イランでコロナウイルスの感染が急拡大

中東のイランで、新型コロナウイルスの感染が急拡大している。初めて感染者が確認されたのは2月19日だが、26日までの感染者は139人、死者は19人に達している。死者数は中国に次ぐ多さだ。

周辺国の感染者も増えている。これまでにイラク、クウェート、バーレーン、オマーンなどでも感染者が確認され、いずれもイランへの渡航歴があったという。こうしたことから、感染者が出たクウェートやオマーンだけでなく、トルコなど複数の周辺国が航空便を停止。また、トルコやイラク、パキスタンなどはイランとの国境を一時閉鎖した。

イランでは中部コムを中心に感染が広がっている。ここにはイスラム教シーア派の聖地があり、巡礼などで多数の外国人が訪問するという。感染拡大の原因は不明だが、アメリカによる経済制裁に苦しむイランは中国への経済依存度が高く、多くの人が中国とイランを頻繁に行き来する。

当局への不信感

イランでは、政府が感染規模の実態を隠したり発表を遅らせているのではないかという疑念がSNSなどを通じて広がっている。実際、国内での感染疑い例が報じられたのは、2月11日「革命記念日」の翌日だったが、当局は即座に報道を否定。しかしその後、19日になって初めてイラン人感染者2人の死亡が発表された。イラン国内初の発表は、いきなりの死亡例だった。かろうじて21日に行われた議会選挙前に発表されたとはいえ、テヘラン市民はわれわれの取材に対し「革命記念式典への参加や議会選挙の投票率を上げるため、当局は発表を遅らせているのだろう」と語った。

副大臣が自ら感染を公表

こうした中、新型ウイルスの感染拡大防止に取り組んできたイラン保健省のハリルチ副大臣は25日、動画を通じて自らウイルスに感染したことを公表した。「私もコロナに感染した」と明かした上で、こぶしを握りしめて「コロナウイルスに勝つ!みなさん、安心してほしい」とカメラ目線で強気に語りかけた。

こぶしを握り締めながら「ウイルスに勝つ!」と訴えるハリルチ副大臣
こぶしを握り締めながら「ウイルスに勝つ!」と訴えるハリルチ副大臣
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実はこの前日、ハリルチ氏はイラン国内のウイルス感染状況を説明する記者会見に出席していた。「中部コムで感染者50人が死亡した」とされる情報については完全に否定したが、会見中に額の汗を何度も拭う様子を見せていた。ハリルチ氏のすぐ隣には大統領府報道官が立ち、会場には国内外のジャーナリストがいた。感染拡大が懸念される中、明らかに体調が悪いにも関わらず現場の担当者が記者会見を続けたことには疑問を感じるし、この場で感染が広がったとしても驚かない。ハリルチ氏は感染発覚後の動画で「完治した後にはウイルスに打ち勝つために働く」とも述べていたが、保健当局は適切な危機管理ができているのだろうか。

記者会見中に額の汗を何度も拭くハリルチ副大臣
記者会見中に額の汗を何度も拭くハリルチ副大臣

拡大を抑制できなければ、更なる「孤立化」も

影響はイランの周辺国だけではない。日本の外務省は26日、イランに対する感染症危険情報をレベル2に引き上げ「不要不急の渡航自粛」を呼びかけた。イラン在住の日本人や渡航者に対しては、早期の一時帰国や渡航延期を含む安全確保を至急検討するよう求めている。

また、アメリカのポンペオ国務長官は25日の記者会見で、イランが新型コロナウイルスの感染拡大状況に関する詳細を隠ぺいせず、事実を説明するよう訴えた。

イランでは21日に議会選挙が行われ反米の保守強硬派が圧勝し、国際協調路線を進めてきたロウハニ大統領を支える穏健派は大きく議席を減らした。アメリカとの対話は遠のき、ただでさえ制裁で国内経済への打撃が深刻化する中、このまま新型コロナウイルスの感染拡大を抑制できなければ、今後さらなる「孤立化」が進むことも懸念される。

【執筆:FNNイスタンブール支局長 清水康彦】

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清水康彦
清水康彦

国際取材部デスク。報道局社会部、経済部、ニューヨーク支局、イスタンブール支局長などを経て、2022年8月から現職。