2月3日のアイオワ州党員集会を皮切りに、アメリカ大統領選挙が正式にスタートする。
日本人にはわかりにくい大統領決定までの仕組みを風間晋解説委員がわかりやすくシリーズ解説。

11月3日深夜に次の大統領が決まるまでの9ヵ月の長丁場、大統領選が終わる頃にはアメリカ大統領選の達人になろう。

アイオワ州の党員集会を理解する

選挙戦ではまず、民主党と共和党がそれぞれ、党の大統領候補者になる人を選ぶ『予備選挙』が全米の50州とコロンビア特別区などで行われ、『予備選挙』は6月6日のバージン諸島の党員集会で終了する。

まずは皮切りとなるアイオワ州について理解を深めよう。

ーー『予備選挙』はなぜアイオワ州からスタートするの?
風間解説委員:
アイオワ州は、州法で「アイオワ州から党員集会をスタートする」と決めているからです。

ーーでは、カリフォルニア州が、「我が州が一番にスタートしたい!」って言って州法で決定したら、カリフォルニア州からスタートすることもできるの?
風間:
理屈では可能ですが現実には無理でしょう。 「アイオワからスタート 」が慣例として受け入れられているからです。党全国組織も慣例を維持するつもりです。 でも、ほとんどの州は「もっと早く予備選挙を行いたい 」と望んでいます。 例えばカリフォルニア州は、前回2016年は6月実施でしたが、今回は3月への繰り上げに成功しました。 また、2008年のヒラリー氏とオバマ氏の闘いの際には、ミシガン州とフロリダ州が強引に割り込んできたため、アイオワ州の党員集会は年明け早々の1月3日に繰り上げざるを得なくなりました。そしてミシガン、フロリダ両州は党からペナルティーを科されたのです。

ーー早く始めるメリットは何?
風間:
党の大統領候補を決めるプロセスにより影響力を及ぼせるからです。カリフォルニア州が2016年6月の予備選を迎えた時、共和党の勝負は既に決着していました。トランプ候補が代議員の過半数を獲得していたのです。遅かりし・・ですよね。

「候補者」を選ぶのではなく「代議員」が選出される

ーーアイオワ州の「候補者」は何人いるの?
風間:
注目候補としてはピート・ブティジェッジ氏、バーニー・サンダース氏、ジョー・バイデン氏、エリザベス・ウォーレン氏があげられる。その他に5人ほどアクティブな候補者がいますが、アイオワ州民主党の党員集会には候補者の名前が書いてある投票用紙も候補者リストもないので、何人と言い切れないのが実情です。

そもそも『予備選挙』は、候補者の名前を投票用紙に書く形をとる場合であっても実態は直接選挙ではありません。事前に「私は〇〇候補を支持します!」と宣言している『代議員』の数を奪い合う間接選挙なんです。

ピート・ブティジェッジ氏、バーニー・サンダース氏、ジョー・バイデン氏、エリザベス・ウォーレン氏
ピート・ブティジェッジ氏、バーニー・サンダース氏、ジョー・バイデン氏、エリザベス・ウォーレン氏
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ーーアイオワ州で選出される「代議員」は何人?
風間:
代議員は州や地域の規模などによって、党ごとに人数が決められます。トランプ大統領への挑戦者として誰が選ばれるかが焦点の民主党の例を見てみると、アイオワ州は41人、全米では3979人になります。この他に、役職などによって自動的に決まる『特別代議員』もいます。

ーーその「代議員」はどのようなやりかたで選ぶの?
風間:
それぞれの候補者に対して示された支持率(得票率)に応じて、代議員の数が比例配分されます。代議員は夏の党全国大会で事前に支持すると宣言した候補者に投票します。いわば『投票マシーン』として機能するので、誰が代議員になるかは大した問題ではありません。要は人数です。

なぜ「代議員」なんていうまだるっこしいやり方をとるのかと言うと、『合衆国』のアメリカ政治では、「合衆国のことは州の代表が一堂に会して決める」のが基本だからです。その形を維持しつつ有権者の意思を公正に反映させる工夫が、州民の意を体する「代議員」が全国大会に参集して大統領候補者を決めるやり方というわけです。

ーー「党員集会」と「予備選」ってどう違うの?
風間:
『予備選挙』には「予備選」と「党員集会」の2種類があり、どちらを選択するかは各州の判断にゆだねられています。アイオワ州は、1972年以降、「党員集会」を続けています。『党員集会』は2016年の選挙では14州で行われましたが、今回2020年は3州に減りました。

「党員集会」は参加者の意思をその場でとりまとめる。
「予備選」は投票で意思表示という違いがあります。

余談ですが、私は「党員集会」を続ける州は遠からずアイオワ州だけになると予想しています。以下に記す通り、「党員集会」はいろいろややこしいし、投票に比べて参加者の拘束時間も長くなるので敬遠されがち。「予備選」に替わっていく流れにあります。しかし、アイオワは最後まで「党員集会」にこだわります。アイオワは州法で「最初の党員集会」と決めていますが、「最初の予備選」はニューハンプシャー州がやはり州法で決めています。もしアイオワが「党員集会」をやめてしまったら、「予備選挙はアイオワからスタート」の特権を放棄することに直結してしまいます。だからアイオワは「党員集会」をやめられません

