時代は流れ・・・・

「下・R・上・L・Y・B・X・A」
この呪文のようなフレーズを20年以上経った今でもはっきり覚えている。私が小学生の時に大流行したゲームソフト「ストリートファイター2」のいわゆる“裏ワザ”だ。

コントローラーのボタンをこの通りに押すと、一緒に遊ぶ人と同じキャラクターを選択することが出来るというもので、当時、ほとんどの友人たちがこれをそらんじることが出来た。親から「ゲームは一日1時間、宿題が終わってから」と厳命されていたが、友人たちより早くクリアしようと親の目を盗んではゲームにかじりついていた。

ステージ上の戦いに観客の熱い視線が注がれる。

ド派手な光と音の演出の中、他人のゲームプレイを楽しむ“スポーツ”

時代は流れ、今やゲームは「eスポーツ」と呼ばれるようになり、ストリートファイターはスポーツの“種目”となった。

12月15日、アメリカ・ロサンゼルスで「ストリートファイターV」の世界大会が開かれ、世界のトップ選手が集結した。実は今、このゲームの大会は1年を通してアメリカ、カナダ、イギリス、フランス、中国、シンガポールなど世界中で開かれていて、選手たちは各国を転戦し、年間を通じて上位の成績を収めたトップ選手ら32人のみがこの「世界一決定戦」に出場できることになっている。

世界のトップ選手たちが集結

会場は2000人以上を収容できるロサンゼルスの人気ライブハウス。入場料は約70ドル(約7600円)からで、約150ドル(約1万6000円)のVIP席もある。ゲームをするのが楽しいのはよく分かるが、人がゲームをしているところを入場料を払ってまで見るというのは何となくしっくりこなかった。しかし、会場に一歩入ればそんな気持ちは吹き飛んだ。

場内はド派手な光と音の演出が施され、まるで人気アーティストのライブ会場のよう。華々しいアナウンスと共に選手がステージに登場し、壇上でゲームの対戦が始まる。その様子は巨大なスクリーンに映し出され、観客たちは応援する選手(の動かすゲームキャラクター)が相手選手を追い詰めていくたびに絶叫にも似た歓声を上げ、会場内はものすごい熱気に包まれていた。

「ううぉぉぉーーーー!!」熱気に包まれる会場。

・・そういえば、野球やサッカーのスタジアムもこんな感じだ。自分でプレーしなくても、目当ての選手やチームに声援を送り、その一流の技術を見ているだけでワクワクする。なるほど、その点では間違いなくこれは「スポーツ」だ。

ストリートファイターは今も子供たちに大人気

世界王者誕生の瞬間

今回は日本人選手も15人出場していたが、勝ち進んだ選手は惜しくもベスト4で敗退し、決勝はアメリカ人選手の対決となった。世界のトップしか出場していないわけだからどの試合も盛り上がるのだが、地元選手の試合となると別格で、その熱狂たるや凄まじい。決勝は会場が揺れるほどの大歓声に包まれ、最終的にニューヨークから参戦した23歳のiDom(アイドム)選手が見事初優勝、賞金25万ドル(約2700万円)を手にした。

優勝したiDom選手:
「優勝できて本当に最高だ。多分、自分が勝つとは誰も思ってなかっただろうから、本当に夢のようだ。」

世界王者となったiDom選手。賞金約2700万円を手にした。

“世界王者”誕生の瞬間に立ち会った観客たちも、興奮気味にこう話す。

観戦した男性(24):
「アメリカ人同士の決勝を間近で見られて本当に最高です。緊張感があって素晴らしかった!」

観戦した女性(40):
「私の夫と9歳の息子がこのゲームをやっていて、これまで私は見るだけだったんですけど、今日の試合を見て自分もやってみようと思いました」

年々人気が高まる「eスポーツ」。総務省の調査によると世界の市場規模は2年後にはおよそ1765億円に達し、ネットなどによる競技視聴者数はおよそ5億6千万人になると予想されていて、将来的にはオリンピック種目入りも議論されている。

「江崎グリコ」がeスポーツ市場に参入

この市場を企業も放っておかない。会場の一角にブースを構えていたのは日本の大手菓子メーカー「江崎グリコ」だ。今回初めてeスポーツ市場に参入した。看板商品「ポッキー」の認知度を海外でもっと上げていきたいと考える江崎グリコにとって、この市場はうってつけだという。

江崎グリコ アシスタントグローバルブランドマネージャー 玉井博久さん:
「他のスポーツではプレーしながらお菓子を食べるという場面はあまりありません。でもゲームなら遊びながら食べられます。我々の商品を身近に置いてもらえるのでPRしやすいんです」

江崎グリコのブース。お菓子を配るわけでもなく・・ひたすらゲームで遊ぶ

eスポーツ市場には既に多くの企業が参入し、「大会会場にロゴや看板を掲げる」、「プロゲーマーのスポンサーになる」などのやり方で自社のPRを行っているが、江崎グリコは一風変わったユニークな手法を取り入れた。なんと「ポッキーとストリートファイターのオリジナルコラボゲーム」を作ってしまったのだ。

雰囲気はストリートファイターとほぼ一緒だが、自分のキャラクターの体力が残りわずかになった時、その表示がまるでポッキーに見えることからこれを「ポッキーチャンス」と呼び、その瞬間に相手を倒す「ポッキーK.O.」を目指すというものだ。

左上の体力ゲージにご注目。・・確かにこれはポッキーだ。いざ、ポッキーチャンス!

来場者にこのゲームで遊んでもらうことで、まずはポッキーという名前やビジュアルを覚えてもらおうという仕掛け。ブースには一応お菓子そのものも置いてあるが、積極的に配るわけでもなく、あくまでこのゲームをやってもらうのが最大のPRと考えている。

ポッキーK.O.成功!

江崎グリコ 玉井さん:
「冠スポンサーとして予算を投入するようなやり方だと、他の企業より大きくPRするためには、どちらがより多くの予算をかけられるかという、際限のないお金の戦いになります。それでは世界的大企業とは戦っていけない。他社に出来ないやり方、ポッキーじゃないと出来ないやり方を考えました。それがオリジナルゲームだったんです」

江崎グリコ 玉井さん「"ポッキーにしか出来ないやり方”で世界の大企業と戦います」

発展途上だからこそ、新たなビジネスチャンスが眠る「eスポーツ」。大会主催者は「今後の成長には積極的な企業参入が不可欠だ」と話す。

大会を主催したカプコンの辻本春弘社長:
「江崎グリコのような参入の仕方はeスポーツだから出来た手法です。eスポーツはまだまだこれから伸びていく市場ですし、他にもきっと色々なやり方が出来ると思います。現状は入場料だけでは成り立たないので今後も積極的な企業参入を呼び掛けていって、野球やサッカーといった他のスポーツと同じように認知されるようにしたいと思っています」

カプコンの辻本社長「eスポーツを野球やサッカーに負けない競技に」

将来、オリンピックスタジアムでトップゲーマーたちの戦いを見られる日は来るのか。ファンだけでなく、各企業の熱い視線が注がれている。その時に乗り遅れないよう、長年ゲームから離れていた私も最新のものをちゃんとやってみようと思う。

あの“裏ワザ”はもう使えないだろうが。

【執筆:FNNロサンゼルス支局長 益野智行】