(冒頭画像:ウェザーニュース提供)

異次元台風が次々来襲した2019年

令和元年の秋、異次元ともいえる台風が次々と日本を襲った。
台風15号の暴風による送電線の倒壊は、千葉県を中心に人々の生活から長きにわたり明かりを奪った。
また台風19号がもたらした記録的な豪雨は堤防を切り裂き、濁流は住宅を呑み込んだ。死者行方不明者は100人を超える甚大な被害となった。

地球温暖化の影響で海水面温が上昇し続ければ大気中の水蒸気量は多くなるため、今後も台風がもたらす豪雨は増えるだろうということは研究者の意見の一致するところだ。
そして大量の雨をもたらす台風の接近上陸が、大規模な洪水害や土砂災害に直接つながることは今年の台風を見れば明らかだろう。

令和の“災害新時代”に備えるために、台風研究の最前線を取材した。

航空機で台風に飛び込み直接観測

名古屋大学、琉球大学、気象研究所、国立台湾大学、台湾中央気象局で構成される研究グループは2016年度から5年計画で「航空機を使った台風の直接観測」を共同で実施している。来年2020年度が研究の集大成だ。
この研究で台風の強度推定と予測を今よりも格段に向上させ、台風に伴う暴風や豪雨による災害の軽減に貢献することを目指している。

航空機で飛び込んだ“台風の目”(映像提供:琉球大学/T-PARCⅡ 「日曜報道 THE PRIME」12月8日放送より) 
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「航空機を使った台風の直接観測」には、研究グループと日本のメーカーが2016年に共同で開発した“ドロップゾンデ”という観測装置が使われている。
初の国産“ドロップゾンデ”は既存の装置の抱える問題点を改善した最新のもので、直径7㎝、長さ30㎝、重さ100g程の円柱型の機器だ。
研究者を載せた航空機は海上およそ13㎞の上部対流圏を旋回しながら、台風をめがけて次々に“ゾンデ”を投下していく。

“ゾンデに”内蔵されたセンサーは気温、気圧、湿度などを観測しGPSを使って風も測定できる。
台風の中を通り海に落下するまでのおよそ30分間、“ゾンデ”の観測データは航空機で受信し記録する。

「日曜報道 THE PRIME」12月8日放送分より
航空機から“ドロップゾンデ”を投下し観測(「日曜報道 THE PRIME」12月8日放送分より)
(提供:琉球大学理学部 「日曜報道 THE PRIME」12月8日放送分より)

さらに2018年度のフライトでは気象庁をはじめ世界の気象機関へデータをリアルタイムで配信することに成功している。
研究グループは日本の研究者として初めて2017年の台風21号、2018年の台風24号に対して猛烈な台風の貫通飛行を9回成功。
2017年は2日間で26個、2018年には4日間で65個の“ゾンデ”を投下し、データ回収率はおよそ95%という結果を残している。
2018年の観測飛行では、直接観測のデータを取り入れることで、台風進路予想で最大16%の改善や強い雨の量の予想の精度を上げる実績を残している。

台風の直接観測のデータが予想精度の向上につながるのはなぜだろうか。

台風が生まれ通過する海上には気象観測点がないため気象庁は、日本に近づく台風を気象衛星ひまわりがとらえた画像をもとに過去の雲のパターンから「中心気圧」や「最大風速」など台風の強度を推定しており、直接測っているわけではない。
そのため予測にはあいまいさが残ってしまうのだ。

研究グループによると、あいまいさを減らし台風予報の精度を向上させるためには、「中心気圧」など航空機を使って直接観測することが大きな役割を果たすとしている。

一方で、航空機観測には1回の研究で1000万から2000万円程度かかるため、5年計画の研究プロジェクトが終わった後の本格導入への目途はたっていないのが現状だ。

研究者の1人、琉球大学の伊藤耕介准教授はこうした課題の解決策として、国を挙げての台風防災の取り組みが必要だとしている。

「“ドロップゾンデ”による直接観測によって正確な中心気圧や水蒸気量のデータを取るためには、気象庁が航空機を持つのか、例えば自衛隊の航空機を使うなど政府主導の災害対策ができる継続的な体制が望ましい。我々の実験を無駄にしてほしくない。」

台風などに伴う暴風や豪雨被害に対する保険金の支払い額は毎回数千億円に及ぶ今、災害に対する防衛力を上げるために航空機観測に投資することも必要ではないかというのが研究者の考えだ。

日本に大きな被害をもたらす恐れのある台風に対して、海上にある3日から4日前にもっと正確に「どこを通って、どれくらいの雨を降らすか」がわかれば確実に被害の軽減につながるだろう。

(「日曜報道 THE PRIME」12月8日放送分より)

“ツボ”を押して台風を逸らせる!?

アメリカや台湾に比べ日本は台風の航空機観測に関しては、ようやく一歩を踏み出したばかりではあるが、研究グループは将来に驚くべき夢を抱いている。

将来は無人航空機による台風監視を行いながら、災害危険度の高い台風が日本に近づいた場合に、列島直撃を避けるように進路を変えたり勢力を弱めたりする「人工的な制御」が理論上可能だというのだ。

「台風にはここを押すと効くツボがあって、そこをきちんと押すことがポイントだ」

(「日曜報道 THE PRIME」12月8日放送分より)

伊藤准教授は具体的な方法について明言を避けたが、大きな被害をもたらしそうな台風に、環境や構造に変化を与えるようなある衝撃を加えることで、速度や進路を変えることはできると考えている。
危険な台風を自在に操ることが出来れば、そこには、ひとりの犠牲者も出さずに済む日が待っている。