“いたずらの王者”は子どもたちのヒーロー

毎日のように書籍が出版されても、時代を超えて人々に愛される作品がある。
人気児童書の『かいけつゾロリ』シリーズもその一つだろう。

擬人化された動物が暮らす世界を舞台に、いたずら好きなキツネの「ゾロリ」と子分の双子イノシシ「イシシ」と「ノシシ」がさまざまな冒険を繰り広げる物語で、1987年のスタートから30年以上経った今でも、新しい作品が出版されている。

シリーズ1作目と(左)と最新作(右)。(作/絵  原 ゆたか ポプラ社)
シリーズ1作目と(左)と最新作(右)。(作/絵  原 ゆたか ポプラ社)
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彼らは“いたずらの王者”を目指して悪巧みをするが、いつも失敗してばかり。
それでもめげずに挑戦を続け、ときにはその行動が誰かを救ったりもする。面白おかしいギャグを交えつつ、大切なことを教えてくれるゾロリたちは、子どもたちのヒーローだ。

ゾロリたちは面白おかしく、大切なことを教えてくれる(画像提供:ポプラ社)
ゾロリたちは面白おかしく、大切なことを教えてくれる(画像提供:ポプラ社)

そんな名作たちは、ある夫婦によって生み出されてきたことをご存じだろうか。

それが、原作者の原ゆたかさん、妻の京子さん夫婦。ゆたかさんは作家・イラストレーター、京子さんが絵本作家だったため、アシスタントなどを雇わずに夫婦で制作してきたという。

クリエーター同士の夫婦二人での共同作業と聞くと、もちろんプラスの面はたくさんあるだろうが、二人の距離感など夫婦だからこそ気になることもある。
名作が生まれる裏側には、どのようなエピソードが隠れているのだろう。作品制作の仕方から夫婦の関係性までお二人から話を伺った。

「全然タイプじゃない」から結婚へ

ゆたかさんと京子さんが出会ったのは、約40年前のこと。
京子さんが通う絵本講座に、卒業生のゆたかさんが遊びに来たことから始まった。

当初から恋仲を予感させたわけではなかったが、互いに絵描きを志望していたこと、映画という共通の趣味を持っていたことが、二人を引き合わせた。ゆたかさんが月刊誌に掲載していた絵本制作を手伝うようになり、交際に発展していったという。

原ゆたかさん
原ゆたかさん

当時の印象について二人は、「映画や絵画を見ても、真面目なものから変なものまで面白がってくれた。自分が好きな世界を見せたいと思った」(ゆたかさん)、「全然タイプじゃないけど、面白い人だなと(笑)見たことのないものを教えてもらった」(京子さん)。

その数年後、二人は晴れて結婚。仕事がぱったりとなくなった時期もあったというが、京子さんはアルバイト、ゆたかさんは出版社回りをして、何とか仕事を見つけていた。

当時の出版業界では、絵描きや作家同士の結婚はうまくいかないのが常識だったらしく、個人的な交流があった、故・やなせたかしさん(『アンパンマン』の原作者)には、会う度に「まだ一緒に居るのか君たちは。いつ離婚するの?」などと、笑いながら冗談を言われたという。

京子さんはゾロリの“最初の読者”

こうした中、1987年に刊行された児童書『かいけつゾロリ』がヒット。
シリーズ作品は60以上にのぼり、今も年2冊のペースで新作が出版される代表作となった。

そしてこのゾロリシリーズ、原作は完全に夫婦二人三脚で制作されている。

二人の役割はゆたかさんが物語と絵を描き、京子さんが校閲する形だ。ゾロリの世界観を理解していて文章力にも長けている京子さんは、今では制作に欠かせない存在という。

原京子さん
原京子さん

挿絵とのバランスを考えて文字数を調整するだけでなく、子どもにも伝わるような言葉選びをする。もしも面白くなかったり、物語からそれているときには指摘して、お互いが納得するまで話し合う。そのため、「嫌な雰囲気になることもたくさんある」(京子さん)というが、夫婦だからこそ、自由に言い合える関係があるという。