ーー投票できるのは誰?
風間:
アイオワ州民主党の「党員集会」の場合は、民主党の党員に限られます。しかし、集会当日に会場で党員登録することが可能です。共和党支持でも無党派でも、その気になれば民主党の党員集会に参加できるし、劣勢の候補者は当日参加者が増えることを期待していたりします。 「予備選」も、党員として登録した人だけが投票できる「閉鎖型」と、党員登録に関係なく誰でも投票できる「開放型」があります。今回の予備選挙では共和党はトランプ大統領が再指名されるのがほぼ決定なので、「開放型」の州では、共和党支持者の少なからぬ人達は共和党ではなく民主党の投票所に行くことが考えられます。

体育館や教会、住居のリビングルームなどで

ーーどういうやり方で、誰が選ばれるの?
風間:
民主党の党員集会はアイオワ州内1678ヵ所の地区集会所と90ヵ所を超える特設集会所で行われる。公民館や学校の体育館、教会、個人宅のリビングルームなど指定の会場にその地区の参加者が集まり、話し合いや説得のプロセスを通じて候補者についての意見を取りまとめます。先ず支持する候補者別に参加者がグループ分けされる。その後、グループの人数を数えて全員の15%に満たないグループは解散=支持する候補者は脱落となります。

2回目のグループ分けもあって、15%以上のグループの人はそのままで、15%に達しなかったグループの人たちは15%以上のいずれかのグループに移ってもいいし、パスしてもいい。最終的に残ったグループの人数の比率で、獲得する代議員の数が決まります。実際には細かい規定がいろいろあり、とてもややこしいことになっています。

共和党は州によって比例配分する州や、1位の候補者が州の全代議員を獲得できる「総取り」する州もあります。「総取り」州はほとんど「予備選挙」の後半戦の州です。大勢が決まりつつある中で、州の意思をより明確な形で示す狙いがあるのでしょう。

ーーどうして州によって候補者が異なるの?
風間:
多くの候補者は全ての州で立候補手続きをしていますが、「予備選挙」はサバイバル戦です。スタートのアイオワ州で振るわなかった候補者は、すぐに選挙戦から離脱していきます。2月に行われる「党員集会」「予備選」は、弱小候補者のふるい落としとも言われます。

また、ブルームバーグ氏のように3月から本格参戦する候補者もいます。出馬宣言がギリギリまで遅れたため、準備が間に合わないことも理由ですが、それ以上に、3月3日のスーパーチューズデーに狙いをしぼる戦略です。その日だけで1344人もの代議員が決まることを考えれば、2月の合計155人は顧みなくていいという割り切りでしょう。

スーパーチューズデーから参戦する予定のブルームバーグ氏
スーパーチューズデーから参戦する予定のブルームバーグ氏

ーー『予備選挙』と「予備選」はどう違うの?
風間:
2月3日のアイオワ州の党員集会から11月に大統領が決定するまでの9カ月間は、民主党と共和党がそれぞれの党の大統領候補者を決める『予備選挙』と大統領候補者同士が直接対決する『本選挙』に分けられます。この『予備選挙』のプロセスで、上述したように、【予備選】を行う州と【党員集会】を行う州があります。英語ではどちらもprimay といわれるのでちょっと混乱してしまいますね。

ーーなぜ「アイオワを制するものは大統領選を制する」と言われるの?
風間:
例えば2008年の民主党予備選挙で、オバマ候補は大本命視されていたヒラリー候補を初戦のアイオワで破り、全米の注目をひきつけ、選挙資金も一層集まるようになりました。そして大統領に当選したのです。

「予備選挙はサバイバル戦」と言いましたが、初戦のアイオワで勝つと大いに勢いづいて勝利に近づくことができる‥という経験則が、「アイオワを制するものは大統領選を制する」の背景にあると思われます。

一方で、アイオワで勝った15人の候補者が本選挙で敗北。アイオワと本選挙の両方で勝った候補者は3人しかいない‥という数字もあります。

大統領候補者が決定したらいよいよ『本選挙』へ

6月6日のバージン諸島の党員集会で、一連の『予備選挙』は終了する。
『予備選挙』の結果が集計され正式に正・副大統領候補者が指名される場が、夏に開かれる党全国大会だ。

民主党は7月13日~16日にウィスコンシン州のミルウォーキーで、共和党は8月24日~27日にノースカロライナ州のシャーロットで開催する。開催時期は夏のオリンピックと重ならないように配慮されており、開催地はそれぞれの党が大統領選で重要視する州が選ばれるんだ。

今回はここまでを頭に入れておこう。
次回は、民主党と共和党を象徴するロバとゾウについて考えてみよう。

【解説:フジテレビ 解説委員 風間晋】
【表紙デザイン・図解イラスト:さいとうひさし】

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風間晋
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通訳をし握手の感触も覚えていたチャウシェスクが銃殺された時、東西冷戦が終焉した時、現実は『過去』を軽々と超えるものだと肝に銘じました。
「共通の価値観」が薄れ、米も中露印も「自国第一」に走る今だからこそ、情報を鵜呑みにせず、通説に迎合せず、内外の動きを読み解こうと思います。
フジテレビ報道局解説委員。現在、FNN Live news α、めざまし8にレギュラー出演中。FNNニュースJAPAN編集長、ワシントン支局長、ニューヨーク支局記者など歴任。