新型コロナワクチンの接種場所は、原則として「住民票」に記載された自治体とされている。この方針は厚生労働省が定めたもので、接種の予約に必要な「接種券」なども、住民票の所在地に自治体から発送されることになっている。

厚生労働省のウェブサイトより
厚生労働省のウェブサイトより
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ここで気になるのは、国民全員が住民票の場所を実際の居住地にしているとは限らないこと。DVの被害者など、移したくても移せない状況にある人もいるだろう。

DV被害者など移せない人もいるはず(画像はイメージ)
DV被害者など移せない人もいるはず(画像はイメージ)

厚労省が自治体向けに公開している接種実施に関する手引きでは、こうしたやむを得ない事情がある人には、住民票の所在地以外でも接種できる体制を整備する必要があるとしている。

<やむを得ない事情と考えられる者>
1.出産のために里帰りしている妊産婦
2.単身赴任者
3.遠隔地へ下宿している学生
4.DVやストーカー行為など、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者
5.入院・入所者

6.基礎疾患を持つ者が主治医の下で接種する場合
7.災害による被害にあった者
8.勾留又は留置されている者、受刑者

9.その他市町村長がやむを得ない事情があると認める者

厚生労働省が自治体向けに公開している手引きより
厚生労働省が自治体向けに公開している手引きより

そして実際、自治体によっては事前に届け出をすることで、住民票と居住地が違っていても接種を受けられるところもある。一方で手引きでは、これを無制限に認めた場合、ワクチンを効果的に割り当て、接種する体制の構築に支障が出る可能性も指摘している。

岡山県は“県内どこでも接種”を実現

接種場所を自由に選べる体制の構築は、難しいのだろうか。こうした中、住民票にとらわれない接種体制を目指している自治体もある。

岡山県では、県と県内27市町村が協定を結ぶことで、県内での個別接種ならどこでも接種を受けられる見通しになったという。5月17日の週に開始する一般の高齢者接種から適用される予定で、その後の対象者も接種場所を選べるとのことだ。

岡山県の新型コロナウイルス特設サイト
岡山県の新型コロナウイルス特設サイト

岡山県の人口は約190万人にのぼり、管理も大変そうだが、狙いはどこにあるのだろう。接種場所を選べることで、住民にどんなメリットがあるのだろうか。岡山県の担当者に実情を聞いた。

自治体間の接種体制の格差をなくせる

ーーなぜ、県内のどこでも接種を受けられる体制を目指した?

岡山県に限ったことではありませんが、都市部の市町村は医療機関や医療従事者の用意に見通しが立ちやすいですが、中小規模の市町村ではそれに限度があり、接種体制が厚いところと薄いところが出てしまう可能性がありました。

また、岡山県では岡山市や倉敷市に近隣自治体から出勤・通学する人も多く、退勤時には医療機関が開いていますが、居住地に到着するころには閉まっていることもあります。こうした課題を解決し、接種ペースの底上げにもつながると考えました。

岡山県内の接種連携のイメージ図(提供:岡山県)
岡山県内の接種連携のイメージ図(提供:岡山県)

ーー住民票の場所以外でも接種は受けられるの?

厚生労働省の方針では、コロナワクチンの接種は原則として、住民票所在の市町村内で受けることとなっております。そして、やむを得ない事情がある場合には、住民票所在の市町村外でも接種を受けることができるとされていますが、当該市町村への申請が必要です。

一方で複数市町村において、共同体制を構築した場合には、その市町村のエリア内では、どこでもワクチンを接種できる取り扱いとなっております。本県ではこれを県域全体に拡大し、個別接種に係る全県共同体制を構築することとして、県内27の市町村で合意形成しました。

ーー個別接種に限定したのは理由があるの?

集団接種には接種会場などを用意する必要があり、市町村の負担が大きくなるためです。

県内共通の接種予約システムを構築する

ーー接種の仕組みはどうなっている?

接種の流れは変わりませんが、県内の全市町村で、他市町村にお住まいの方を受け入れるための基盤が必要であると考えております。例えば、県内のどこの接種施設であっても、すべての県民のワクチン接種を受け付けられるような仕組みが必要です。

そのため、県では全県民のデータベースを整えるとともに、ネットと電話で申し込める県内共通の接種予約システムの構築を予定しております。接種記録の管理については、内閣官房が開発している接種記録の管理システムを採用する予定です。

ーー今回の接種体制でどんな効果が期待できる?

市町村をまたいで通勤・通学する方など、日常生活の大部分を居住地外で過ごされる方の接種機会や利便性を確保すること、医療機関の少なさなどで、ワクチンの接種体制を確保することが難しい自治体をカバーするなどの効果を期待しております。また、県内の市町村間での接種体制・スピードなどの均質化などが図られるとも考えています。

帰宅途中での接種など選択肢が広がる(画像はイメージ)
帰宅途中での接種など選択肢が広がる(画像はイメージ)

ーー特定の市町村に接種が集中することはない?

岡山県の場合、4月中旬現在ではワクチンの供給量が少ないので、接種施設の接種能力に応じたワクチン配分が必要になってくると考えております。ただ、5月中旬以降は多くのワクチンが届くと想定されていますので、接種自体に問題はないと思います。後はマンパワーの問題になりますが、接種能力をいかに増やしていけるかでしょうか。
 

ーー県民には接種体制をどう活用してほしい?

ワクチン接種を希望される方は、ご自身の生活スタイルなどにあわせて、県内の接種施設の中から予約をとり、接種を受けていただきたいと思います。

生活スタイルを考えて接種場所を選択してほしいとしている(画像はイメージ)
生活スタイルを考えて接種場所を選択してほしいとしている(画像はイメージ)

やむを得ない事情の人も含めて、住民票が岡山県内の場合、予約すれば県内どこでも受けることができる。今は通勤・通学で自治体をまたぐことも珍しくはない。岡山県の取り組みは、住民の選択肢を増やすことにもつながるはずだ。

その他の自治体でも、住民票と居住地が違っても接種を受けられることもあるので、該当する人は市町村のウェブサイトなどを確認してみてほしい。
 

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プライムオンライン編集部
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