ゆたかさんは、そんな京子さんを“最初の読者”と表現。「他の作家さんだと気を遣い、折れなきゃいけないこともある。家なら延々話せると思ったけど、それはそれでとんでもないことを選んだ(笑)。出会った頃から同じものを見て話し合えてきたことが、今にリンクしているような気もします」(ゆたかさん)

初期と現在を比べると、だいぶマイルドになった(画像提供:ポプラ社)
初期と現在を比べると、だいぶマイルドになった(画像提供:ポプラ社)

例えば、作中に登場する女の子のファッションデザインなどは、京子さんが担当することが多いという。ゾロリシリーズはアニメ化もされているが、京子さんのアイデアでこの頃から、原作のイシシとノシシも可愛らしくデフォルメされたとのことだ。
ちなみに、原さん夫婦の作業場は別々にしているそうだ。

10年越しの新作に込めた思い

そんな原さん夫婦が、ゾロリシリーズとは異なる思いで制作する児童書がある。

それが『イシシとノシシのスッポコペッポコへんてこ話』。イシシとノシシが奇想天外な物語を語って聞かせるシリーズもので、京子さんが文、ゆたかさんが絵という夫婦合作の作品だ。

これまでに出版された3作品。「百桃太郎」が最新作だ(文/原 京子 絵/原 ゆたか ポプラ社)
これまでに出版された3作品。「百桃太郎」が最新作だ(文/原 京子 絵/原 ゆたか ポプラ社)

元々は実験的なスピンオフ作品として始まったが、今では、原さん夫婦が本で伝えたいことを表現する場所に。作中ではちょっぴり奇妙で面白い物語が展開され、一部ページが見開きのパノラマになるなど、紙の本ならではの魅力を感じられるのも特徴。

「百桃太郎」のワンシーン。迫力のパノラマページも登場する(文/原 京子 絵/原 ゆたか ポプラ社)
「百桃太郎」のワンシーン。迫力のパノラマページも登場する(文/原 京子 絵/原 ゆたか ポプラ社)

2019年10月にはシリーズ最新作として、桃太郎をベースにした『百桃太郎』も出版された。

実はこの作品、予告から約10年を経て発売に至ったもの。当初は川からモモ以外が流れてきて...というストーリーだったが、東日本大震災の発生を受けて、一から作り直したという。

新しい『百桃太郎』では、百桃太郎とそのお供たちによる面白おかしい旅、驚きの展開などが描かれていて、原夫婦の作品を見たことがない人でも楽しめる作品となっている。

今も修学旅行の夜のように

このように今も作品を描き続ける二人だが、その関係性は若い頃と変わらない。ゆたかさんが好きなおもちゃ、京子さんが好きなゲーム、お互いの好きなものを受け入れて楽しむ。今でも映画鑑賞やお笑いを見ては、その感想などを明け方まで話し合ったりするのだとか。ゆたかさんいわく“修学旅行の夜”という夫婦生活を、二人はこのように振り返った。

ゆたかさんは京子さんのことを「僕を小学生でいさせてくれる人」とも話す
ゆたかさんは京子さんのことを「僕を小学生でいさせてくれる人」とも話す

「夫婦の最後はどちらかが一人になるけど、思い出は同じ体験や失敗をしなければ語れない。それが一緒に暮らしてきたことの宝なのかな。もしも、知らない人と旅行をしても『京子さんなら、ああ思ったのに』と感じてしまう。何気ないことに『そうそう』といってくれる相手が隣に居てくれるのは、すごく大事なことじゃないのかな」(ゆたかさん)

「ずっと話せる相手がいるというのはいいこと。急に思いだしたのは、『恋人たちの予感』という映画で、彼が彼女に『1日の最後におしゃべりしたいのは君だ』とプロポーズすること。(自分にとって、ゆたかさんは)夜に延々と話したい人なのかなと思う」(京子さん)

いつも自然体で、思ったことがあれば納得するまで話し合える。ゾロリシリーズをはじめとする原夫婦の作品は、そんな着飾らない関係で成り立っているのかもしれない。

「彼女(京子さん)が書く話はほっとする優しい話。自分の世界観の話も完結させたいところはあるだろうし、ここからは時間との問題。(夫婦生活は)今すぐストーリーが完結するわけじゃないから、もう少し頑張っていこうぜ、という感じかな(笑)」(ゆたかさん)

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。