだろ!!!バカ!!!』と大声で怒鳴ってきました。そして、その女性はその場で私が勤める売店の営業本部にクレームの電話をかけていました。」(投稿者:HIROさん)

「タバコを買いに来た50代後半くらいの男性のお客さん。聞いたこともない銘柄を言われて、『番号は何番ですか?』と番号で聞くと『しらん!◯㎎じゃ!!』とキレられました。その後レジは塞がれ、後ろには6人もお客さんが並んでるのに。困ってるのをニヤニヤしながら見て楽しんでいる。結局は今のメビウスという事が判明。お客様なら何をしても許されると。」(投稿者:ゆきうさぎさん)

あるカスタマーハラスメントに関する実態調査(2019年)では、「直近の3年間においてカスタマーハラスメントが増えている」と回答した人が半数以上となったというデータもある。

なぜ、消費者である客が“モンスター化”して、カスハラをしてしまうのだろうか。そこにはどのような理由があるのだろうか。

「対面・電話・メールまで クレーム対応『完全撃退』マニュアル 」(ダイヤモンド社)などの著者でもあるクレーム対応コンサルトの援川聡さんに話を聞いた。

今は主婦やサラリーマンなど“普通の人”がカスハラをする時代

ーーやはりカスハラは今、増えている?

私は警察官を辞めたあと、24年間に渡ってクレーム対応の仕事をしてきました。転職した当初に多かったのが、法に触れないギリギリのラインで「誠意を見せろ」などと言ってくる、生業にしているような人たちからのクレームです。

このような人は現在ももちろんいますが、それよりも普通の主婦やサラリーマン、かつては高い役職にあったシルバーの方々がクレームなどを言ってくる時代となりました。このような一般人が、ちょっとしたきっかけでタガが外れ、カスハラをしてくるのです。


ーーなぜ、そのような一般人がカスハラをするようになった?

日本の社会全体に先の見えない不安感や不満があることが一因だと考えています。私たちも普段は満員電車などに揺れても我慢していますが、そのちょっとしたイライラは溜まっていますね。

さらには、異常気象や今の新型コロナウイルス、将来に対する不安などのストレスもどんどん溜まった状態になっていきます。それが、例えば電車がシステム障害などで止まってしまったことをきっかけとして、「俺が仕事に遅れたら大変なことになるんだ!」などと駅員に詰め寄り、いつもは立派なサラリーマンがとんでもないカスハラをしてしまうのです。

(画像はイメージ)

「携帯電話とSNS」の登場がカスハラ問題を増長

ーーこのようなカスハラをする人に年代などの傾向はある?

例えば、子育て世代の方々は、家事や育児で毎日が忙しい。現在のマスク不足の問題でも長時間並ぶ余裕がありませんので、ガーゼマスクで代用するなどいろいろ工夫をされている。カスハラをしているというイメージはありません。

それよりもリタイアして時間が余っているような、そしてオイルショックも経験した団塊世代がクレームを言っている印象です。“カスハラの闇”はシルバー側に広がっていると思います。実際、店員などに直接クレームを言う対人の比率で言えば、シルバー世代がどんどん増えています。

一方で、SNSやメールなどのネット経由のクレームになると若い人が多い。その他の特徴として「メールでは埒が明かないのでお会いさせてください」などと対応すると、「じゃあ深夜3時に来い」など明らかに真っ当ではない要求をしてくる傾向があります。ネット経由となると匿名性が高いですので、恐喝まがいのような要求もたくさんありますね。


ーーまた現在はSNSが発達した。これが何かカスハラに影響している?

かつては会社の前でビラをまくにしても、1000枚配るには10人いても1人100枚と大変な作業でした。それが今はSNSを通じて瞬時に何万、ときには何百万人へと届けることができます。

今は携帯電話の発達によって、ある意味、国民全員がカメラと録音機を持った生活をしています。弱者であった消費者が、携帯電話とSNSという強力な武器を手に入れたのが今の時代です。普通の人が簡単に多くの人の伝えることができるようになったのが、今のカスハラの問題を増長させているのは間違いないでしょう。

ーーそんな最近のカスハラ問題。要求する内容に傾向はある?

