気象庁「線状降水帯」情報発表へ

東海地方から西では平年より驚くほど早く梅雨入りし、5月から各地で大雨による被害が相次いだ。

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5月に発表された気象庁の長期予報によると、梅雨明けは平年並みということなので雨の季節は長く続く見込みで、土砂災害や河川の氾濫などに厳重な警戒が必要だ。

本格的な大雨の季節にあわせて、気象庁は6月17日から新たな防災気象情報を発表する。

キーワードは「線状降水帯」だ。

予測が難しい「線状降水帯」

みなさんは「線状降水帯」と聞いて、どんな状況を思い浮かべるだろうか?

ここ数年ニュースなどで大雨をもたらした原因を解説する際に、気象レーダーで赤や紫に染まった雨域の映像とともに頻繁に発信されたことで世間の認知度が急速に高まったワードだが、「なんだかものすごい雨が降って洪水や土砂災害など大きな災害を引き起こすもの」として理解している人が多いのではないか。

令和2年7月熊本豪雨の時の「線状降水帯」

これまで「線状降水帯」の発生によって大きな被害が出た事例としては、平成26年広島豪雨、平成27年関東・東北豪雨、平成29年九州北部豪雨、平成30年7月豪雨、そして令和2年、2020年7月の熊本豪雨などがある。

線状降水帯」とはどんなものなのか?

発生するメカニズムを簡単に言うと、暖かく湿った空気が流れ込んで発達した積乱雲が上空の風に流されながら線状に連なって、同じ場所で予想を上回るような集中豪雨となる現象だ。

しかし、短時間に狭い地域で発生するため、今の技術では、いつどこで発生し、どのくらいの雨を降らせるかを予測することは非常に難しいとされる。

「線状降水帯」の“予測”ではなく、“発生”を知らせる

では、予測できない「線状降水帯」について、気象庁は何を発表しようというのか。

6月17日から気象庁が発表するのは、「線状降水帯」が発生したことを知らせる情報だ。

「線状降水帯」によって非常に激しい雨が同じ場所で降り続いていて、土砂災害や洪水の危険度が急激に高まっていることを伝えるとしている。

気象庁は2030年を目標に、将来的には線状降水帯が発生する半日前に予測情報を発表できるよう、流れ込む水蒸気量を正確に把握するための観測体制の強化や予測手法の研究開発などを進めているが、今回は残念ながら予測情報ではない

発生情報を発表する気象庁の狙いについて4月の定例会見で長谷川直之長官が答えている。

「この情報の役割の大きなところは線状降水帯という非常に危険な気象の状況であるということを皆さんが気づき危機感を高めていただいて、もし避難を迷っているようであれば直ちに避難ということを考えていただきたいと思いますし、初めてこの情報を見たというのであればこの情報をもって、避難の情報が出されていないかどうか、自分の周りがどうなっているのかということをすぐに確認をして、取るべき行動を取っていただきたい」

会見する気象庁 長谷川直之長官 4月21日

つまり、災害を引き起こす危ない現象として多くの皆さんがすでに知っている「線状降水帯」というパワーワードを使うことで、このあと急激に状況が悪くなる恐れがあり命の危険が迫っていることを強く訴える情報ということだ。

気象庁はこの情報を発表する基準として、5キロ四方の3時間の雨量が100ミリ以上あり、その面積の合計が500平方キロメートル以上かつ、その領域が幅に対し長さが2.5倍以上の「線状」であることなどとしている。

気象庁はこの基準をすべて満たした「線状の降水帯」を機械的に検知した場合に、該当する地域に「顕著な大雨に関する情報」として発表するとともに、気象庁のホームページにある「雨雲の動き」と「今後の雨」の地図上に、線状降水帯が発生した地域を赤い楕円で囲んで示すとしている。

線状降水帯発生情報」が出る状況は、すでに大雨警戒レベルでいうと自治体から「避難指示」が出るようなレベル4に相当する緊迫した状況だと言える。

この発生情報が、ひとりでも多くの命を救いたいとう気象庁の狙い通り、避難を迷っていた人、危険な状況に気づいていなかった人の背中を押してやるトリガーとして期待される一方で、その時点では周囲の状況は想像以上に深刻で、屋外に出ることで命が危険にさらされることも考えられる。

この情報を受けた場合、自治体からの避難情報の確認と周囲の状況を見た判断が重要になってくる。

また、新たな情報の追加によって、受け手である住民や行政が混乱しないかという懸念もある。

ただでさえ防災情報が多すぎて、どの情報で逃げたらいいのかよく分からないのに、また情報が増えるのかという声があるのも事実だ。

 
豪雨で14人の入所者が犠牲になった熊本県球磨村 千住園 2020年7月

2020年7月の熊本豪雨での球磨村の事例では、気象庁から「大雨警報」、「土砂災害警戒情報」、「記録的短時間大雨情報」が2回出ているうちに「大雨特別警報」が発表。さらに気象情報と河川の情報をもとに球磨村からは「避難勧告」と「避難指示」が発令されるなど、次々にたくさんの情報が出ているのが分かる。

ここに新たな「線状降水帯発生情報」を当てはめると、真夜中ではあるが氾濫が発生するおよそ3時間半前、「大雨特別警報」のおよそ2時間半前に発生情報が発表され、このあと極めて危険な状況になる危機感を伝えることが出来ることになる。

これを見ると「線状降水帯」というキーワードで危機感を伝えるこの発生情報は、避難を促し被害を減らせるかもしれない意義ある情報だということがわかる。

大きな災害を引き起こす恐れがある「線状降水帯」について、予測情報を出すまでにはまだ時間がかかる。

今は観測によって発生した時点で伝えることしか出来ない未完成な情報だけれども、少しでも命を守る避難行動に役立てたい。気象庁のそんな思いが詰まった情報であることは疑いない。

政府は2021年、災害対策基本法を改正して「避難勧告」を廃止し「避難指示」に一本化するなど、情報の整理、改善に向けた大きな一歩を踏み出したが、災害のたびに増え続けた防災情報を今後さらに整理し、情報の受け手が一瞬で理解できるような伝え方はないものか。

関係省庁、自治体、そして我々報道機関が一体となって、よりシンプルに確実に避難につなげる工夫が求められている。

6月17日から新たに発表される「線状降水帯発生情報」は様々なメディアで危険な場所にいる人のもとに届けられることになる。

発表されたら適切な避難行動を

では、この情報が発表されたら、何をすればいいのか。

「線状降水帯」による非常に激しい雨が同じ場所で降り続き、土砂災害や河川の氾濫が発生する恐れが急激に高まっている状況であるため、崖や川の近くなど危険な場所にいる人は、自治体から発令されている避難情報に従い、適切な避難行動をとること。

周囲の状況を見て避難場所への避難が危険な場合は、すこしでも崖や川から離れた建物や浸水しにくい高い場所にすぐに移動すること。

周囲の状況が屋外に出ることすら危険な場合は、今いる場所の2階以上や崖から離れた部屋に移動するなど安全な場所に移動すること。

大切な命を守るためには、この情報が出る時はかなり危険な状況であることを理解して、情報発表を待つことなく早めの行動をとらなければならない

土砂災害や洪水などのリスクが高い地域では、自治体の避難情報や気象庁のホームページで確認できる危険度分布、国交省の河川の水位情報などをもとに早め早めの避難を心がけてほしい

大雨や台風などの気象災害で、ひとりの犠牲者も出さないために・・・。

社会部気象庁担当 長坂哲夫