「お客様の言うことは絶対」“おもてなし”をアピールする企業が気を付けたい3つのこと

カテゴリ:ワールド

  • 「おもてなし」を勘違いすると“カスハラ”にもつながる
  • サービスのバラつきや生産性の低下で集客・収益にも影響
  • 「おもてなし」が経営者の怠ける道を作った!?

2013年、ブエノスアイレスでの東京オリンピック・パラリンピック招致のためのIOC総会での最終プレゼンテーション。

東京オリンピック・パラリンピックの招致に大きく貢献したといっても過言ではないが、なかでも「お・も・て・な・し」というフレーズは、日本にとどまらず世界中の人々の記憶に強く残ったのではないだろうか。

あれから、日常でも「おもてなし」の言葉を耳にすることが増え、ここ数年では、ビジネスの現場にまで浸透した感がある。さらに、世界中へこの言葉が広がったことで日本に訪れる外国人観光客も「おもてなし」を期待しているかもしれない。

しかし、「おもてなし」と「一般的なサービス」は違う、とするグロービス経営大学院・教員の山口英彦さんいわく、「おもてなしをアピールすることには弊害もある」とのこと。いったいどういうことなのか、詳しく話を聞いた。

現場への負担増加・カスハラにも影響

グロービス経営大学院で教員を務める山口英彦さん

さっそく「弊害」とはどういったことなのか聞いてみると、おもに3つあるという。まずは、「現場への負担増加」だ。

「おもてなしはかなり特殊なタイプのサービスで、本来は限られた業態でしか求められなかったはずなのですが、2013~2014年を契機に、『おもてなしが日本のサービス共通の強みだ』と拡大解釈されるようになった印象です。そのため、実際に現場でお客様の対応をする従業員は、お客様のニーズに細かく応えることを強いられ、『もてなさなきゃ=お客様の言うことを聞かなきゃ』とプレッシャーがかかってしまっているのです」(山口さん、以下同)

その現場への負担の増加は、もてなされる側の態度にも影響している。

「おもてなしは本来、店側・従業員がお客様の気持ちを汲みとって自発的に取り組むものでしたが、最近は『お客様から出てきた要望にはできる限り応えないといけない』と解釈する人が増えています」

おもてなし=どんな要求にも応えること、と勘違いした結果、最近話題になることが増えている土下座の強要や理不尽なクレームなど、「カスハラ(カスタマーハラスメント)」につながっている可能性もある。

サービスのバラつきや生産性の低下の懸念も

「おもてなし」は、マニュアル通りにいかないもの。言い換えれば、対応する個人の裁量にかかっているということでもある。

「現場頼りの『おもてなし』は、サービスのバラつきを生む要因にもなり得ます。『あの人はやってくれたのに、この人はやってくれない』『A店ではやってくれるのに、B店ではやってくれない』と、サービスのバラつきはお客様の不満の種になりやすいのです。となると、集客といった観点でもリスクはあるように思います」

また、生産性の面でも影響があるとか。

「個別に対応するということは、過度に手間がかかるということでもあります。ただでさえ日本のサービス現場は生産性が低いといわれているのに、ますます悪化してしまうでしょう。生産性が下がれば、最終的には収益にも悪影響があるので要注意です」

「おもてなし」が経営者の怠ける道を作った!?

最後は、「経営者・管理者の怠ける道を与えてしまったこと」と山口さんは続ける。

「本来であれば、『うちが勝負できるのはこれだ』と明確なセールスポイントを決め、『他のポイントは月並みで十分』と、メリハリのきいた方向性を現場に提示していくのが経営者や管理者の仕事。ただ、その読みが当たるときがあれば、外れることもありますよね。つまり、もし読みが外れてしまうと、『経営者失格』となるリスクもあるわけです。何がお客様の満足につながって、何がつながっていないのかを判断する必要があるのに、『おもてなし』をアピールすることでそれを放棄しています」

経営者としてすべきことがあるということはわかったが、それとおもてなしにはどんな関係があるのだろうか? 正直、はじめはピンと来なかったのだが、詳しく聞いてみると納得できた。

「『おもてなししようぜ』=『顧客志向で頑張ろうぜ』というスローガンに対して、『それはおかしい』と反論したり、業績低迷の責任を問うたりする人はいないので、リスクのない経営指針です。でもそれは結局、経営としては何も言っていないのと同じこと。何で勝負するのかを決めず、『おもてなし』という曖昧なスローガンの下、何でもやってしまうことで、むしろ自分たちのセールスポイントがかすんでしまい、本来アピールすべきところが目立たなくなります」

セールスポイントが不明瞭になることで、実際にマイナスにはたらく職種もあるという。

「アフターサービスやコールセンターの世界では、余計な会話を挟むよりも、迅速に問題解決できればよいはず。それができていないなかで変に気づかいを見せると、『そうじゃなくて、早く解決してくれ』と苛立ってしまうのは、多くの方が一度は経験があるのではないでしょうか」

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が刻一刻と近づき、もっとも盛り上がっている今、その波に乗って国内外のお客様に対する「おもてなし」に力を入れている企業は多いだろう。しかし、まずはそれによって負うリスクや業態とおもてなしのミスマッチなどをきちんと理解することが大切なのかもしれない。

取材・文=明日陽樹
取材協力=山口英彦
https://mba.globis.ac.jp/curriculum/detail/svm/teacher/yamaguchi_hidehiko.html 

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