正論を振りかざしてくる方が増え、店頭などでも自分は悪くないということ示すために土下座などを強要することが多いですね。

例えば、現在起きているのが新型コロナウイルスによるマスク不足。この時のマスクが欲しいという渇望が最終的にどこに向くかというと、「政府に言っても仕方がない」となり、つい身近にいる店員へとなってしまいます。

「倉庫に隠しているんじゃないか?」などと、自分だけでもなんとかマスクを手に入れたいという感情になるのです。もちろん冷静であれば自分でも理不尽だとわかることが多く、悪質なクレーマーというよりは、今のパニック状態が消費者をモンスター化させている部分もあると思います。

目の前の相手に対して、心の闇が些細なことがきっかけとなって爆発しているということですね。

(画像はイメージ)

カスハラをされた際の取るべき店側の対応とは?

ーーではカスハラを受けた際に、店員側はどのような対応を取るべき?

まずは、お客様目線で対応することが重要です。マスク不足の問題でいうと「またマスクのことか…」と投げやりな態度になってはいけません。「マスクをお求めなんですよね? 早く供給して欲しいですよね」などと寄り添う姿勢が必要です。相手がパニック状態でも、しっかり向き合えば分かっていただけるお客様がほとんどです。


ーー具体的な内容をもう少し詳しく教えて

私はD言葉S言葉というような形で教えているのですが、「マスクがないから仕方ない」という説明において、「だからですね」や「ですから」「だって」「でも」などという頭文字がDで始まる言葉を使ってはいけません。

相手にとって、これらの言葉は“上から目線”に感じることが多く、さらに感情が高ぶってモンスターになりますよね。

逆に、Sの頭文字で始まる「左様でございますか」「すみません、本当に提供したいのですが…」などと誠意を持って対応を最初にすれば、全然違う結果になるはずです。


クレーム対応に謝罪なしでは進まない。限定的な謝罪を

ーー最初から謝罪をするような下手な態度に出ると、そこにつけ込まれることはない?

今回の場合でいうと、“マスクがない”ことについての限定的な謝罪は最初にするべきです。クレーム対応に謝罪なしでは進みません。「わざわざ足を運んでいただいたのにも関わらず、商品を提供できずに申し訳ございません」という形で、お客に与えている不快な思いや不満、手間をかけてしまったことに対しては謝罪します。

この点に関するピンポイントの謝罪ですから、「要望する商品を必ず用意しなくてはいけない」ということではありません。


ーー最後に、カスハラ対応として事前に準備できることはある?

まずは、対応する時間の限度を設定することですね。「最初の10分は必ずお客様と向き合いなさい」などと決めてほしい。そしてひとりのお客様への対応がこれ以上となった場合「業務に支障をきたし、これ以上説明しても変わりませんので失礼します」と打ち切っていいと思います。

もちろん店長などの責任者が助け舟を出すべきです。5分以上経ったら従業員のフォローをし、「店長の私からの説明も同じとなりますのでご理解いただけますか?」「他のお客様もいらっしゃるので業務に戻らせます」というような形のキッパリした対応ですね。どちらにせよ、具体的なマニュアルを本社が作成しないと現場が大変です。

ここでの注意点は、いきなりシャットアウトして終わりではなく、クレームを伝えるはけ口を残しておくことです。「マスクの入荷時期は店舗ではわかりません。本社の窓口にお伝えいただければ、企業としての責任を果たしてまいります」などと、現状をお客様に上手に説明する努力も必要となります。

(画像はイメージ)


テクノロジーやSNSなどのツールの発達、先行きが見えない日本社会への不安…。いろいろな要因が重なった結果が、今のカスハラの増加につながっているようだ。その対応策は、企業側が謝罪するべきところはしっかりと謝罪し、その上で過度な要求などに対して毅然とした態度で臨むことだろう。


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